002:青剣
「どけ!」
馬車の前に1頭の騎馬が躍り出て、その先にいる青い騎士に向かって速度を上げた。威嚇のために剣を振り上げ、その部下は単騎で先行していく。
「いかん!」
マーカスは思わず叫んでいた。青い騎士に異様な雰囲気を感じる。それも殺気の類だ。
ヒュウと風切り音が聞こえた。
次の瞬間、切りかかった男の右腕が剣を握ったまま青い騎士の前にゴロンと落ちた。
「うわあぁぁぁ!」
一瞬で腕を失った男はそのまま青い騎士の右側を通り過ぎ、叫び声を上げながら馬上から転げ落ちた。失った右腕を左手で抑え、転げまわる。
おそらく、青い騎士は背中の長剣を抜きざまに、襲い掛かって来た男の右腕を切り落とした。「おそらく」と付けたのは、その騎士が剣を抜いたところが見えなかったからだ。剣先の動きは全く追えなかった。まさに瞬時の出来事であった。
その一事だけで青い騎士の技量が途轍もないことが知れた。腕を1本切り落としても平然としている様子にマーカスはそら寒ささえ感じる。マーカスも同行の騎士たちも決して凡庸ではなかったが、明らかに技量の差があった。
「貴様!」
味方が一人切られたのを見て、他の騎士が殺気立った。二人が剣を抜き、一人が短い槍を構えて、青い騎士を取り囲んだ。
青い騎士は、先ほど抜き放った長剣の柄を両手で握りなおした。あらためて見ると長剣は通常の剣の1.5倍ほどの長さで、両刃の直剣であった。その剣が異彩を放っているのはその長さではなく、その色だった。その騎士が羽織っているマントと同じような青い色である。青銅とは違う透けるような青で、陽光に反射する色までが青白に見えた。
マーカスが止める間もなく、騎士の一人が青い騎士の左から切り込んだ。青い剣は素早く反応し、左から突き出された剣先をその剣先で弾き飛ばした。その間に右前から槍が突き出される。青い騎士はその槍の突きを身をひねってかわした。
が、かわしただけで終わらなかった。間一髪で右側の空を突いた槍を青い騎士は脇で挟み込み、右手で槍をつかんで体をさらにひねり右へ振った。
突き出した槍をつかまれた方は一瞬呆気にとられた。まさか槍をつかまれるとは予想の外だ。さらに予期していなかった方向の力に体を振られ、体勢が取れず馬上から崩れ落ちた。
「やあっ!」
もう一人の騎士が左の後ろから切りかかった。青い騎士は馬ごと振り向き、振り下ろされる剣を青剣で受ける。両手で振り下したのに、青い剣の男には左腕一本で受け止められた。先ほどの槍の一撃も、槍をつかんだだけでなく奪い取った力は尋常でない。見かけは偉丈夫というほどの体格はないが、秘めた力があるというのか。
「ぐあっ!」
剣勢を止められた騎士が喉から血を噴き出した。受けられた剣を押し込むために両腕に力を入れた瞬間だった。青い騎士が先ほど取り上げた短槍をその騎士の喉に突き立てたのだ。
喉をつぶされた男は目を見張り、ごぼっと口から血反吐を吐いた。そして、剣を上段に構えたままの姿勢で後ろに倒れていき、馬上から大地に落ちた。落ちた男の身体がビクッビクッと痙攣する。
「ええいっ!」
先ほど剣を弾かれた騎士が再度左から切りかかる。青い騎士は槍を捨てて、馬首を巡らし、その騎士に対峙した。
ガキッと剣が噛み合う音が響く。だが、次の二合目の音はなかった。青い騎士は剣を少し引いて相手の力を逃す。切りかかった男の方は剣を押す勢いのまま、やや前のめりになった。一旦引いたものの、すぐさま青い剣は剣先をひるがえした。
ざくっと鈍い音が聞こえた。青い騎士はその長剣を引くや否やすぐに戻して、相手の剣先が下がった隙に横に薙いだ。青い長剣は相手の騎士の首を一瞬で切り落としていた。血の線を引きながら、騎士の首が宙を舞った。首を失った胴は剣を構えたまま、ゆっくりと地面に落ちていった。どうっと胴が大地に落ちたのとほぼ同時に首も大地に落ちて転がった。
残った騎士たちは呆気に取られてその場を動けなかった。騎士4人があっという間に倒された。最初に腕を斬られた騎士は倒れたまま動かくなっていた。腕から大量の血が噴き出しており、大地に血の海を作っている。短槍を失った一人は土まみれのまま立ち上がったが、後の2人はすでに絶命している。
秋の風が冬の凍気ほど冷たく感じた。青い騎士が馬首をマーカスたちの方へ向けなおす。青い直剣が陽光に閃いた。数度剣を合わせ肉と骨を切断しているのにも関わらず刃こぼれもない様子で、刃先が鋭い光沢を放っていた。
「あんたたち、馬車を置いていきな!」
マーカスの後ろから女の声が響いた。いつの間にか追いかけてきていた紅の雪狼の二人がすぐ後ろで馬を止めた。
今回は戦闘シーンだけになってしまいました。
戦闘シーンはなかなか難しいです。