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青竜の騎士 ~青き聖剣の物語~  作者: 柊 卯月
第1章 朱珠北国編
27/89

026:魔窟


「アーティス、大丈夫?」

 イノが倒れたビラトリスの遺骸に目をやりながら、近づいてくる。修羅場は見慣れているが、さすがに今までは魔に侵された相手はいなかった。見てはならないのもののように首のない遺体を遠巻きにして、アーティスの傍に寄って来る。


「とりあえずは、大丈夫だ」

 体力は消耗していたが、怪我はかすり傷程度だった。動けないほどではない。

「こりゃあ・・・」

 後ろから声がして、ダフが現れた。周囲を見てある程度は予想はついたが、その惨状はひどいものだった。柱が砕け、石造りの床はそこかしこが割れていて、砕けた石の破片が飛び散っている。アーティスの足元には首のない大男の死体があり、離れたところにひどい形相の首が転がっていた。その死体の周囲にはおびただしい血の海ができている。


「まあ、とにかく、ビラトリスを倒してくれたってことだな」

 ダフは一息吐き出すと、アーティスに苦笑いのような笑顔を向けた。アーティスはやや疲れた顔をダフに向け、こちらも苦笑いのように口の端をゆがませて笑った。


「で、あれが、逃げ口か」

 ダフは左手にある壁の穴を指差した。

「ああ」

「シャリオはあの先だな」

 ダフは本来の目的を告げた。アーティスは首を縦に振り、まだ右手にもっていた長剣を背中の鞘に納めた。それからビラトリスの遺体を回り込み、壁に穿った穴の方へ歩き出す。イノとダフが後に続いた。



 穴の前で立ち止まり、先ほどと同じように穴の中を覗き込む。暗い穴に降りていく階段があり、その先は見えない。地下がどのくらいあるのかわからなかった。

「ふぅ」

 アーティスは一息吐いて腰を屈め、その階段を降り始めた。イノとダフがその後に続いて階段を降りていく。


 階段はかなり長く、百段は越えていた。人が通れるほどの大きさはあったが、背が高いアーティスはやや腰をかがめて下らないと天井に当たりそうだった。階段を降り切ると、今度は水平に道が続いていた。ようやく水平になった道に下り立つと冷気が身体に突き刺さった。地下の冷気だけでない薄ら寒さを感じる。ふと見上げると、入ってきた入り口が指先ほどに小さく見える。

 階段から続く道は岩を粗く削ったような洞窟であり、人が2-3人は通れるほどの広さがあった。ところどころ壁に松明があり、暗い地下の道を照らしていた。しばらく進むと道はゆるい下り坂になり、さらに潜っていく。洞窟は曲がったかと思うと直線になり、上がったり下がったりと地下をくねくねと続いていた。


「うっ・・・・」

 アーティスの後ろでイノが口を押えた。前方からかすかに風が流れていたが、その風に乗って、異臭が運ばれてきた。肉が腐ったような酸えた匂いだ。思わず吐き気を覚える。

「なんだ? この臭い?」

 イノの後ろで、ダフも顔を歪めていた。明らかに異常な匂いだった。


 イノは先に進むことに抵抗を覚えた。戦闘での殺気とか危機感とは違う、妖気や邪気という類の悪寒を背筋に感じる。脳裏にこの先に行ってはいけないと警報が鳴った。だが、ここまで来て歩みを止めるわけにもいけない。理性を総動員して、イノはゆっくりと進んだ。足に意識を集中しないと背を向けて逃げてしまいそうだ。


 何十リルク進んだろうか。光が差し込まず、景色が変わらい岩洞を上下左右にくねくねと歩かされた。時間も距離も感覚が麻痺していまい、この地下に入ってどのくらい歩いたのか、どのくらい経ったのか、まったく分からなかった。


 やがて前方に光が見え、そこに近づいていくと急に視界が開けた。

 天井までは6リルク(注:約5メートル)ほどもあり、奥までは15リルクほどもあった。半球状の天井で、ちょうど椀をひっくり返したような形の部屋だった。広間のような部屋だったが、壁も天井も岩肌がむき出しの状態で、装飾はなかった。壁一面に松明が焚かれており、部屋の中は意外に明るい。

 入ってきた入り口と反対側にも洞窟が口を開けており、そこから風が入ってきているようだ。


「うげっ」

 イノはあからさまに抗議の声をあげ、首に巻いた赤い布で口を押えた。腐肉臭が強烈に漂っていた。

「こりゃあ・・・」

 その光景を見て、ダフも口を押えた。アーティスは口を押えることはせず、代わりに小さく首を左右に振った。

 その臭いのもとは眼前にあった。


 その部屋の中央には直径4リルクほどの大きな穴がぽっかりと開いていた。その穴の中は真っ黒で深淵のように底が知れない。

 そして、その穴の周辺にはおびただしい数の死体が積まれていた。

 さらわれた子供たちの遺体が穴を囲むように積み上げられている。おそらく数は100は越えているだろう。すでに半ば白骨化したような死体もあり、多数の黒や白の小さな虫が遺体の表面でうごめいていた。痛ましいという言葉が浮かんで、イノは目を閉じて天を仰ぎ、小さく息を吐いた。


 その死体の前に数人の人影があった。郡令官シャリオ・フェードソンとその配下であろう白い軍服の男たち。郡令官の横には、場違いな紫のドレスを着た金髪の美女。

 そしてー。

「キュリアン!」

 アーティスはかつての親友の名を叫んだ。



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