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青竜の騎士 ~青き聖剣の物語~  作者: 柊 卯月
第1章 朱珠北国編
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009:逃走


 いくつか角を曲がると、大通りへ出た。まだ朝の内で、人出はそれほどではない。

 大通りへ出たところで、急にアーティスは足を止めた。

「あふっ」

 突然立ち止まられて、イノはアーティスの背中にぶつかってしまった。しかも、背中の剣はいつの間にか鞘に収められており、イノの鼻はまともにその鞘と衝突した。


「ちょっとぉ! 急に止まらないでよ!」

 アーティスの背中でイノが赤くなった鼻をこすりながら抗議の声をあげたが、アーティスは振り向くことも返事することもしない。

 初めての街で土地勘がない。通りの左右を見るが、行くべき方向の判断がつかない。一瞬躊躇した短い時間にも騎馬の音が後方から聞こえる。


 再度左右を見て、アーティスは左方向に走り出した。イノも慌てて後を追う。朝の用を始めている人々を器用に避けて、速度を上げる。

 「あそこだ!」と後方から声が聞こえた。複数の蹄の音がそのあとを追い、「どけぇ!」と叫ぶ声が近づいてくる。


 騎馬を撒くためにできるだけ角を曲がり、狭い道を進む。幾つかの角を曲がると、その先にアーティスが昨夜泊まった宿屋が見えた。遠回りをしたように思うが、方向は間違ってなかった。後ろを振り向きもせずその宿屋の裏に走り込むが、馬蹄の音が追い付いてきた。


「止まれ!」

 白の軍服を着た男が馬首をアーティスたちの前に回り込ませた。前を塞がれてアーティスとイノは立ち止まる。すぐに5頭の騎馬に囲まれた。

「おとなしくしろ」

 言って、騎士が剣を抜く。他の4人も合わせたように剣を抜いた。さらにその後ろ側に遅れて3騎が到着した。

 その3騎の中から、先の隊長らしき男が進み出た。

 

「武器を捨てて、おとなしくしろ」

 隊長は勝ち誇ったように言うと、振り向いたアーティスを見下ろしてニヤッと笑った。

「抵抗すると、その女共々命がないぞ」

 二人の男女を5振りの剣が囲っている。逃げ場はない。明らかに勝ち誇った顔で、隊長は笑いを浮かべた。

 

 アーティスは首を少し右に回してチラリと後ろを見た。剣を構える白い郡兵の先に厩があり、そこに愛馬がつながれているのを確認する。厩にいる馬はその1頭だけだった。二人で逃げるためにはもう1頭欲しかったが、郡兵から奪い取るのは難しいかもしれない。

 

 

「さあ、その背中の剣を捨てろ」

 白い制服の隊長は、落ち着かない様子でうろうろする馬の上でもう一度命令した。目が「逃げられんぞ」と言わんばかりに下目でアーティスを見ている。先ほどの件もあるのか、囲んでいる5騎の兵士は、アーティスの剣が届かない辺りで円を作っている。彼らの隊長よりは若干気が引けている気がするが、5人で取り囲んでいることで多少気は大きくなっているようだ。

 

 アーティスはゆっくりとした動作で、右腕を上げ背中の柄に手を伸ばした。場に緊張が走る。その緊張を感じ取ったのか、郡兵の馬がせわしなく足踏みを始めた。

「貴様・・・!」


 隊長が叫ぶ。おそらく制止の言葉を放つつもりだったのだろうが、二の句は継げなかった。アーティスが抜き放った剣の切っ先が隊長が乗っている馬の鼻面に向かって突き出され、その馬は怯えて、嘶くと前足を高く上げる。

「うああっ!」

 乗っていた隊長の男は、急な姿勢変更に耐え切れず、馬からこぼれ落ちてしたたかに地面で背中を打つ。

「ひーーっ!」

 背中を打った衝撃で息が一瞬止まり、その隊長は息を吸いながら悲鳴を上げるという器用な真似をした。


 もとより隊長の馬を傷つけるつもりはなかった。一歩踏み込んでもさすがの長剣もそこまでは届く距離ではなかった。だが、その場を混乱させるのには十分な振りだった。ざわっと他の人も馬も総毛立った。その隙をついてアーティスはすぐに振り返り、隊長と反対側にいる郡兵に迫った。

 

「ひいっ!」

 背を低く迫って来るアーティスに正面の郡兵は馬ごと身を引いた。アーティスが青い長剣を振り上げると、再度短く悲鳴を上げて、持っていた剣を自分の顔の前に立てて身を縮こまらせた。斬撃が来る!と予感したその郡兵は目をつむる。

 

 が、アーティスはその騎馬の横を素通りし、厩へ駈け込んでいく。

「ボレアス!」

 愛馬の名前を叫ぶとともに振り上げた直剣を振り下ろす。駒繋ぎの木の柵が真っ二つに割れ、愛馬ボレアスの手綱が自由になる。ヒヒーンとボレアスは一声嘶くと、柵を飛び越えて走り出した。

 

 アーティスは身をひねると左手で愛馬の手綱を取り、同時に鐙に片足をかけて剣を持ったまま鞍に右手を伸ばす。すでに宙に浮いている身体を力任せに引き上げ、馬が3歩進む前に馬上の人になった。

 

 そのとき、すでに先ほどの郡兵の真横におり、郡兵が捧げ持っていた剣に向かって直剣を振った。助かったと思った郡兵は目を開けた途端に、腕にしびれるような衝撃を受け、持っていた剣を取り落としす。


 アーティスはそのまま、茫然としてるイノの傍へ馬を走らせ、剣を持っていない左腕をイノの脇に差し込み、持ち上げた。イノは釣り糸に引き上げられた魚のように一瞬で鞍の上に乗っていた。

 アーティスは、イノを乗せると、愛馬の方向を反転させる。反転する際に、ようやく立ち上がりつつある隊長と目が合うと、口角を上げてニヤッと笑って見送った。

 

 さらに店の方を見ると、騒動に気が付いてか、店主が裏口から出てきていた。ほかにも何人か見物人が見える。

「すまん。壊した分は前金で取っといてくれ。釣りはいらん」

 アーティスは律義に店主に声をかけて、手綱を引いた。愛馬が首を伸ばして短く吠えると足を速める。

 

「逃がすな! 追え! 追え!」

 少し前と同じ台詞を吐き、隊長が郡兵を煽る。馬上の騎士たちは一瞬お互いの顔を見合わせ、意を決したように馬に鞭をくれた。6騎の騎馬が駆け出す。残った一人は一旦馬を降り、取り落とした剣を拾う。隊長はと見れば、腰をさすりながら自分の馬の首にもたれながら立ち上がるところだった。

「行け!」

 腰をさすりながら、隊長は顎をしゃくる。残った郡兵は慌てて馬にまたがり、仲間の後を追い始めた。

 

ようやく、プロローグを入れて10話目に到達しました。

なかなか毎日更新するのは難しいです。


あまり、クレクレタコラはしたくないのですが、書き手としては読んでいただいている方の反応が欲しくなります。

なので、このサイトでは定番ですが、できれば感想や評価をお願いします。

いいことも悪いことも励みになると思いますので、よろしくお願いします!


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