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青竜の騎士 ~青き聖剣の物語~  作者: 柊 卯月
第1章 朱珠北国編
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028:魔剣


 アーティスは剣を振り上げ、キュリアンに斬りかかった。キュリアンは身体を引いて避けたが、着ていたマントが引き裂かれた。高速の剣に今回はムーマも手が出なかった。周囲にいた郡兵とシャリオは思わず身を引いて、巻き込まれないように距離を取る。


 アーティスは間髪入れずに剣を振るった。キュリアンは後ろに飛ぶようにしてアーティスの剣を避けていたが、高速の剣がその影を追い、避けるのも紙一重の差だった。

 アーティスの剣は容赦なく、殺気に満ちた攻撃が疲れを知らぬように続いていく。数瞬の内に何振りしたのか、疾風怒濤の攻撃にキュリアンは次第に追い詰められていく。


「くっ!」

 ついに避けきれず、キュリアンは左の甲に剣傷を受けてしまう。

 ガキン。

 次の攻撃に、キュリアンは耐え切れず腰から剣を掴み出した。

 真っ黒な剣。剣身はもちろん鍔や柄に至るまで黒曜石から切り出したような黒の剣でった。六振りある聖剣の内の一振り。皇都アルルアから消えた闇の剣サーグ=バ-ネックである。


 かろうじて闇の剣でアーティスの青剣を受け止めたが、劣勢は変わらない。黒の剣と青い剣がつばぜり合いを始めるが、キュリアンが押されていた。

 ザザッと土を蹴る音がした。ムーマが右手の指をそろえてアーティスに向かって突き出した。その指先にナイフのような鋭い爪が閃いた。


「邪魔を、するな!」

 叫ぶとともにアーティスは振り返ると同時に長剣を薙いだ。ムーマの爪はアーティスの頬をかすったが、同時に聖剣の一撃がムーマの腹を撃った。アーティスが剣を振り切ると、ムーマの身体は吹き飛ばされたように後ろ向きに宙を飛び、12リルク(注:約10メートル)先の岩の壁に激突した。ムーマは壁に背中を打ちつけ、そのままズルズルと座るように床に落ちた。


 アーティスのその形相に、イノは息を飲んだ。これまでのアーティスは静かで、ビラトリスと戦った時でさえ、ここまで激昂することはなかった。付き合いは短いが、これほど冷静さを欠いた様子は始めてだった。イノが知らない事情がたくさんありそうだった。


 アーティスがムーマを弾き飛ばした隙にキュリアンはアーティスと3歩ほどの距離を保ち、剣を真っ直ぐに構えた。

 再び振り向いたアーティスは、黒剣を構えたキュリアンを睨み付けた。

「剣で俺に勝てるつもりか」

 キュリアンにもそれは分かっている。アーティスは剣士で、それも一流と言っていい技量がある。一方キュリアンは神師の家系で、剣は得意な方ではない。聖剣の力が同等であっても、それを使う技量の差は歴然だった。


 だが、剣技は別として、聖剣の力を使う能力は引けを取らないはずだ。聖剣六振りの中で、闇の剣は唯一魔力による制御が可能だった。

 キュリアンは己の魔力を練り上げ、黒剣にその力を込めていく。黒い小さな粒子が剣の上で踊るように飛び出し、黒い剣をさらに黒く覆った。


「くおっ-!」

 キュリアンは黒い剣を振り上げ、飛ぶように間合いを詰め、アーティスに向かって振り下ろす。黒い粒子が剣の動きに連れて宙に尾を引いて流れる。

 渾身の一撃は、だが、スッと出された青い剣に動きを止められた。青剣も青白く輝いている。聖剣同士の激突は、一瞬の衝撃を生み、アーティスもキュリアンも1歩後退った。


 お互いに腰だめに剣を構え、にらみ合う。キュリアンは再度魔力を剣に籠め始める。アーティスの方も青剣に聖力を乗せていく。それぞれの剣の周囲の空間がゆがんだように揺らめいて見えた。

 先に動いたのはアーティスの方だった。青剣を頭の横で水平に構えると、空間を突くように剣を突き出した。


 青剣の先から青い光が伸び、キュリアンを襲った。青い聖剣の先から飛び出した水の刃は、青い光を伴って一直線に空を切る。眼前に迫ったその水刃をかろうじて避けたが、右側によろめいた。アーティスの2撃目が1撃目より低めに走り、よろめいたキュリアンの腹部を襲った。キュリアンは避けきれずに、青剣の水弾の刃が右腹をかすめ黒い服が裂けて血が滲んだ。

「くっ!」

 苦痛に顔を歪めたが、右足を踏ん張って倒れるのを防いだ。そのまま黒い剣に籠める魔量をさらに増していく。

「ぐあああーっ」

 叫んだキュリアンの身体中から黒い粒子があふれ出し、黒い剣の方へ流れていく。

 そして、キュリアンは剣を逆手に持ち替え、足元の大地に突き立てた。


 すぐには何も起こらなかった。

 攻撃の意図を読み取れなかったアーティスは一瞬怯んで、少し上体を後ろに引いた。次の瞬間、アーティスの足元の大地から黒い紐のようなものが草が伸びるように何本も生え出し、アーティスの体に絡みついてきた。蔓が木に巻き付くように足や腕に巻き付いてくる。

「なっ!」

 不意のことにアーティスも反応が遅れた。絡みついた黒い蔓はアーティスの身体を拘束する。腕も足も動かせなくなった。黒い蔓には強力な魔力を感じる。その力からは簡単に逃れそうになかった。


 動けなくなったアーティスを見て、余裕が出たか、キュリアンはニヤッと笑った。その瞳は茶色から金色に変化していた。表情もどこか歪んで見える。

「ふーっ」

 キュリアンは大きく息を吐いて、首を左右に傾げた。それから、左手で右腹の傷を撫でると、出血が止まり傷口が治っていく。

 

「やれやれ」

 キュリアンは身動きが取れなくなったアーティスを始めてみるように冷めた視線を送った。まるで今目覚めたように首と肩をくりくりと動かす。アーティスも首を傾げた。キュリアンの発した声が、妙にしわがれているように聞こえた。


「あと3人だったな」

 低い声でキュリアンがつぶやいた。やはりアーティスには聞きなれない声に聞こえた。

 キュリアンの金眼が光り、大地に突き立てられた闇の剣から発する黒い淀みのような粒子の流れがさらに激しく踊った。

 するとその剣が刺さった大地から、黒い紐のような蔓が3本伸び始めた。それはぐんぐん成長するように太く長くなっていき、やがて3方向に向かってそれぞれが宙を走った。


「ぐあっ」

「ああっ!」

「きゃあ!」

 3本の黒い蔓は獲物を見つけた獣のように、角度を変えると一直線にそれぞれの獲物へ走った。2人の若い郡兵とイノがその蔓に捕らえられ、宙に吊り上げられた。

 イノは持っていた剣を黒い蔓めがけて振り下ろしたが、固い石に当たったように金属音を立てて弾かれた。黒い蔓は細い腰に絡みつき、離そうとしない。あっという間に体が宙に浮き、部屋の真ん中の穴の方へ引き寄せられていく。


「イノ!」

 ダフが叫んでイノを捕まえようとしたが、黒い蔓の動きは速く、手を出す間もなくイノの身体は手が届かない位置まで持ち上げられていた。

 その声にアーティスは唯一自由が利く首を向けた。その眼に宙にさらわれていくイノが映った。



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