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青竜の騎士 ~青き聖剣の物語~  作者: 柊 卯月
第1章 朱珠北国編
25/89

024:追走


 マーカスが城の北東の角を回ると、その先に数頭の騎馬が見えた。報告があった騎馬だろう。だが、数が少ない。連絡では十数頭だったはずだ。

 首を傾げながら、だが、馬の速度は落とさずに馬体を進める。こちらは18騎であり、追い付けば確実に仕留められる。目標が見えたことで、仲間の郡兵は一段と速度を増した。

 相手の騎馬群も、こちらに気が付いたのか、慌てた様子で逃げ出した。だが、彼らはこの城壁沿いに逃げるしか道がない。


 相手の騎馬は5頭。駄馬ではないが、彼らが乗る軍馬よりは足は速くない。前を走る騎馬が徐々に大きく見え、赤い布を首に巻いているのが確認された。

「また、奴らか」

 マーカスは吐くように言って、苦い顔をした。つい先日、子供を運ぶ邪魔をされたばかりだ。それ以前にも何度か邪魔されそうになったことがある。一度などは崖の上から岩を落とされて、危うく死にそうになったことがあった。彼らが反発する理由もわからないではないが、郡兵としては許容するわけにはいかなかった。


 紅の雪狼(ボラ)は城壁の西端に届き、そこから尖塔を左に回っていき、視界から消えた。だが、その先も城壁と森に挟まれた道があるだけで、逃げ道はない。結局城壁に沿って走るしかないのである。

 遅れること数十バーロ(注:数十秒)でマーカスたちも城壁の角を回り、その先に赤い布をひらめかす一群を再度捉えた。十数頭の馬蹄の音が鳴り響き、後塵を巻き上げる。


 ふと、マーカスは城壁の方を見上げた。何か城内が騒がしい気がする。本来なら城壁の上から援護してくれるはずの兵士が見当たらなかった。先の山賊に矢でも放ってくれれば、すぐに追いつけるのに城からの援護攻撃が全くなかった。城内で何かあったか。だが今は目の前の敵を撃つ方が先だ。


 すぐに追いつくと思ったが、意外に相手は逃げ足が速かった。だが、次の角までに追いつくと思われる。マーカスは手綱を振り、馬を追い込んだ。



「お(かしら)が・・・」

 城壁の上でマシューが叫んだ。イノに言われた通り城壁の上で見張っていたが、そこに東の方からバックたち5人が走り込んできた。そのすぐ後ろから尖塔を回って、白い制服の騎馬が肉薄している。

 城壁の上には、弓の名手が数人上げられていた。それまでは城壁の上から城内の兵を狙い撃ちしていた。


 だが、馬蹄の音が場外で聞こえ、その音の方を見ると、東南の尖塔を回り込んでくる赤い布が見えた。その後ろに十数騎の騎馬が追っている。

「撃て!」

 マシューが叫んで矢を弓につがえる。白い郡兵を狙って矢を放つ。すぐ後を追うように矢が数本宙を舞う。


「何!」

 いきなり、数本の矢が向かって飛んできた。正面から飛んでくる矢を避けるのは不可能に近い。一本の矢がマーカスの腕をかすめた。

「ぎゃっ!」

 マーカスの左側で郡兵が声を上げた。矢に驚いた馬が足を止めようとしてつんのめり、騎手とともに倒れながら前に滑った。後続の騎馬が3頭巻き込まれて、次々と倒れていく。


 マーカスは倒れていく仲間を目の端で捉えたが、馬を止めることはなかった。だが、その攻撃で速度が落ち、相手との距離が開いた。紅の雪狼(ボラ)の5頭は城壁に沿って走り、吊り橋を渡り、正門をくぐっていった。


 マーカスと落馬しなかった13頭はそれを追って、正門へ向かう。吊り橋へ直角に曲がるために、数頭の馬が足を滑らせ転倒していく。一頭が吊り橋を越えて、堀の中に落ちていった。

 結局、城を1周してきた。ほぼ全力だったので、馬の方もすでに体力を使い果たしていた。乗馬も騎手も限界に近い。


 正門に近づくとさらに矢が城壁の上から飛んでくる。先ほどよりも近距離であり、数人が門をくぐる前に落馬した。

 マーカスはかろうじて攻撃を受けずに済んだが、門をくぐることができたのは6頭だけだった。

 門を越えた先には、郡兵と山賊の乱戦が広がっていた。すでに何人も地に倒れており、持ち主を失った剣や槍が散乱していた。


 馬上のマーカスに突然槍頭が突き出された。馬上で胸を反らせてかろうじて避けたが、その動きに馬がよろめき、マーカスは振り落とされた。倒れたマーカスに剣が向けられたが、騎手を失った馬がその男に当たり男がよろめく。その隙にマーカスは立ち上がり、腰から剣を抜いた。そこへ赤い布を首に巻いた剣士が近づいてくる。




一方。


 主塔の階段を降り、部屋を2つ通り抜けると、広間へ出た。石造りの床に緑や青の石がはめ込まれ、幾何学的な模様を作っている。その奥の壁にひと一人が通れるぐらいの穴が開いていた。壁掛けが傍らに落ちているのは、それがその穴を隠していたものだと知れる。穴の奥には、地下へ降りていく階段が見えた。


 アーティスは一直線にその入り口まで歩き、中をのぞいた。階段は地下に続いていて、松明の明かりは見えたが、どのくらい深いのかはわからなかった。

 アーティスは一度振り返り、イノを見た。イノは固唾を飲んで、その穴を覗いた。暗い道はどこまでも続くように見えて、その闇に吸い込まれそうだ。どう考えても楽しい予想はできなかった。


 と、いきなりアーティスはイノの脇を抱き、その場から飛び退った。

 ガキン。

 アーティスが立っていた場所に戦斧が突き刺さっていた。刃渡りが半リルク(注:約50センチメートル)もある戦斧。その柄の先に目をやると、そこには目を見開き、口から瘴気のような息を吐いているビラトリスの鬼顔があった。


「コロス・・」

 ビラトリスは歯をむき出し、熱い息を吐いた。巨躯であった体格がさらに一回り大きくなったように見えた。


 アーティスはイノを下ろすと、向こうへ行けと無言で顎を振った。イノはそれに従い、ゆっくりとアーティスから離れて、広間の入り口の方へ下がった。

 ビラトリスは大きな戦斧を床から引き抜き眼前に構えた。負の気が体中から発散している。魔気が眼に見えるかと思うぐらい異常な魔力が宿っていた。


 アーティスも青い長剣を構えて正対した。先日の状態よりもさらに魔力が上がっている感じだが、その分魔の域に入っているように見えた。普通の人間ならその魔力に圧倒されるだろう。

 アーティスは剣を少し立て、ビラトリスとの間合いを測るように前に出した左足をじりじりと動かした。




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