013:宴会
山中にあって果物や獣肉は当然ながら、どこから得ているのか海魚も食器に乗っていた。なかなかに豪華な料理が並んでいる。この村に来て最初に案内された中央の小屋の広間。今は村人=山賊の一味が集まって宴の最中だ。
「気に入るかどうかは知らんが、まあ、食ってくれ」
バックはアーティスの杯にワインを注ぎながら、豪快に笑った。周りの男たちもすでに飲んで、食べて、笑っていた。
「山賊ってのはその日暮らしなんだ。だから、その日を笑って過ごす。明日笑えるかどうかわからんからな」
バックはグイっと酒を空けて熱い息を吐いた。自分の空いた杯に自ら得体の知れない白い液体を入れる。それから、何の動物か分からない焼いた肉を豪快に頬張る。
「遠慮せずに食ってくれよ。明日はこんなの出ないからな」
今夜は一応アーティスの歓迎会らしい。もっとも周りの連中を見ると、客をもてなすというよりは、自分たちが楽しんでいる雰囲気だ。
苦笑いしながら、アーティスも肉を口に運ぶ。味付けは大味だが、不味くはない。酒に合う味だった。
「おおっ!」
入口の方から男たちの声が上がった。
「どうしたい、イノ。女になっているじゃねえか」
「あたしは女だよ!!」
揶揄する酔っ払いの声にイノが怒鳴りながら入って来た。
昼間の皮鎧に革靴の姿と違って、白の花をあしらった黄色のブラウスと裾に波柄のあるオレンジのスカートという出で立ちだった。肩の下まである髪も後ろで一つに結ってあり、昼間の紐だけで束ねたものとは手の入れようが違った。
「女の戦か?!」
「やれば、できるじゃねえか」
当たり前のように男たち、とくに年配の男が声をかける。
「うっさい! 後で、みんな、舌を切り落としてやるからねっ!」
やいやい言う外野を一睨みして、イノはアーティスの前に座り込んだ。
「おいおい・・・」
バックがその姿を見て、小さく声を漏らした。
「アーティス、食べてる? 飲んでる?」
イノはなぜか頬を赤らめながら、アーティスの杯に酒を注ぐ。
「ありがとう」
言ってアーティスは杯を掲げ、口に運ぶ。
「あ、これは久しぶりの宴会だからちょっと着飾ってみただけだから」
アーティスの視線にイノが早口でまくし立てる。
「こんな機会がないとなかなかこういう服は着れないから。お母さんたちが着て行けっていうから来てみただけだからね。何かあってとか、誰かに見てもらいたいとか、そういうことではないからね。特別な意味とか、そういう風に思われても困るのよ・・・」
アーティスの呆れたような視線を感じて、イノはハタと口の動きを止めた。顔に血が集まってくるのを感じる。心臓がドキドキしている。
「いや、さ、あ、え、・・・」
イノは口をパクパクさせた。
「飲め」
アーティスはイノの顔の前に杯を差し出した。イノは慌てて、両手でその杯を取り、グイ―っと一息に飲み干した。
「あふー!」
飲み干してイノは息をついた。ちょっと落ち着いたようだ。
「お前、顔でも洗ってこい」
バックが見かねて娘に声をかけた。若い男はこの村にもいるのに、よりによって余所者とは。親としては何とも言えない感じだった。
「確かにいい男ではあるがな」バックは誰にも聞こえない声でぼそりといった。
イノはアーティスの顔を見て、また緊張したように顔が強張った。そのまま、機械のようにすっくと立ち上がり、固い動きで踵を返して部屋から出て行った。
「で、あんたのお友達のことだが」
座が落ち着いて来て、それぞれに楽しんでいる様子を見て、バックはアーティスに声をかけた。
「どういうやつなんだ?」
アーティスは右側に座るバックをチラリとみて、顔を正面に向けた。
「幼馴染というやつだ。それが、どこかで道を違えた」
「どういう道かは知らんが、それで怪物を復活させようとシャリオのやつをそそのかした、ということだな」
アーティスは無言で頷いた。
「一緒にいる女は誰なんだ?」
アーティスは頭を振った。
「その女のことは知らない。知らない女だ」
女の容姿しか聞いていないが、アーティスの頭に浮かぶ女性には該当する人はいなかった。
「そいつが来る前からシャリオは何か企んでいる感じだった」
バックは太い指で顎髭を撫でながら話し始めた。
「ただ、その男が来てからおかしくなった。山賊狩りもされたしな」
バックは思い出してため息をついた。
「国王にも嘆願書を出したんだが、こんな地方には興味がないらしい」
アーティスの不審な顔を見て付け加える。
「嘆願書は俺が出したわけじゃねえよ。山賊から出したらおかしいだろ。近隣の農村から出したのさ。」
「何回か出したはずなんだがな」
「セルロガ王はそういうことを放置するような方ではないと思うが・・」
アーティスがそう言うと、バックはちょっと驚いた様子を見せた。
「国王を知っているのか?」
「あ、いや、噂でな。悪い王ではないと聞いた」
取り作った言い方にバックは訝しさを感じたが、とりあえずこの場は無視した。言いたくないことがあることは分かっている。
確かにセルロガ王はどちらかというと善王の方だ。特に王都付近では人気が高いと聞く。だが、王都から遠く離れたこの地では王の存在は希薄だ。
「まあ、そういうわけで、王は頼りにならず、俺たちも自分たちを守るためにも戦わなくちゃならなくなった、というわけさ」
言ってまた杯を空け、すぐに空の杯に白い酒を注ぐ。
「そこで、あんたに力を貸してほしいってわけだ」
「何をするつもりなんだ? いつまでも山賊の延長というわけではないんだろ」
「察しがいいな」
バックはニヤッと笑ってアーティスを見た。
「・・ぶっちゃけて言うが、シャリオを倒す。そのために近隣の仲間や手伝ってくれそうなやつらに声をかけている」
アーティスはその言葉に動じた様子もなく、バックに向かって口端を少し上げた。
「大事だな」
「ああ、だから戦力は少しでも欲しい。あんたの腕がありゃ百人力だろ」
言ってバックは自分の杯をアーティスの方へ差し出した。
アーティスは無言で自分の杯をバックの杯に当てた。カチンと金属音が響いた。
「・・・裏切らないでくれよ」
バックは言って杯の中の液体を飲み干した。
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