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青竜の騎士 ~青き聖剣の物語~  作者: 柊 卯月
第1章 朱珠北国編
2/89

001:襲撃

本編スタートです。

よろしくお願いします。

 ひゅん。

 その御者は何かが風を切る音を聞いた。そして、それがその男が聞いた最後の音になった。次の瞬間に彼は自分の胸に1本の矢が突き刺さっているのを見たが、何が起こったのか事態を理解する前に絶命した。驚愕の表情を浮かべたまま、御者の身体は力を失い馬車の御者台から車外へ倒れこむように落ちていった。

「敵襲だ!」

 後方の騎士が叫んだ。

 

 ひゅん。

 二射目の音がし、「あうっ!」という叫びとともに、先頭を走る騎士が馬上から姿を消した。騎士の身体が大地に落ち、後方に流れていく。


「止まれ!」

 馬車と並走していた部隊長マーカスは叫ぶと同時に、騎馬から馬車の御者台に飛び移った。素早く手綱を引き4頭の馬に停止をかける。ほどなく馬は止まり、馬車を囲む騎馬も停止した。


 走っている騎馬を二本連続で射抜くとは恐るべき弓技の持ち主と思われた。森の中を通る細い街道であり、あと少しで森を抜ける辺りである。出口付近の木の上から矢は放たれたものと思われたが、距離にしておよそ20リルク(注:約17メートル)。その先は隠れるところがない、崖の道に出る。

 

 マーカスは森の出口を見たが、人影は見えなかった。前に敵がいるのは間違いない。止まっていても狙い撃ちされる可能性がある。戻るべきか、強硬に進むか。判断に迷うところだ。

 数瞬の間逡巡していると、後方から馬蹄の音がし人の声が聞こえた。すると数体の騎影が現れる。近づいてくる騎手の手には陽光に反射する直剣が握られている。後方に伏せていたということか。

 

 もともと気の進まない任務だった。とは言え、仕事である以上断ることもできなかった。しかも、こんな場所で襲われるとは、貧乏くじも甚だしい。だが、ため息をついている暇はない。

 

 迫って来る一団は、首や頭に一様に赤い布を巻いていた。「紅の雪狼(ボラ)」。この辺りに出没する山賊の一味で、最近は周辺の山賊たちを集めて、郡令官に対する反抗の意思を強くしている。今回も『積荷』を狙ってきたに違いない。

 

 敵の数はわからないが、こちらはすでに2人()られて、8人に減っている。敵はその倍の人数はいるようだ。だが、むざむざやられるわけにはいかない。

「このまま、森を突っ切る。ついて来い!」

 叫ぶとマーカスは手綱を弾いて、馬車を走らせた。森の出口、紅の雪狼(ボラ)が迫る方向と逆に馬を走らせる。部下の騎士も慌てて、馬車を追いかけ始めた。

 

 森の出口には敵が潜んでいることは間違いがない。だが、後ろから敵が現れたことから、前方から射掛けて反転したところを襲う作戦と思われた。とすれば、前方の敵の方が人数が少ないはずだった。森の出口辺りを見ても人影がない。はさみ撃ちならもう出てきてもいいはずだ。いずれにせよ、後方から追いかけてくる人数が多いので、それからは逃げたいところでもある

 

 この時のマーカスの推測は事実でもあった。森の出口の木の上には2人しかいなかった。

「ばか、早過ぎるんだよ!」

 マーカスが馬車を発進させる少し前、彼から弓技を賞賛された射手は思わず舌打ちしていた。後方から襲うのは馬車が反転してからだと言っておいたのに、予定より早く出てきてしまっていた。

 再度弓に矢をつがえたが、狙いをつける前に馬車は走り出してしまった。

 

「チッ!」

 狙いが定まらぬうちに、馬車が自分たちがいる枝の下を通り過ぎてしまい、弓の名手は2度目の舌打ちをした。すぐに矢を収め弓を背に担ぐと、隣にいる男に下を指差した。男は、うなずいて枝を器用に滑り降りていく。そのあとをさらに素早く枝の間をくぐり、木の下に留めておいた馬の背に飛び乗った。

「追うよ!」

 言って、2人を打ち抜いた射手は馬の尻を叩いた。首には赤いスカーフを巻き、茶色の上着に同じ色のズボンを履いている。陽の光に金に輝く短髪の顔は少年のような風貌ではあったが、皮のジャケットに抑え込まれた胸の隆起が女性であることを物語っていた。


「イノ!」

 彼女の名前を叫んで、もう一人の男が同じく馬を駆った。イノは馬上で手綱を口にくわえ、背中の弓と矢を取り出し、前方を走る獲物を狙った。馬上から矢を射るのは、馬術と弓術の両方が相当の腕前でないと成り立たないが、小柄な彼女はそれを苦も無くこなしていた。小さい頃から馬に馴染み、剣や弓を教えられて育ってきた。素質もあり、紅の雪狼(ボラ)の中でも一目置かれる存在となっている。

 

 イノは弓を引き絞ると逃げる馬群に向かって弓弦を放した。ひゅんと音を立て、矢は騎馬の群れに吸い込まれるように飛んでいく。だが、最後尾の騎士が振り向きざま、引き抜いた剣で矢を叩き落とした。馬上から放った矢は向かい風の影響もあり、勢いが緩んだようだ。


「ダメか!」

 イノは3度目の舌打ちをして、鞍の上に座りなおした。登り坂であり、追いかける馬上からでは矢は効果がないようだ。攻撃よりもとにかく追いつく方が先か。相手は4頭馬車であり、単騎の馬なら追いつくことができるはずだった。

 

 馬車を駆るマーカスは森を抜け、上り坂の街道を駆けた。できれば逃げ切りたいが、そうもいかないだろう。せめて迎え撃ちやすい場所を選びたかった。

 やや先に上り坂の終わりが見えた。ちらと振り向いたマーカスの目に追いかけてくる2騎とその後方にさらに多くの騎馬が見えた。先の2騎にはもう追い付かれそうだ。


 再び前方に視線を移したマーカスの目に、1頭の騎馬が見えた。ちょうど上り坂の頂上、道がやや広くなった場所に青色のマントを来た騎士らしき男が立ち止まり、こちらを振り向いている。しっかりした鞍と鐙が乗った軍馬に旅装の騎士。黒髪で長身、美男の部類に入るであろう顔立ち。馬上の姿勢から気品すら垣間見える。だが、マーカスはその男から冷たい風のようなものを感じた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 初めまして。 とてもいい流れで楽しかったです。 一気に読みました^^ これかも頑張って下さい。 応援しています。
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