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青竜の騎士 ~青き聖剣の物語~  作者: 柊 卯月
第1章 朱珠北国編
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027:妖女


 アーティスの叫び声にキュリアンは軽く右手を挙げた。

「やあ、久しぶりだな、アーティス」

 その馴染みのある声に、アーティスが唇を結んだ。

「キュリアン!」

 アーティスは叫ぶことと、駆けだすことと、背中の剣を抜くことの3つを同時に行い、黒い服を来たキュリアンに斬りかかった。


 キュリアンは慌てて、右に飛んでアーティスの攻撃をかわす。アーティスは空を切った長剣をそのまま後方へ一回転させて、その流れで左へ振った。

 だが、その剣の動きはキュリアンに届かなかった。


「ちょっと、危ないわよ」

 いつのまにか、アーティスとキュリアンの間に紫服の女が立っていた。しかも、その女は左手の親指と人差し指でつまむようにして青剣を受けて止めていた。聖剣の力も使っていないし、渾身の一撃というわけではなかった。だが、指2本で止められるほどゆるい剣でもない。


「お前は・・・」

 思わずアーティスはつぶやいた。人ではない。続く言葉は声にならなかった。

「あら、はじめましてだったわね」

 女は明らかにアーティスの言葉をはぐらかすようににっこりとほほ笑んだ。妖艶という文字通りの笑顔であった。

「ムーマと申します。アーティス()()


 その語尾に驚いたのは、イノとダフだった。

「王子?」

 確かにその女ームーマはそう言った。(なり)や立ち居振る舞いから、貴族の出だろうとは思っていたが、その上であったとは。王侯など見たこともない山賊風情では思いもよらないことだった。戦いが始まってから驚くことばかりで、驚くという感覚が麻痺してしまいそうだ。


 アーティスは毒気を抜かれたように全身の力が抜けた気がした。

 ムーマはその様子を見て、思い出したようにつまんでいた剣を押し戻しながら離した。

「あら、いやだ。こんなものを持っていたらお肌が荒れちゃう」

 無邪気そうにムーマは言い、先ほどまで聖剣をつまんでいた親指と人差し指を合わせてすりすりとこねるように指を動かした。合わせた指の表面から黒い小さな粉のようなものがパラパラと落ちる。アーティスはそれが聖剣に直接触れた魔物の崩壊した皮膚であることを悟った。人どころか魔物そのものらしい。だが、アーティスの剣を指で止めた技量から並みの魔物でないことも分かった。


「せっかくの再会なんだから、もう少し穏やかに旧交を深めるのがよくなくって」

 ムーマはアーティスとキュリアンの顔を交互に見やりながら、微笑む。上半身が振れるときにふくよかな胸が左右に揺れ、怪しげな香りを放つように見えた。

 アーティスは剣を構えたまま、1歩後退った。剣を出すにしても間合いが近過ぎる。だが、それよりもムーマの得体の知れない雰囲気の飲まれないように本能的に下がってしまう。


「お前には返してもらわないといけないものがたくさんある」

 アーティスはムーマを無視して、キュリアンを睨みつけた。ムーマは無視されたことに少し首を傾げ、ふふんと微笑んで見せた。その視線の先でキュリアンが頷いていた。

「ああ、分かってる」

 キュリアンはアーティスの怒気に気が付かない風にやや笑いを浮かべながら答えた。

「これだろ」


 キュリアンは右手を挙げて、アーティスに向かって広げ、指を複雑に動かした。すると、その手のひらの周りに眩い光を放って、宝玉が現れた。

 どうやって空中に浮いているのかイノたちにはわからなかったが、神秘的な光にきらめく6つの石がキュリアンの手の平の周りにあった。

 金、銀、(あか)(あお)(みどり)、紫。丸い珠がそれぞれ6つの光沢を放っていた。


 6つの宝珠。1年ほど前に、闇の剣サーグ=バーネックとともに皇都アルルアから盗まれたとされていたものだった。盗まれたことについては、緘口令が敷かれ、一部の者しかその事実を知らない。

 そして、当時の状況からその宝珠は同時に姿を消したキュリアンに盗まれたものと推測されていた。


「・・・」

 アーティスは無言でその宝珠を見つめた。信じたくない推測であった。だが、それは事実であることが目の前で証明されてしまった。怒りとも悲しみともつかない感情がアーティスの心を苛んだ。幼いころから一緒だったキュリアンを信じたい気持ちを消し去るのは困難だった。


「もう一つ、聞きたいことがある」

 アーティスは、声を絞り出した。

「メルフィー・・・メルフォターゼはどこだ?」

 ギリッと音がするほど、アーティスの剣を握る両手に力が入った。


 キュリアンが広げた手をぐっと握ると、6つの宝珠は何もなかったかのように消えてしまった。キュリアンはその手をゆっくりと頭上に掲げる。アーティスの両腕に力が入り、長剣がかすかに青白く光り出す。


「まあ、待て」

 キュリアンは右手は上げたまま、左手をアーティスの方へ向け手を開いて、止めるしぐさをした。それから、ゆっくりと右手の人差し指を立て、天を指差した。

 すると、その指の先にぼんやりと白い影が現れ、1リルク(注:約85センチメートル)ほどの大きさの雲になった。

 その雲の中に何かが見え始めた。焦点を合わせるように徐々に輪郭が現れる。やがて、それは一人の女性の姿になった。


 上半身だけだったが、水晶のような透明な箱の中に女が眠っている。透けるような金髪が波打っている中に白磁の美しい顔があった。眼は閉じているが、通った鼻筋と控えめな唇だけでも美女とわかる。首には大地神ソロの象徴である、涙型をした翠玉の首飾りを着けていて、白を基調に翠と藍をあしらった巫女の衣装を着ていた。


「メルフィー・・・」

 アーティスはその女性を見つめ、その名をつぶやいた。探し求めてきた女性の姿がそこにあった。アーティスは歯を噛み締め目をつむり、ゆっくりと首を垂れた。次の瞬間、カッと目を開いてキュリアンを睨みつける。


「・・大丈夫。彼女は生きているよ」

 アーティスの眼光にやや怯みながら、キュリアンが答えた。

「彼女は僕にとっても大事な(ひと)だからね。今は眠ってもらっている」

 その答えにアーティスが何か言おうとしたが、その前にキュリアンが続けた。

「大丈夫。水晶封留の術は完ぺきに覚えたから、問題ないよ」

 キュリアンが右腕を下ろすと、頭上にあった雲は四散し、映っていた女性の姿も消えてなくなった。


「彼女はどこに?」

「それは言えない。言ったろ、彼女は僕にも大事な(ひと)だって。必要な時まではちゃんと僕が守っているよ」

 その返答にアーティスの眼光に殺気の光が灯った。

「・・・彼女の居場所を教えてもらおう」

 アーティスが押し殺した声で言い、再び剣に力を込めた。



ベタな展開です(笑)。

スタンダードすぎて面白みはないかなー。

何かご意見・ご感想があれば、よろしくお願いします。

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