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青竜の騎士 ~青き聖剣の物語~  作者: 柊 卯月
第0章 プロローグ
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000:プロローグ

初めまして。

ヒロイック・ファンタジーが書きたくて、初投稿となりました。

昨今人気の文章ではないですし、基本的にハーレムもチートもありません。

このサイトには合わないかもしれませんが、面白がっていただけたら幸いです。



ープロローグー


 全身から血が流れていた。自分の身体に視線を落とすと、数本の槍が巧みに鱗の隙間を縫って彼の体躯に突き刺さっていた。鱗の隙間に槍を突いてくるなど、思いついても簡単にできるものではない。ましてや無抵抗の相手ではない。彼の攻撃を躱し、隙を突く、というだけでも困難に近いはずだ。

 これほどの痛手を受けたことは彼の長い生の中でも一度もなかった。そのことだけでもこの人間は恐るべき相手であった。

 だが、その人間の方も相当の怪我を負っており、かなり疲労の色が見えていた。太陽が頂点に上るころに戦いは始まったが、すでに陽は傾き、赤い色を帯びていた。その間に交わされた攻防は苛烈なものであった。

 その人間の攻撃はまさに雷光のごとく、速度と巧みな技をもって繰り出された。文字通り神速・神技を持つ彼にとっても驚嘆に値する敵手であった。

 

 その人間は十数本の槍と三振りの剣を用意しており、そのことごとくが彼の身体のどこかに大小の傷を付けていた。槍は巧みに鱗の裏を縫い、剣は肢の裏や腹など鱗が薄い部分の肉を削いでいた。特に1本の剣は彼の前肢の付け根に深く刺さっており、最も出血を強いていた。その傷から流れ出た青い光沢のある彼の血が大地に小さな溜まりを作っている。

 それでも、彼は倒れない。竜は人間ごときに倒されるべきではない。竜はいかなる生物にも膝を折ることは許されないのだ。


 その人間の体も彼の青い血と自らの赤い血で彩られていた。その戦技と速度もさることながら、驚くべきはその体力であった。その人間は彼よりも多くの血を流しているはずだった。彼の爪に肉を剥がれ、強烈な尾の打撃に何度も血反吐を吐き、幾度となく大地に倒れている。

 だが、その度にその人間は立ち上がってきた。何がその人間をそこまで駆り立てるのか。彼が持つ心を読む力も戦いの苛烈さにより、その能力を発揮できないでいた。しかもその人間は心を閉ざす術を知っているのか、彼の力も及ばない部分があった。殺気と強烈な意思は隠しようもないが、その陰にある深い心には、彼も入り込むことができなかった。

 

 曰く、竜の血を飲めば不老不死になる。曰く、竜の鎧は最強の盾となる。曰く、竜の肉は万能薬である。そんな噂が人間の世界には流布されており、そういった迷信めいたものを求めて、人間は山に分け入り、竜を倒しにやって来る。

 『青い竜』としてその名を馳せる彼のもとにも、多くの人間たちが無駄に命を落とすためにやって来た。

 彼自身は戦いを好むものではない。だが、かといって大人しく狩られる謂れもない。野放図に仕掛けてくる相手にはそれ相応の報いがあるべきだ。命を狙うものにはその命が代償となるのは自然の理である。


 これまでのそういった戦いでは、命を奪うことはあっても、命の危険を感じたことはなかった。人間は竜にとって恐れるべき相手ではなかった。彼の身体に傷を付けるものなどほとんどいなかった。ましてや、彼に血を流させる相手など皆無であった。--今日までは。

 

 数瞬のにらみ合いは互いに呼吸を整え、必殺の技を繰り出す隙を狙う時間でしかなかった。たった1本残された剣を握り締め、その人間はじりじりと間合いを詰めてくる。最初に着ていた青いマントはすでにぼろ切れと化し、その下に着けていた紺の鎧も手甲や肩甲も弾き飛ばされ、胴衣も竜の爪で引き裂かれていた。足や腕や顔には赤と青の血糊が貼り付き、何度も大地に叩き付けられて泥だらけになっていた。


 その人間は長身といえる程度で、それほど特別な体格は持っていなかった。だが、その気迫だけは鬼気迫るものがあった。焼けるような熱い想いは彼の心にも伝わっていた。この精神力と体力は驚嘆に値する。

 

 いきなりその人間は大地を蹴り、ダッと間合いを詰めてきた。そこへ彼の鋭い爪が横殴りに襲い掛かる。それを予期していたのか、その人間は飛び上がり、空を切った彼の爪を踏み台にして、さらに高く飛び上がる。その剣が彼の眼前に閃いた。

 「ぐあぁぁぁぁぁ!」

 叫んだのは彼だったのか、その人間だったのか、その両方か。いずれにせよ、彼は飛び上がって来た人間に牙を立てようと口を開き、その人間は剣を振り下ろす気合のために口を開く。

 彼の牙はその人間の左足の肉を削いだ。だが、その人間は牙を避けようと身を翻した際に剣先で彼の眼を襲った。

 「ぐえっ!」

 今度は間違いなく互いの口から、うめき声が漏れた。彼の牙は確実にその人間の足の肉を食い千切った。間一髪で躱され、足1本を丸ごと奪い去ることはできなかったが、骨に届くほどの傷は負わせたはずだ。それだけで気を失うほどの痛みがあると思われるのにも関わらず、その人間は剣を彼の眼に突き立てたのだ。


 「オオォォーン」

 彼は咆哮を上げ、痛みのため首を振った。眼から剣が抜け、それを握った人間は自身の血の糸を引きながら、宙を舞った。深手を負い、身体ごと振り回されたにも関わらず、その人間は剣を放さなかった。その剣が人間に残された唯一の武器だったとしても、手放さなかったのは恐るべき執念だと言えるだろう。

 

 ドウッと人間の身体が大地に落ちた。足から血が噴き出し、地面に赤い池を作った。もう立てないだろうと彼が安堵の息を吐きかけた時、まだつぶされていない右眼に、剣を杖代わりにしてよろよろと立ち上がる人間の姿が見えた。驚愕と畏怖が込み上げてきた。だが、それらが意識に上る前に、彼の前肢はその人間に向けて振り下ろされていた。とどめを刺すべき一撃。その一撃を容赦なく放つことが神兵たる彼の矜持の現れでもあった。


 突き出された鎌のような爪をその人間はかろうじて持っていた剣で受け止めた。が、すでに何度も打撃を跳ね除けてきた剣は限界であった。鉄の剣は衝撃でその半ばで折れ、自由になった切っ先が宙を舞った。剣を叩き折った彼の爪はそのまま人間の身体を一薙ぎし、人間の身体は数本の血の糸を撒きながらくるくると回転して大地に伏した。折れた剣の柄の方も人間の手を離れ、近くの岩に当たってカランと音を立てた。

 

 倒れた人間はなおも顔を彼に向けて、剣を取り落とした右手を伸ばしてきた。

 「・・聖剣・・・」

 すでに呼吸も怪しい状態で、その人間は言葉を吐き出した。だが、そこでついに力尽きたか、そのまま、腕も顔も大地に落ちた。彼の青い血の溜まりに顔を伏せたまま、男の動きが止まった。人間の赤い血が彼の流した青い血の池に混じって流れ出してきた。

 

 彼は畏敬の念を感じながら、とどめを刺すためにその人間の背中に爪を当てた。爪先を通じてその人間の弱い鼓動が伝わってきた。鋭く尖った爪の先が人間の背中に食い込んでいく。その瞬間、電撃に似たものが彼の身体を貫いた。

 (・・・なるほど・・)

 瀕死の人間は意識がなく、そのためか心の扉が緩み、その意識が読み取れた。恐れ、怒り、悲しみ、そして、愛。様々な感情が彼の精神に入り込んでくる。

 

 そして、彼は知った。その人間が何者なのか、を・・・。


プロローグ、長かったでしょうか。

次回から本編に入ります。

先に言い訳しておくと、遅筆なので毎日更新とかできないかもしれませんが、

何とか頑張ってエンディングに持ち込みたいと思っています。

よろしくお願いします!


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