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青竜の騎士 ~青き聖剣の物語~  作者: 柊 卯月
第1章 朱珠北国編
19/89

018:作戦


 バックの言葉に周りにいた男たちがどよめいた。聖剣士が味方になるというのは、望外の幸運だ。聖剣士の力は伝説でしか知らないが、その強さは間違いない。しかも、聖剣士はその名の通り聖の象徴であり、自分たちの正当性も保証されるような気がする。


「期待しないでくれ」

 アーティスはそう言って首を振ったが、その台詞には期待していなかった。周りの反応は想像以上だ。この地では聖剣士がいなかったため、聖剣士が伝説化しており、その分理想が高くなっている。


「期待はするよ」

 バックが笑いながら言った。

「やばいのが来たら、あんたに任せる。ビラトリスはまだ生きてるしな。俺たちに人間以外の相手は無理だ」

 言われて、アーティスは片手を額に当て、首を振った。確かにバックの言う通り、ビラトリスを含む怪物はアーティスが引き受けるしかないことは分かっている。だが、それはかなり厳しい状況であるのは間違いない。最初から分かっていることだが、改めて考えると頭痛がする。


「おはよう!」

 イノが現れて、アーティスの肩を叩いた。

「どうしたの? 気分悪い?」

 頭を抱えるアーティスを見て、イノが心配げにアーティスの顔を覗き込む。

「大丈夫だ」

 言ってアーティスは浮かない顔を上げた。

「昨日はすごかったらしいじゃない。聞いたよ」

 イノは目を輝かせてアーティスを見る。自分の見る目に間違いないとイノは自信を持った。まさか、あの怪物ビラトリスをやっつけるなんて、想像以上だった。

「そんな大したことじゃない」

「大したことだよ。ビラトリス(あいつ)はとんでもない奴だったからね。めちゃめちゃにやっつけたんだって?」

 どうも話にかなり尾ひれがついているようだ。話を訂正すべきかどうかアーティスは悩んだ。


 主だった面々が集まってきたのを見て、バックがあらためて一同の顔を見回した。

「さて、里が襲われたってことは、事を早める必要があると思う」

 バックの言葉に一同が頷く。攻められる前に攻める。そうしないとこちらの存続も危うい。座して待つのは山賊の生き方ではない。


「シャリオ・フェードソンを撃つ」

 バックが決意を言葉にし、一同の顔を見た。アーティスに視線を止め、頷く。アーティスも小さく無言で頷き返した。郡令官シャリオ・フェードソンを撃つ。現状を打破するにはそれしかないであろう。郡令官に刃を向けるのは、国に対する反乱と言っていいが、だからといって、このまま郡令官の暴虐を許しておくわけにはいかない。もっとも山賊自体が反抗組織であるのだが。


 だが、アーティスには不安が募る。相手は地方とは言え正規軍であり、人数も装備も明らかに差がある。勝てるものは威勢ぐらいだろうか。しかもマコム城は山城で攻めるのは難易度が高い。条件としては不利なことが多い。それゆえにバックたちは用意に時間をかけていたはずだが、ここに来てゆっくりもしていられない状況になった。


「どうするつもりだ?」

 アーティスは疑問をそのままぶつけた。バックは真顔のまま、重そうに口を開いた。

「クリーガ城を落としてシャリオ・フェードソンを捕まえる。最悪、殺しちまうことになるかもしれんが」

「クリーガ城? マコム城ではないのか?」

「シャリオが居るのはマコム城じゃない。クリーガ城だ」

 クリーガ城はマコム城の北にあり、峠の中腹に構えられている。位置的にもあまり重要でなく、ありていに言って中継地点のような存在でしかない。

「どうしてかは知らないが、1か月前からシャリオはそこにいるんだ。おかげでマコム城よりは攻めやすくてありがたいんだがな」


 シャリオ・フェードソンは赴任してから郡令官の主城マコム城を居城にしていたが、一ヶ月ほど前からクリーガ城に通い始め、最近はクリーガ城の方に移っていた。目的は分からなかったが、子供たちを集め始めた時期と一致しており、アーティスの話から考えると、魔獣の復活に関係ありそうだ。


「地図を持ってきてくれ」

 バックの指示で、クリーガ城の地図がバックの前に広げられた。

 クリーガ城は、街道沿いにあり、裏門側には切り立った崖がある。そのほかの周囲は森が囲んでいた。マコム城のように町などはなく、ポツンと城が建っているだけだ。


 城壁が囲む中に3階建ての主塔があり、馬屋や兵士の宿舎などが点在している。城壁の周囲は幅3リルク(注:約2.5メートル)の堀が巡らしてある。堀には近くの川から水を引いており、水堀となっていた。

 出入りは、街道側に向いた正面の跳ね橋とその反対側の城壁の裏門だけだ。裏門は堀に石橋がかかっているものの、馬車1台が通れるほどの幅しかない。しかも通常は裏門には鉄格子がはまっており、通り抜けるには場内から鉄格子を開けるしかない。


 正面の跳ね橋は幅が5リルク(注:約4メートル)もあり、ぶ厚い板に鉄枠がついている頑丈な作りで、ほとんどの出入りはこの正門を使っていた。跳ね橋は城壁の上方から鎖でつながれており、城壁の奥の巻き上げ機により、鎖を巻いて上下させる機構だった。跳ね橋を上げてしまうと、城壁を越えないと場内に入ることはできない。


 バックは図面の正門を指差した。

「この跳ね橋を降ろさないと城内に入れん。通常は降ろしたままなんだが、今はどうなっているかわからん。警戒されていると上がっているかも」

「作戦が必要だなぁ」

 バックの隣でダフ・マリアージュが顎の髭を撫でた。

 

「城兵は何人いるんだ?」

 皆が沈黙してしまったため、アーティスがバックに尋ねた。

「およそ100人ぐらいだな。騎兵は20ほどだ。郡兵の大半はマコム城にいるからな」

「騎兵をおびき出すか・・・」

 アーティスは呟くように言って、考えを伝えた。



「なるほど」

 ダフが頷いた。

「うまくいくとは限らない。奇策もいいところだからな」

 アーティスが言うと、イノが反応した。

「いいんじゃない? いい手だと思うよ」


「それよりも、こちらの人数が問題だ。実際にどのくらいになる?」

 イノの賛同の声を無視して、アーティスが問う。

「俺たちだけで30、今、ほかのやつらにも声をかけている。全部で70-80ぐらいではないかな」

 言った後でバックがため息をついた。兵力は少ない。同数でも勝てるかどうかわからないのに少なすぎる。だが、緊急に集められるのはせいぜいこのぐらいしかない。

「厳しいな」

 アーティスは伏し目がちに首を振った。数倍の兵力があっても攻城戦は難しいのに、この兵力では、心許ないどころか無茶の範囲だ。


「幸い、城の周りは森だらけで、隠れるところはいくらでもある。城内で乱戦に持ち込めれば勝機はある」

 バックは鼓舞するように言い、立ち上がった。こちらの人数が少ないのは郡兵も分かっている。その条件で攻めてくるとは思っていないだろう。時間をかけて人数を集めても、郡兵に守りを固められたらもっと困難になる。一か八か、やってみるほかはない。

「決行は明後日の明け方だ。準備しろ」

 バックの命令に「おぅ!」と声を上げ、紅の雪狼(ボラ)の面々はそれぞれのやるべきことに動き出した。



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