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青竜の騎士 ~青き聖剣の物語~  作者: 柊 卯月
第1章 朱珠北国編
22/89

021:突入


「開いた!」

 イノは思わず声を上げ、周りの数人から、シッと注意を受けた。イノが肩をすくめてチロッと舌を出す。だが、その瞬間を待っていたのはイノだけではなかった。

 吊り橋がゆっくりと下がってくる。ドスンと音を立てて、吊り橋が堀の上に掛かる。城門の奥から騎馬が走り出てきた。およそ20騎が橋を渡り、城門の前の道を右に折れ、そのまま城壁に沿って走り去っていく。昇りだした太陽の薄明かりに馬蹄が巻き上げた砂埃がキラキラと光を反射する。


 作戦の第1段階は成功のようだ。裏手から奇襲をかけ、騎兵を引っ張り出す。その攻撃が陽動であるとわかっても、放置はできないはずで、騎兵を出し惜しみすることは考えにくい。騎兵を出すためには正門を開ける必要があり、吊り橋を下ろすほかはない。

 吊り橋が降ろされても、すぐには上げられることはないというのも想定済みだ。敵襲が後背であって、騎兵がその敵を倒せば再び戻ってくるので、上げ下ろしが容易でない跳ね橋をまた上げて、下ろす労力は無駄だ。戦地でもなく、敵というものが想定されていない現状で、正面から攻めてくることは考えられていない。まして山賊が城を襲うなどということは考えもしないに違いない。

 

 下りた吊り橋の下の堀に人の頭が二つゆっくりと浮き上がってきた。その人影は水面に頭を出し、水中を城門の方へ進んでいく。城壁の上からも、城門の内側からも死角になっていて、見つかった様子はない。水音を立てないように城門の端から陸へ上がる。濡れた体に夜明けの冷気は厳しかった。急激に体が冷え、指がかじかむ。跳ね橋が降りるずっと前から見張りの目を盗んで堀に飛び込み、水中に潜んでいたのだ。水中より外へ立た方が寒かった。体温が奪われて動きが鈍る。だが、躊躇している暇はなかった。


 二人の男は慎重に門の中に忍び込んでいく。イノたちは固唾を飲んで、その様子を見つめていた。

「よし!」

 ダフが短くつぶやいた。

「よし! 行け!」

 今度は立ち上がり、大声で叫んだ。

「おう!」

 周囲にいた男たちが勢いよく立ち上がり、馬を立たせた。馬に飛び乗り、剣を抜く。


 イノとアーティスも立ち上がり、馬上に身を預けた。手綱を引き、愛馬の腹を蹴る。馬が嘶き、駆け出した。森の中からいきなり騎馬が飛び出していく。喊声を上げ、クリーガ城の正門に向かって大量の騎馬が突進していく。

 

「前から来たぞ!」

 正門の上の見張りが突如現れた騎馬の群れに気が付いて、城門の下に向かって叫んだ。森の中から突然騎馬が発生したように見えた。それも50騎はいるだろうか。その群れが城に向かって走って来る。朝焼けにそれぞれの騎手が振りかざしている剣が閃いた。風体から山賊と知れる。

 

「門を閉じろー!」

 誰ともなく叫び声が上がり、跳ね橋を繋いでいる鎖の巻き上げ機が動き出す。

「うっ!」

 その歯車を回そうと取っ手に手を掛けた兵士が声を上げて倒れた。いつの間にか、背後に山賊がおり、兵士に剣を刺していた。

「こいつ!」

 周囲にいた兵士が切りかかった。山賊は持った剣を突き出し、切りかかった剣を眼前で受け止めた。その横から別の兵士が切りかかり、山賊の横腹を薙いだ。

「あ、うっ」

 その山賊は腹に受けた傷にうめき、受け止めていた剣を持つ手の力が緩んだ。後ろによろめくその男に別の兵士が近づき剣を突き立てた。

「あぐっ!」

 切られた方と反対側の横腹に剣が刺さっていた。剣が抜かれると同時に血が噴き出した。右手でその傷を抑えるとその手が真っ赤に染まる。気が遠のいていく感じがした。


「バートン!」

 もう一人の侵入者が叫んだ。だが、彼の方も二人の兵士に挟まれていた。視線を投げると、鎖の巻取り機に別の兵士が取り付いて回し始めていた。

「くそっ!」

 彼らの役割は、仲間が場内に突入してくるまでその歯車を回させないことだった。突入するまでのほんの数(ペラゴ)の間踏ん張ればよいだけだ。だが、思ったより兵士が多かった。歯車を壊すか、鎖を切れれば良かったのだが、それは短時間では難しかった、

 

「くそっ!」

 山賊の男は剣を構えて、二人の兵士に対応した。その眼の端に、門の向こうから駆けてくる騎馬の群れが見えた。だが、その馬影は下から上がってくる大きな板が遮ってゆく。

 それを止められない自分が悔しかった。だが、兵士に挟まれたままでは動きが取れなかった。



 走り出すのと同時ぐらいに跳ね橋が少し上がった。すぐに一度降りたが、またすぐに上がりだした。

「まずい!」

 イノが叫んだ。あと少しの距離だが、跳ね橋が上がってしまうと侵入できなくなる。

「チッ!」

 イノの横でアーティスが舌打ちした。

「ハッ!」

 舌打ちした直後アーティスは息を吐き、足で馬の背を挟むようにして腰を上げ、身体を地面と並行になるように頭を下げる。すると馬の方は察したように急激に速度を上げた。


 みるみる速度を上げていき、イノたちを離していく。だが、すでに跳ね橋は人の背ほどに上がっており、もう飛び越えるのは無理に見えた。だが、戦馬として鍛えられているのであろうアーティスの愛馬は、その巨大な壁に突進していく。

 速度を上げたまま、すでに跳ね橋が離れた堀の端でアーティスと愛馬は伸び上がるように飛び上がった。

 その跳躍は驚くべき高さだった。速度があったとはいえ、人を乗せたまま人の頭を越えるほど飛び上がれる馬はそれほど多くない。速度も跳躍力もこの辺りの馬とは鍛え方が違うようだ。


 馬は跳ね橋の端を越え、向こう側に降りていく。アーティスはその背の上で両手で構えた青剣を右に振り、返す剣を左に振った。

 ガキンという金属の音が二度鳴った。そのあと、ガラガラと鎖が落ちていく音が響いた。腕ほどの太さの鎖が一撃で切断されていた。剣どころか斧や鋸でも簡単に切れるような代物ではない。しかも足場のない空中である。聖剣士の名は伊達でない、とダフは驚くと同時に感心した。

 そして、幅5リルク(注:約4メートル)の大きな橋が一気に落ち、ガタンと大きな音を立てて、再度堀の上に掛かった。ガラガラと鎖が落ちて来て、橋の上で一度跳ねて堀の水面に落ちていった。

 

 ドタン。

 落ちた跳ね橋の上に、アーティスの愛馬ボレアスが四つの脚で降り立った。足を踏ん張り、倒れるどころか、膝を折ることもなかった。先ほど見せた跳躍力といい、丈夫で力強い脚を持っている。


 馬上でアーティスは右手で青剣を頭上に掲げた。上り始めた陽光に青い剣がきらめく。アーティスは後続のイノたちを振り向き、掲げた剣を城内に向かって振り下げた。

「おおーっ!」

 橋が上がったことでやや速度を緩めていた山賊たちは、歓声をあげ、持った剣を振り回した。そして、勢いを増して、馬の速度を上げた。


 それを見てアーティスは前へ向き直り、城壁の中へ駒を進めた。



私はもちろん好きで書いていますが、読んでいただいている方にどういう風に思われているのか、ちょと不安です。

感想をいただいた時は読んでいただいているという実感があって書き手としてはうれしかったです。なので、何か簡単でも感想など(誤字脱字指摘も)いただけるとモチベーションが上がります。

よろしくお願いします。


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