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涙はソラを映す鏡  作者: 青空顎門
一 明日の先の世界
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孤独じゃない

「と言う訳で、穹路は明日から私達と同じ学校に通うことになったから。一応、私と同じクラスになるようにしてある」


 家に帰ってくるなり、螺希は相変わらずの静かな口調でそう告げた。


「が、学校?」

「そう。この時代について知るのにこれ以上適したところもないでしょ?」

「まあ、そうだろうけど、螺希が教えてくれてもいいんじゃないか?」

「……それは、効率が悪いから」


 螺希は視線を落として歯切れ悪く呟いた。


「お姉ちゃんはお祖父ちゃんの話がしたくないんだよ」


 そんな螺希を不思議に思っていると、真弥に耳元でそう囁かれた。

 それとこの時代を知ることに何の関わりがあるのか疑問に思ったが、穹路は二人の表情を見て、それ以上尋ねないことにした。何か事情があるのだろう。


「それよりお兄ちゃん、続き、続きしよ!」


 真弥に腕を絡められ、リビングにあるゲーム機の前に引っ張られる。

 画面は螺希が帰宅する直前までやっていた格闘ゲームの途中で止められている。

 既に数十回戦って穹路は全敗していたが、少しは上達したようで、真弥の方も本気を出せるようになってようやく興が乗ってきたところだ。

 ゲーム機は旧時代を思い起こさせるような据え置き型で、確かに映像技術は進んでいるように見えたが、未来を強く感じさせる程ではなかった。

 真弥が言うには、映像の情報を直接脳に送ったり、脳の反応をフィードバックさせたりするものは現在ゲームに限らず危険であるとして禁止されているそうだ。

 ゲームの映像が映し出されているテレビについてもそれは同様で、薄さは紙同然で壁に貼りつけられていたりするものの、過去に例を見ないような特別な機能はなかった。

 有機ELディスプレイの発展形か何かのようだが、ネットワークを利用する機能も取り払われていて、むしろ退化した印象さえ受ける。


「真弥、明日の用意はちゃんとしたの?」

「大丈夫。いつも夜にしてるもん。宿題も春休みの初めに全部終わらせたし」

「そっか。真弥ちゃんは偉いね」

「そうでしょ? そうでしょ? もっと褒めて!」


 何かを期待するように上目遣いで見詰めてくる真弥に、偉い偉いと頭を撫でる。

 すると真弥は満足気に、にへへ、と嬉しそうな笑顔を見せてくれた。

 しかし、そんな彼女とは対照的に、二人の様子を見ていた螺希からは厳しく睨みつけられてしまう。


「何だか、随分と仲よくなってるようだけれど」


 鋭利な刃物を思わせるような視線と共に凍てつくような冷たい声をかけられ、一瞬穹路は窮してしまった。

 しかし、別にやましいことなど何もしていない。

 ただ真弥に言われるがまま遊びにつき合っていただけだ。


「そ、それは、一緒に遊んでたからだろ」


 真弥ぐらいの年だと、いや、どのような年齢だろうと娯楽を共にすることは親しくなる最良の方法のはずだ。


「そうそう。だからお姉ちゃんも一緒に遊ぼっ! そうすれば、お姉ちゃんもお兄ちゃんと仲よくなれるよ」


 真弥に無理矢理手を引かれて、螺希は少し困ったような表情をしながら、穹路の隣に座らされた。

 そして、螺希は渋々といった様子でゲームのコントローラーを握る。

 真弥の策略によってか、肩が触れ合うぐらいの近距離で隣に座る螺希にかなりの緊張を覚えながら、穹路もまたコントローラーを掴み直した。

 傍に立つ真弥は、穹路達の様子を面白がっているようにニコニコと笑っていた。

 そんな彼女の楽しげな表情を見ると自然と口元も緩む。

 正直訳が分からないことばかりだが、この状況で最初に知り合えたのが螺希と真弥でよかった。穹路は心の底からそう思った。


 まだこの新しい世界についてはほとんど何も分からない状態だ。

 その上、螺希達の話によれば自分自身にさえ理解の及ばないことが起こっている可能性もある。

 それでも夢の中の彼女、ウーシアに言われたように、少なくとも孤独ではないことが今の穹路には何より尊いことで、そして現実を受け入れるための活力だった。


 一度途切れたはずの道が再びどこに向かっていくのかは分からない。

 だが、この明日の先の世界で彼女に貰った名前と共に、自分を覚えていて欲しいという彼女の願いを一先ずの生きる意味として歩んでいく。

 今はそれでいいのだろう。

 もしかしたら、それはこの世界で新しい目標を見つけ出すまでの、暫定的な生きる目的として彼女が与えてくれたものなのかもしれない。

 そんなことを考えながら、穹路は壁に貼りつけられたテレビ画面に意識を向けた。

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