入団式典
リメール王国。
五百年以上続く独立国家で、領土全体がリメール大草原と言う肥沃な大地という恵まれた国だ。
しかし、領土に恵まれているので大国かと問われれば、答えは否である。
理由は、肥沃な大地を幾つもの国家の存在だ。その全てと敵対しているとまではいかないが関係が悪い国もある。
その防衛の為、リメール王国は防衛戦力として騎士団を創立し、建国当初から騎士団は国の盾となり国を守り続けてきた。とはいえ、幾度か他国との国境で小競り合いがありはしたものの、十数年間戦争は起こっていないので騎士団が国の盾となる機会は無いが、いざとなれば騎士団員全員は国の、民の盾となりその身を捧げる所存だろう。
そして今日、リメール王国の王都にある騎士団本部に、新たに騎士となる者たちが集っていた。
難関と言われる騎士団試験を突破した新人騎士の人数は330人。男女が入り混じっているが、全員が例外なく真新しく光る銀の鎧を身に纏い整列していた。
『────最後は騎士団総長からのお言葉です。新人騎士の諸君、静かに聞いてくださいね』
その中の一人。金髪を束ねた少女は横に並ぶ10人の男女の向こうに居る壇上に登る男性から目を離さず、見つめていた。
騎士団は11の団に分かれており、それぞれに団長が居り、その上に総長が居る。
そして壇上に置かれた拡声効果のある魔道具の前に立つ男性。この男性こそが11人の騎士団長を束ねる騎士団のトップ。
『騎士団総長のグレンディア・アルベルス・エグゼディオンだ。新人騎士諸君、まずは騎士団試験を突破おめでとう』
リメール王国騎士団総長であり公爵。グレンディア・アルベルス・エグゼディオン公爵だ。
わずか13歳という若さで最年少騎士となり、17歳で生家であるエグゼディオン侯爵(当時)を継ぎ、19歳で最年少騎士団長。そして五年前の23歳で最年少騎士団総長となり、リメール王国第二王女殿下を降嫁され結婚。晴れて公爵となった逸材。その上、容姿端麗で結婚前は社交界の華だったらしい。
(まぁ、私には関係ないけども)
と咎められないように口の中で呟く。今は大事な新人騎士の入団式典、しかも頂点である騎士団総長様の大事なお話の途中。私語は厳禁だ。
『諸君も知っているだろうが、我々騎士団は戦時の時は王都を守り、戦時でなくとも民の為に盾となりその身を捧げる事となる』
(知ってます)
『その覚悟が無い者は騎士団に必要ない。口で言うのは簡単だが、実際に盾となれる者はほんのひと握りしか居ない』
(そうですねー)
多くの新人騎士が目に熱が宿す中、少女は冷めた思考で騎士団総長の言葉を受け止めていた。
『心に迷いが生じた時は騎士団を去れ。足手まといだ』
『総長は騎士となったら迷わず盾となるようにって仰りたかったんですよ! 口下手なのできつい言い方ですけど!』
最後にそう言い捨てると、グレンディア総長は壇上を降りる。司会進行をしていた第二騎士団長が最後にフォローして式典は終了となり、本部の大会議室で歓迎会が催される事を伝えられ、先輩騎士の案内で新人騎士たちは移動を始めた。
(羽目を外さないように注意しようっと)
さて、先程からちょくちょく出てくる少女こと私。クリスティア・イェルド・ファーランドは、リメール王国伯爵令嬢として生を受けた御年17歳の少女である。
そして、転生者である。
私が転生した経緯は簡単だ。
ただの会社員で、営業先に行く途中に上から叫び声を聞こえて見上げたら鉄骨が降ってきて~、白い空間でどうのこうのなので転生してね。
だいたいこんな感じ。詳しくは回想で。
~回想~
気づいたら白い空間に居た私が最初に見たものは、胡座をかいて空中に浮かんでいる男性だった。
まるで異世界転生物のテンプレの様だが、男性は老人ではない。若々しいイケメンだ。さぞやモテるだろう。リア充爆発しろ!
そんな事を考えていると、こちらを見つめているだけだった男性が行動を起こした。
「お前、死んだから」
「ド直球だな、おい」
男性のド直球な物言いに反射的に言うが、男性は気にしていないようで無反応だ。
「だから異世界に転生な」
「つまり異世界転生?」
「あぁ」
頷く男性。
頬杖ついて居るけど、異世界転生ってことはつまりあれだ。こういうパターンの場合、死んだのは神様のミスでそのお詫びとしてチートスキルを貰えることが多い。そしてこういう場所に居るのは大体が神。つまりこの男性のミスで死んだって事だ。そうと分かれば、たかってやる! 神相手にたかりなんてしたくはないが、こっちは死んでるんだから少しは大目に見てくれるはずだ!
男性の目を見据え、意を決して望みを言い放った。
「チートスキルをくれ!」
「無理」
「……え?」
「いやだから無理だって」
顔の前で手を振り、無理無理と言葉だけでなく仕草ですら示す男性をしばし呆然としていた。
だって、こういうのってお約束じゃないの? ミスでこっちは死んでるんじゃないの?
ぐるぐると疑問が頭の中を回るが、自分の中に答えがあるはずもない。
「最近の転生者ってのは一言二言にチートをくれチートをくれ。しかも神のミスで死んだからって、アホか」
「え、あ、すみません」
「まず事故だろうと病気だろうと老衰だろうと死ぬのは運命だ。神のミスで死んだとしてもそれすらも運命。言うなればわざとだな。神でも運命以外の事は出来ないって訳だ……あ」
自分が悪いわけじゃないのに思わず謝ったが、男性は説明すると何かに気づいたのか声を漏らした。
何に気づいたのか訝しんでいると、男性は突然片手を上げた。
「説明に時間をかけ過ぎた。大災害が起きるのを忘れててな。後がつっかえてるからそっちに行かないといけない。質問とかは天使的な奴を付けるからそれに聞け。じゃあな」
「まっ」
本当に忙しくなったらしく、口早にそう言うと止める間もなく一瞬で消えてしまった。
というか、大災害が起きるの忘れるなよ……。
心の中でツッコミを入れていると、男性と入れ替わるように人の良さそうな微笑みを浮かべる金髪の美女が突然現れた。
驚いて固まっていると、美女は屈託のない笑顔で話しかけてきた。
「木嶋伸様ですね?」
「あ、はい」
「バララエル様より木嶋様が転生するまでサポートをするように仰せつかっております。些細な事でも構わないので分からない所があれば仰ってください。精一杯サポート致しますので」
「は、はい」
にっこりと微笑む美女。その顔に一切の陰りはない。
天使っほんまもんの天使やこの人ぉ! さっきの男性よりもこの人の方が神様に相応しいんじゃないのか?
そう思うほどに誠意を感じる対応だ。
男性との差が本当に凄まじいからそう感じるのか、それともこの人だからそう感じるのか……まぁいいや。
「えーと、何も聞いてないんですけど」
「あの野郎……」
「え?」
「あ、いえなんでも。ではまず世界についてですね」
美女さんが小声で何かを言ったと思ったが気のせいだったらしく、美女さんは咳払いをすると一から説明を始めてくれたので聞き逃さないように耳を傾ける。
「まず世界が11個あり、死亡するとこの空間に来て次の世界へ転生します。それを延々と繰り返して、最後の世界で死亡すると次は最初の世界へ転生となります」
「世界Aで死亡→空間→世界Bへ転生。世界Kで死亡すると世界Aに転生って感じですか」
「はい。それで問題ありません」
自分なりに分かりやすくすると正解のようで美女は微笑みを絶やさずに頷く。
本当にいい人だ、天使的な存在らしいけど。
「そして前世が男性であれば転生後は女性となります」
え、何それ聞いてない。
雰囲気で察したのか、美女は乾いた笑いを漏らす。
「あはは。えーと、男女平等に体験する為にそうなっているらしいです。次に転生後の世界は魔法が存在し、科学の代わりに魔法が発達しており、魔物も居ます。文化レベルのイメージは中世の西洋が一番適していると思います。転生前の記憶は基本保持できませんが、後ほど説明するスキルというものが転生後の世界にあり、記憶保持のスキルを持っていれば転生後も記憶を保持して行くことが可能となります。ここまではよろしいでしょうか?」
「はい」
「では次はステータスとスキルになります。死後、転生前のステータスは全てリセットされ、例外なく────こちらも後に説明する基礎ステータスへと戻りますので全員がが同じ状態から始まります。転生後の才能はこの空間で割り振ったステータス───これを初期ステータスと言います───によって決まります。もちろん、努力などで数値は増えますが、初期ステータスの数値が高いほどに多く増えます。次にスキルについでですが、記憶保持などの例外を除いたほとんどのスキルはレベル1~5に分けて設定されています。そしてスキルを所持していなくともスキルの効果を使うことは可能ですが、威力や効果は大分下がりますし、いくら努力しようとも獲得することはできません。その点スキルを所持していれば始まりから違いますし、非所持と比べて使用度や効果が高くなります。以上ですがご質問はよろしいでしょうか」
「大丈夫です」
「では、次にポイントについて。所持ポイントは全員一律の基本ポイント100と転生前の世界への貢献度からケラエル様が導き出された貢献ポイントの総計となります。これを基礎ステータスに割り振って初期ステータスにして頂くことになります。以上となりますが、何かご質問はございますか?」
「基礎ステータスというのは?」
「こちらになります」
『名前(設定不可)
HP :100
MP :80
力 :10
防 :10
知能:10
精神:10
速度:10
反射:10
技術:10
運 :10
容姿:10
体型:10
目 :10
口 :10
鼻 :10
耳 :10
感覚:10
能力:未設定』
美女が指を鳴らすと、異世界によくある半透明の板が目の前に現れ、そこは思った以上の項目と数字が書かれていた。これが基礎ステータスらしく、数値の左右に矢印が浮かんでいる。
それを見て疑問が浮かんだので、遠慮なく美女さんに尋ねることにした。
「名前が設定不可というのは?」
「転生ですので、命名権は木嶋様のご両親となる方々がお持ちになっております。家名もご両親となる方々の家名に依存致します」
「なるほど。名前を付けてないのに付いていたらおかしいですもんね」
「はい。事前に設定することも可能ですが、それについては後ほどご説明いたします」
「分かりました。所で生前の世界には魔法がなかったのですが、その場合はMPはどうなりますか?」
「魔法などのMPが必要ない世界の場合は設定不可となります」
「なるほど」
「次にステータスについて一通り説明いたしますが、よろしいですか?」
「お願いします」
「では、まずは───」
美女さんからの説明をまとめるとこうだ。
HP =体力の高さ(持久力)
MP =魔力の高さ(魔法が無い世界では設定不可)
力 =腕力
防 =我慢強さ
知能=IQの高さ
精神=冷静さや胆力
速度=身体能力
反射=反射神経
技術=器用さと技術力
運 =幸運、勘の良さ
容姿=美醜
体型=スタイルの良さ、髪の綺麗汚い
目 =動体視力の高さ、視力の高さなど
口 =声の綺麗汚い、早口が上手いなど
鼻 =嗅覚の高さ
耳 =聴覚の高さ
感覚=鋭敏な触覚、気配察知
能力=スキル
だそうだ。
HPから感覚までは数値を割り振って増減させ、能力は規定のポイントと引換に付与する事が出来る。バララエルが言っていたチートスキルを手に入れるっていうのはこれだ。
「なるほど。それでポイントはどれくらいですか?」
「はい。木嶋様のポイントは、皆様に一律与えられている基本ポイント100に貢献ポイントを加え……」
ここだ。ここで全てが決まる。このポイントの総計で転生後の人生は決まる。
会社の面接試験ぶりの緊張をしつつ、美女さんの次の言葉を待つ。
「総合ポイントは5167となっています」
「ご、せん……?」
「はい。善人でも悪人でも貢献ポイントは付与されます。平均は3000前後ですので、木嶋様は二倍近く。とても多く貢献なさったようですね」
「ま、全く身に覚えがないんですが」
「貢献なさった方の多くが同じ事を仰りますね。きっと貢献なさることが普通となっているのでしょうね。素晴らしい人間性です」
美女からの褒め言葉とポイントの多さに戸惑い、誤魔化すように声を張り上げてスキルについて尋ねる。
「ス、スキルはどんなのがあるんですか?」
「はい。こちらです」
ヴンッと空中に巨大なウィンドウのようなものが現れ、所狭しと大量の文字列が書かれており、所々白いがほとんどは黒く表示されている。
何故そうなっているのかを尋ねると、黒いのはポイントが足りず選択できないもので白いのは選択出来るものらしい。
(色々ありすぎて目移りしちゃうな……)
成長速度10倍とかMP無限とかアイテムボックスとか異世界転生ものによくあるスキルもあるな。黒いから取れないけど。
「取れないスキルについて聞いてもいいですか?」
「もちろんです」
その中で取りたいものが多くあり、選択できないものがほとんどだが興味があるのでついでに聞いてみることにした。
「堕落ってなんですか?」
「一言で言えば悪堕ちでしょうか。精神を汚染し、どんな存在も悪しき存在へと変えてしまうもので、必要ポイントは10万ポイントです」
名前からしてそんなんじゃないかと思ったけど、取る奴の気がしれないな。次々。
「魔導神は?」
「全ての魔法を神と同等に使えるようになるものです。必要ポイントは100万ポイントですね」
なにそれ欲しい。でもポイント足りないから無理。
「神の加護は?」
「言葉の意味は分かりませんが、ご都合主義がまかり通るものだそうです。必要ポイントは100億ポイントです」
ご都合主義がまかり通るって、割とすごいんじゃないか? 取れないけども。というか100億ポイントって凄いな。
……何処かでロリ魔族がくしゃみしたような気がするけど、きっと気にせいだな。うん。
その後も幾つかの選択できないスキルについて尋ね、説明を受けてから目に付いたスキルについても尋ねた。
「記憶保持って何ですか?」
「はい。本来なら消えてしまう転生前の記憶を転生後も保持できるようにするスキルです。必要ポイントは10ポイントですね」
「あー、なるほど」
生まれ変わる前の記憶があったりなかったりするのはこういうことか。10ポイントなら基本ポイントでまかなえるけど、記憶の保持よりも他の事に使った方がいいと思ってほとんどの人が取らない。なので転生前の記憶を持たずに異世界転生すると。
だが、前世の記憶というのは結構役に立つ。取っておいた方がいいだろう。
「そういえばスキルのレベルの上げ方はありますか?」
「この空間でスキルを取得後、規定のポイントを振ることです。成長するようなスキルを持っていないのであればそれ以外の方法───熟練度や使用回数などで上がることはありません」
つまり、本当にこの空間での割り振りによって転生後の人生が決まると言う事か。
(これは本当にロマンビルドでやるわけには行かないぞ……)
ゲームキャラクターの能力構成をビルドといい、ロマンビルドは強さではなく自分の好みで色々な構成を入れる言うなれば遊び特化のビルドだ。だが、これはゲームではなく自分、転生後の自分の強さを決めるものだ。絶対にガチビルドで行かなければならない。だって死にたくないもの。
幸い、アドバイザーというか聞けば説明してくれる人も居るので説明を聞いて自分が取れる最良の選択をしなければならない。
(まずはスキルを決めないとな……)
能力値も大事だが、やはりスキルが大きいと思う。魔法が発達しているらしいし、得意な魔法を一つは持っていないと生きていけないだろう。後、魔物。
最良はチートスキルだが、それを取るにはポイントが圧倒的に不足している。
「すみません、持っているポイントで取れる魔法のスキルだけ表示させることは出来ますか?」
「可能です。すぐにしますね」
美女は嫌な顔一つせずにすぐに対応してくれて、スキル一覧からほとんどの文字列が消え、残ったのは十個ほど。
(残ったのは火魔法、水魔法、風魔法、地魔法、雷魔法、無魔法、力魔法、隷属魔法、魔法合成、後は……無限魔法?)
名前は凄そうだが、一体どんなものなのか。
無限魔法だけでなく無魔法と力魔法についても尋ねると、説明されたのは凄まじい内容だった。
「無魔法は他の魔法には当てはまらない転移や収納を使うことが出来る魔法です。力魔法は指定した物や範囲に指定した方向から力を加える事が出来る魔法です」
ふむふむ。無魔法は無属性、力魔法は重力魔法みたいなものか。
「無限魔法は事前に設定した言動を行えば指定した魔法を発動できるという万能な魔法で、このスキルで魔法を使用することで全ての魔法のスキルレベルも上がるようになっています」
「ポイントはどれくらいですか!?」
「今表示しているのは全て一律500ポイントとなっています」
破格だ。破格過ぎる性能だ。ポイントも低いし、取ることが出来ない魔法も使えるようになる。逃す手はない。
そう思ったが、美味い話には裏がある。それについて尋ねると美女さんは無限魔法の問題点を説明し始めた。
まず、詠唱や無詠唱関係なく威力は安定するしMP消費も変化はないが、魔法を使いたい時はその魔法発動の為に指定した動作を完璧に再現する必要があるということだ。
マンガとかである腕を軽く振ると地面が割れるみたいな事だと思ったが、無限魔法はもっと難しいものらしい。
魔法を発動するには、設定した時と同じ腕、同じ腕の角度、同じ速度で同じ大きさの風切り音───つまり完璧に再現しないと不発になってしまうのだ。しかも無限魔法の方法以外、つまり普通に魔法を使うことは出来ないらしい。
「完全に外れスキルですね」
だから性能の割にこんなに安いんですね。納得だよ。
「ですが、これを極めることが出来れば全ての魔法を使うことも可能という最強の魔法スキルとなります。非常に難しいですが」
「うーん……」
だが、難しいというだけで性能だけは破格だ。美女さんの言う通り、極めることが出来れば最強だろう。
「となると、こっちで調整すれば……」
ビルドの方向性が見えたので、選択出来るスキルを一覧出来るようにしてもらい、質問をしながら欲しいスキルの取得と能力値を割り振りを行う。
因みにHPとMPは1ポイントにつき10、他の能力値は1ポイントで1上がる仕様でした。
(出来た!)
『名前(設定不可)
HP :4100(100+4000)
MP :4580(80+4500)
力 :310(10+300)
防 :310(10+300)
知能:310(10+350)
精神:500(10+490)
速度:510(10+500)
反射:412(10+402)
技術:650(10+640)
運 :310(10+300)
容姿:70(10+60)
体型:70(10+60)
目 :60(10+50)
口 :60(10+50)
鼻 :60(10+50)
耳 :60(10+50)
感覚:60(10+50)
能力:剣術Lv.5(30+5)
格闘術Lv.5(30+5)
弓術Lv.5(30+5)
無限魔法Lv.5(500+50)
記憶保持(10)』
まずはスキルを取り、能力値を一律に上げたら要所要所を加算していった結果、こうなった。
我ながらちょっとやりすぎかと思ったが、ポイントは持ち越し出来ないというのだから仕方ないだろう。全て使い切らないと勿体無いし。
「では最後に決定を押してください。それで初期ステータスは確定となり、後戻りは出来ません。そしてステータスから転生先が決定されると自動的に転生が始まります。質問がある場合は決定を押す前にしてください」
「分かりました」
質問もないので、初期ステータスを何度も見返し、変更はないと判断してから決定を押す。
何度も確かめる画面が現れ、その度にはいを押し、ウィンドウが閉じると代わりにスキル一覧のウィンドウがローディング画面に変化した。
「転生が始まりました。木嶋様の次の家名はファーランド。リメール王国伯爵家令嬢となります」
ローディングが進むにつれ薄れていく意識の中、確かにそう聞いた。
~回想終了~
とまぁこんな感じで記憶を持って転生したわけですよ。
その後はファーランド伯爵の次女として生まれ、令嬢として貴族としては普通の生活を送っていたのですが、元男に令嬢生活は大変な苦痛だったわけですよ。
元男として英雄譚の本とかを読み込んで、当時から騎士として働いていた兄から騎士について聞いて騎士を目指すことにした。
騎士なら男っぽい服装をしていても変な目で見られないし、令嬢として女を磨く必要も無い上に結婚してなくても後ろ指を刺されない。後継ぎは今世の兄たち、政略結婚は姉妹たちに任せれば家も安泰。
何より騎士であれば総長の派閥から逃げられない(逃げるつもりはないが)ので、貴族社会の派閥替えの悩みも起きにくくなる。
そして何より騎士団は強さと盾としての覚悟があれば男女平等。女として生きなくても大丈夫なのだ。
(周りの目を気にしなくていいから気が楽だわー)
まぁ騎士を目指すと決めて家族に伝えると、家族は応援してくれた。男性陣からは厳しい手解きを、女性陣からは心のケアを受けた。そのおかげで試験に合格できたので感謝している。
(今日から頑張るぞーっと)
自分に気合を入れ、クリスティアは同僚たちの波に身を任せながら大会議室へと向かっていたのだった。