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青竜の騎士 ~青き聖剣の物語~  作者: 柊 卯月
第1章 朱珠北国編
23/89

022:乱戦


 跳ね橋が下りる少し前。

 

 クリーガ城の裏手、北面にある崖の上に騎馬が5頭到着した。ほぼ真下にクリーガ城の裏門が見える。

 バック・リージェンと他の4人は無言で、馬の背に紐を回して結わえつけた。紐は左右に6リルク(注:約5メートル)もあり、その途中に鈴や鐘などの鳴り物がたくさんついていた。ほかにも砂埃が立つように箒の先のようなものが数か所結び付けられている。左右に広がるように紐の真ん中あたりまで木の棒が取り付けてあり、子供が描いた羽の生えた馬のような格好になっていた。


 準備を終えると再び、バックは馬上の人となった。前を見れば、ほとんど垂直にしか見えない崖がある。ここを馬で下るなんて、確かにばかげている。だからこそ、奇襲の意味はあるのだが。

 だが、あらためてみると足がすくむ。下るだけで危険だ。しかも、無事に下ったとしても、城壁からと、おそらく出てくるであろう騎兵から逃げなければならない。その危険な任務をほかの者にやらせるわけにいかなかった。騎馬の扱いに長けたという点でも自分が行かなければならない。


 朝日が近づいてきているのか、だんだんと暗闇が引き、辺りが白んできた。そろそろ頃合いだった。

「野郎ども! 行くぞ!」

 バックは覚悟を決めて真っ先に飛び出した。

「おおーっ!」

 鈴や鐘の音に負けないぐらい声を張り上げる。

 まず、これに気付いてもらわないと意味がない。そのために鈴や鐘で音を鳴らしているのだ。さらに人数が分からないように砂埃も立て、多人数が押し寄せているように見えなければならない。


 馬の両側に余計なものが付いているせいで、馬の制御は思っていたよりも難儀だった。平地でも難事だが、この急な崖では、ほぼ制御ができない。馬の方も坂を下ることで精いっぱいで乗せている人間のことなどかまっていられなかった。バックは馬の背中にしがみついているしかなかった。


 城壁で歓声が上がったのも聞こえなかった。ただ馬蹄が蹴る岩の音と、土と砂が巻きあがる音が雑音となり、鈴や鐘の音がガンガンわめき散らしている。顔に当たる風に目もまともに開けていられないほどだ。


 どのくらい時間が経ったのか、まったくわからなかったが、突然のように勢いが止まった。眼を開けてみれば、平地に立っていた。左に城壁が見え、右に崖が見えた。馬はすでに息を切らし、呼吸を整えるように、その場でくるくる回っている。

「どうどう。よくやってくれた」

 バックは盛んに首を振る馬を撫でながら、感謝の言葉を口にした。改めて崖を見上げるとその高さと急な斜面に圧倒される。よく無事に降りてこられたものだ。心から愛馬に感謝した。

 見れば、ほかの4頭も無事に降りたようだ。落馬はなかった。奇跡のようだった。


 バックたちが色々なものに感謝を捧げているうちに、城門から矢が射掛けられた。バックは慌てて剣を抜き、馬の両側に結わえた紐を切った。紐が外れ身軽になると、馬を走らせる。城門までは直線に行かずに右に行っては左に回り、左に走っては右と、左右に回りながら牽制する。

 矢の数は増えたが、近づかなければそれほど脅威でもなかった。動き回る騎馬を狙って射るほどの腕前の者は城兵にはいないようだ。


「頭領! 来ましたぜ!」

 そうこうしているうちに城の東の角を曲がってくる騎馬の一団が見えた。一様に白い軍服を着ており、遠目にも郡兵と知れた。

「よし! 逃げるぞ!」

 バックはひときわ声を張り上げて、仲間に叫んだ。馬首を巡らし、騎兵が現れた方向と逆の方へ走り出す。

 騎兵を誘い出すのが彼らの役目であって、それが確認出来たら逃げることになっていた。騎兵の方が人数が多いだろうことも分かっていたので、戦っても勝てないことは承知している。こんなことで無駄死にするような命の使い方は彼らの生き方ではなかった。


「逃げ切るぞー!」

 バックは陽気に言って、仲間を見た。城壁沿いに西に走る。もし、西側からも騎兵が来ていたら、挟み撃ちになり、万事休すだ。城壁と崖に挟まれたこの道では逃げ場がない。それは覚悟の上だった。だが、それでも足掻いて見せる。それが山賊のやり方だった。





 アーティスが城門をくぐると白い制服の兵士が左右から剣を振り上げ近づいてくる。馬上から長剣を左に振り、迫ってくる一方の剣先を弾いた。弾いた勢いで、剣を右に薙ぎ、右から振り下ろされるもう一方の剣を受け止める。馬体を右に寄せて、圧迫するとその兵士が後ろによろめいた。その隙を狙って相手の剣を押し離し、剣先を兵士の胸に向かって突き通す。剣を引くと、兵士が白い制服を赤く染めながら倒れていく。


 アーティスの後方から、ドドドッと地響きのような蹄の音が響いて近づいてきた。紅の雪狼(ボラ)の一団が、吊り橋を渡って城内に侵入してくる。

「射掛けよ!」

 城壁の上から兵士の声が聞こえ、近づいてくる山賊に矢が放たれる。何人かが橋に到達する前に馬上から転げ落ちた。


 アーティスはイノの姿を見かけると、「来い!」と声を掛けて、馬を降り城壁内の階段へ向かった。階段前にいた兵士を長剣の一閃で切り倒すと、階段を駆け上がる。

 城壁の上に上がるとさらに兵士が二人、剣を構えて迫ってくる。一人目の剣を斜めに受けて、走ってきた勢いで押し返し、長剣を翻してその兵士の横腹に剣を叩きこむ。

 そこへ二人目の兵士が切り込んで来た。身体を右前へ振り、駈け込んでくる兵士の剣先を避けると、左へ回転する。青剣をすれ違いざまに兵士の肩へ打ち込む。背中から切られた兵士が肩から血を噴き出し、前のめりに倒れていく。

 

 身体を一回転させる間にその光景を目の端で捉え、再度前を向くと、弓兵に向かって剣を振り下ろす。兵士は持っていた弓を慌てて眼前に構えたが、アーティスの剣はその弓ごと相手を袈裟懸けに叩き切った。

「あわわ・・」

 悲鳴ともつかない声を上げ、その隣にいた弓兵がアーティスの眼前に弓を構えていた。矢先がアーティスの顔を狙っている。

 だが、次の瞬間、その矢はアーティスの顔を大きく離れ、上空に放たれていた。弓兵の胸に矢が突き刺さっており、弓兵は胸の矢を掴んだまま仰向けに倒れた。


 アーティスが振り向くと、城壁に上がってきたイノが左手の弓を掲げた。と、イノはすぐさま背中の矢筒から矢を取り出すと続けざまに2本の矢を放つ。アーティスがその矢の飛んだ先に目をやると、こちらに近づいて来ていた兵士が二人、体をくるりと回転させて倒れるのが見えた。さらにその先にいた弓兵に紅の雪狼(ボラ)の男たちが切りかかっているのが見える。


「ありがとう、助かった」

 アーティスは近づいてくるイノに言って、小さく手を振った。

「ここを頼む。騎兵が戻ってきたら、射掛けてくれ」

 アーティスが城壁の外を指差していった。城門を確保できれば、跳ね橋を上げて騎兵の帰還を阻止することができる。だが、アーティスが鎖を切ってしまったので、跳ね橋を上げることができなくなっていた。騎兵が戻ってくれば、場内に入られてしまう。


 イノは頷いて、後ろの仲間に振り返った。

「リディとマシューを呼んで」

 イノは弓が得意な仲間を呼んだ。それを聞いて、若い男が階段の方へ走っていった。


 アーティスは城壁から城内の方を見下した。そこかしこで白い軍服と赤い布の戦いが行われている。数としては郡兵の方が多く、紅の雪狼(ボラ)は押され気味に見えた。侵入した正門を背に城の半ば辺りでの小競り合いが続いている。

 アーティスはその乱戦の中にダフを見つけると、下へ下る階段の方へ走り出した。


崖下りの件は本来「020:奇襲」のところに入れるべきでした。

すっかり忘れていて、こんなところになってしまいました。

反省です。


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