017:聖剣
通路は狭く、天井も低かった。長身のアーティスは頭と長剣をぶつけないように注意しながら進んだ。特に長剣は横にしないといけないので、最後尾でアーティスの後ろにいるバック・リージェンは剣先に当たらないようにと注意することが増えていた。
一本の松明の明かりを頼りに男たちは岩をくりぬいただけの道を進んでいく。男たちは無言で、複数の息遣いだけが聞こえる。
半ズーサ(注:約15分)も歩いたろうか、前方に明かりが見えた。岩の裂け目のような出口は人が一人通るのがやっという大きさで、長身のアーティスと腹の肉が多めのバックは通り抜けるのに他の人間よりもやや苦労して潜り抜けた。
「道を間違えたな」
バックがボソッと呟いた。どうやらもっと広い道があったらしい。
出たところでアーティスは腰を伸ばした。見ればほかの連中も同じように腰を伸ばし、拳で腰を叩いている。短時間であったが、腰を曲げての行進は辛かった。
空には姉月がやや傾いて輝いていた。振り向けば、山の連なりが見える。南パーミ山脈の連峰だ。元の隠里からは北の方へ出たようだ。周囲を見たが、周りに気配はなく、さすがに追っ手はいないようだ。
「頭領」
しばらく経って暗闇から声がして、数人の男たちが現れた。複数の馬の手綱を引いている。その中にアーティスの愛馬もいた。
「無事だったか」
愛馬ボレアスはアーティスに近づき、鼻先をアーティスに擦り付けた。やや生臭い息が匂ったが、安心する匂いであった。
「行こうか」
紅の雪狼首領バックは馬に跨り、左の方へ首を振った。ほかの男たちも馬に乗る。アーティスも愛馬に跨り、バックの後を追った。
そこからさらに山道を進み、目的地に着いたのはもう明け方近くだった。さすがに山賊の一味も疲れ果てたようで、言葉が一つも出なくなっていた。
崖の山肌にある幾つかの岩をどけると、岩山にぽっかりと穴が開いた。馬を降りて、その穴に入っていく。中は洞窟になっており、奥の方はかなり広くなっていた。広間のような空間には先に逃げた村人が集まっていた。その広間には入って来た穴のほかにいくつか壁に同じような穴があった。
「アーティス!」
イノがアーティスの姿を見て、駆けてくる。
「無事だった?!」
アーティスの前でイノは止まり、アーティスの顔を見上げた。
「大丈夫だ」
アーティスは頷いた。
「よかった・・・」
イノは笑顔を見せると、ガクッと膝を折った。慌てて、アーティスが手を出しイノを支えた。疲れているらしい。顔に陰りが見える。
「休んだ方がいい」
アーティスは言って、両手でイノの身体を引き上げて立たせた。
「分かった。そうする」
やや意識のないような口調で答えて、イノは奥の方へふらふらと歩いていく。安心したのか急に疲れが出たようだ。
「あんたも休んでくれ。話は明日、いや今日だな」
バックも疲れた顔でアーティスに言ってきた。
昼過ぎに目を覚ますと、固い寝台から起きて朝の広場の方へ出た。最初の広間からその奥にいくつも通路があり、さらに部屋がいくつもあった。そのうちに一つをあてがわれたアーティスはその質素な寝台に横になるとすぐに寝息を立てていた。
すでにバックらは中央の大きな円卓に集まっていた。
「おう、起きたか」
バックがアーティスを見つけて、手招きした。
アーティスが座ると、クリス・オーランが何か大盛の盆を持って近づいて来た。その盆の上のものを卓に乗せる。机の上に白い液体が入ったガラスの杯とパン、腸詰などが並んだ。
「昨日はすごかったです」
クリスがキラキラと目を輝かせながら、アーティスに声を掛けた。
「ああ」とアーティスは気のない返事をした。クリスはやや落胆したようだったが、別の場所から呼ばれて、そちらの方へ戻っていった。
アーティスは出された液体で喉を潤した。やや甘めの味覚が脳裏に届く。食欲を沸かす味だった。
パンを取って口に運ぶと、隣に座っていたバック・リージェンがアーティスの方へ顔を向けた。
「昨夜は助かった。礼を言う」
バックはアーティスに頭を下げた。
「おかげでみんな助かったよ」
「おう、すごかったな。昨日の戦い」
バックの向こうからダフ・マリアージュが声を掛けた。
バックはダフの方をちょっと振り向いてから、アーティスの方へ向き直った。バックはやや言いにくそうに口を開いた。
「あんたの剣は聖剣だよな」
バックの言葉にアーティスは動じる様子はなかったが、やや視線を外したように見えた。
「・・そして、あんたは聖剣士。そういうことでいいんだよな」
太古の昔、鍛治伸ヘルオコスが竜の鱗から鍛えた六振りの剣。それが聖剣と呼ばれ、代々受け継がれて、現在でも聖剣は存在している。六振りの聖剣のうち、今存在が分かっているのは四振り。
白い聖剣ラング=リスベックは皇帝ガレリオン二世が所蔵する。初代フェリアス・カナーンが手にして以降、白い剣は皇帝の証であり、少なくともこの207年の間は皇帝の腰に収まっていた。
黒の聖剣は、皇都アルルアの地下に封印されている。
紅の聖剣はテルアーナの聖剣士フェリスの手に、碧の聖剣はガイデスメリアの聖剣士スルフォンが所有している。
そして、青の聖剣ビス=グランサーと黄の聖剣アーベン=カーグスは行方知れずになっていた。
聖剣はその持ち主を選ぶ。血縁でもなく、能力でもなく、何を基準しているのかは聖剣のみぞ知るところであるが、少なくとも悪人は選ばれないことになっている。聖剣士だったものが亡くなった際に剣が行方知らずになったこともあるという。
そして、持ち主を失った聖剣はその出自となった竜の元へ戻るという。
現在世間で行方知らずになっている聖剣は二振り。青と黄の聖剣は持ち主が失われて100年以上になる。すでに竜の元へ返ったと言われていた。
そのうちの一振り、青の剣が目の前にある。
「・・・まあ、そういうことになるかな」
アーティスはボソリとつぶやいた。途端に周りで聞き耳を立てていた男たちが一斉に視線を向けた。
「やっぱり、そうなのか」
「ただもんじゃないと思ったぜ」
「聖剣士って初めて見た」
口々に感想だか何だかわからない言葉が続く。
「なるほど、強いわけだ」
バックがまとめのように言い、手を振ってほかを黙らせた。
「ビラトリスの鉄鎚を刻んだ時はほんとにびっくりしたよ」
「あれは聖剣の力だが、聖剣も万能じゃない。それなりに聖力が必要だしな」
生物は聖力と魔力を持っている。その名の通り、聖と魔、真逆の力だ。どちらもその力を引き出すには資質と努力が必要で、実際に力として使えるのはごくまれである。聖の力を使えれば、聖剣士や神官となれる可能性がある。一方魔の力は魔術師や魔獣が使う力とされている。
「いずれにせよ。俺たちは強力な味方を得た」
バックはそう宣言した。
ちょっと単語が多いですかねー。
説明文をうまく書くのは難しいです。




