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その一 聖騎士と神官

①聖騎士 その1


 んー、第一印象は「へ? なんで女の子がここに?」でしたよ。


 今は見る影もないけど、細くて、かわいい顔してましたからね。


 まあ、そう思ったのも一瞬だけでしたけど。


 女の子みたいだとからかわれた途端に、即座に反撃。殴るわ、蹴るわ、あっという間に叩きのめして。


 教官が駆けつけたときには、からかった連中全員泣かされてましたよ。


 なめられないように、初めにガツンとやっとけっていわれてたらしいですね。ええ、そうです。


 その喧嘩のとき、何故かやつは不思議そうな顔してたんで、あとで聞いてみたら「故郷じゃ弱い方だったから」っていうんですよ。


 じゃあ誰が一番強いのかって聞いてみたら、あの幼馴染に初めて会った時から今に至るまでの経緯を語られたので、途中からは適当に聞き流しましたけどね。


 え? いや、もちろん、その幼馴染は男だとばかり思ってましたよ。


「誰より強くてかっこいいんだ!」っていってましたし。


 あいつが長々と分厚い手紙をこまめに送っても、返ってくるのは、数回に一度、たいてい一文。だらだら手紙なんぞ書いてる暇があったら勉強しろやら、訓練に励めやら、ひどい時には鬱陶しいの一言だったし。


 食べ物は干物やらなんやらどっさり送ってくれてましたけどね。


 あいつは独り占めしないで、同期のみなに分けてくれましたよ。たくさんあるものはみなで分けるというのが薫陶らしいですね。独り占めしたら文字通り吊るされるんだとか。


 騎士見習いの間、同期のなかで最初から最後まで一番強かったですよ。頭も良かったけど……ええ、いいんですよ、あいつ、あれでも……ええ、わかります。


 自分なんてまだまだだと決して奢らないし、顔はいいし、もてないわけじゃないんですよ。ただ、そう……なんというのか、かみあわない。


 あこがれの幼馴染についてや、効果的な体力づくりの方法を、嬉しそうに語られても普通の女の子は困りますよねぇ。ええ、正直、どん引きってやつです。


 で、脈ないなとあっさり諦めるか、躍起になって振り向かせようとして疲れ果てて去っていくか。


 そう、それなんです。丁重に礼儀正しいのは表面だけで、気を使って相手に合わせることはしない。自然体でお断りできる男なんですよね。


 相手の意図に気づいてないわけじゃないくせに、無視できるという強心臓。結構、たちが悪い。いや、まあ、そのくらいじゃないと、あの連中の中じゃ、やっていけないんだってわかってますよ。


 ええ、たまに「俺たちより弱いのにどうしてモテるんだっ!許せん!」とかいって殴り込んでくるんですよ、あそこの兄弟。すぐに師匠が回収に来て、「顔と頭の出来が違うからに決まってるだろっ」て、殴ってましたけどね……。俺たちがボロボロにやられた相手を瞬殺するんですよね、師匠……。


 ああ、話がそれましたね。


 あいつと真っ当に会話続けられる女の子なんて、まずいないんで、聖乙女候補と楽しそうに話しているのを見たときは我が目を疑いましたよ。


 いや、まあ、会話を盗み聞きして納得しましたけど……彼女も大概ですよね、あの見た目なのに。


 見た目だけは文句なしの美男美女なもんだから、二人の姿を遠目に見て、あきらめた人間は男も女もたくさんいましたよ。


 ちょっと近づいてみれば良かったのに。あの会話を聞けば恋人同士でもなんでもないって分かったはずなんですけどね。


 彼女、あいつの幼馴染語りのときなんか、ものすごい雑に受け答えしてたし。俺達と変わらないやり取りで、色気もへったくれもない。


 あ、そうですね、中身知れば、どっちにしろ発展はしないかも。でも、まあ、中にはそういうところもいいというやつはいたんですよ……。全く相手にされませんでしたけど!


 え? 気づいていなかったんですか? あんなにあからさまに誘っていたのに?!


 あー、まあ、そうですね、忙しいですもんね。


 ええ、まあ、お似合いじゃないんですか。互いに我が道を行くところが気が合うんじゃないでしょうかね。



②たぬき顔の神官


 いやー、根性ある子でしたねぇ!


 ほら、聖乙女見習いに渡される聖杖あるでしょう? あれ、ほとんどの聖乙女が実はすぐに軽い物に取り換えているんですよ!


 まあ、神殿としても、そこは咎め立てするようなことはしません。目をつぶってるんです。


 え、あはは、まあ、そういうことですね!


 寄進されたものは受け取りますよ、もちろん。ついでに寄進された杖の一本や二本、渡すくらいは許します。


 あの子、辺境の出身で、王都周辺には親戚もいないでしょう? だから、そういう抜け道があることも知らなかったらしくてねぇ。


 なまじ体力があったから、杖を取り落すことも少なかったし。あまりに頻繁だったら、誰か入れ知恵してやったんでしょうけど。他の子達は、取り換えていないことに気づいていなかったんじゃないですか。


 音楽の才能はなかなかのものでしたよ。辺境暮らしで、もともとの素養はたいしてなかったはずなのに、すぐに王都育ちの貴族の娘たちに追いつきましたからね。


 集中力も高いから、周囲がそれなりに手を抜きながら練習続けていることにも気づいてなかったんじゃないですかね。


 神聖古語と歴史だけで頭はめいっぱいだから、音は体に覚えさせるとかなんとか言ってましたっけ。


 舞はねぇ、ゆっくり優美に、じゃないですか。多分、テンポの速いものならすぐ身についたと思いますよ。護身術は得意だったようですし。


 でも、まさか聖乙女に選ばれるとは思っていませんでしたよ。後ろ盾がありませんからね! しかも本物だったなんて。


 聖乙女候補に選ばれたといっても、あくまで素質があると認められただけですからね。本物の聖乙女かどうかは、実際のところ、大祭までわからないんですよ。


 ええ、そうです。大祭で神々の声を聞くことができる者が本来の、本物の聖乙女です。


 本物は十五年ぶりじゃないですかね? うちの嫁以来だから。


 嫁ですか? もう聞こえないですよ。もともと一言二言しか、聞こえなかったらしいですし。意味不明な言葉も多かったって言ってましたよ、ふらぐだとか、るーと分岐がなんとかとか。


 なんか人によって声の聞こえる神様が違うらしいですね?


 昔はどうだったかはわかりませんけど。


 まあ、声を聞く神官はちゃんと別に育てているので、今となっては聖乙女に聞こえなくても問題ないと、形式的になっているんです。


 綺麗な娘さん達を見る方が、信者も喜びますから。


 おっしゃる通り世俗権力の影響受けてますよ。誰がなっても問題ないわけですからね。


 聖乙女候補の中で、頭角を現すのは、大抵、玉の輿に乗ってやろうという野心家か、本当に才能のあるものかなんですよ。


 じゃないとあの修行には耐えられません。


 あの子の場合は、その両方といえそうですけどね。


 将来、安泰な生活送るためって、小さい野望ですけどねぇ〜。あの子、本当に貴族の娘なんですかね?


 その辺にいるそこそこの家の貴族の男を引っ掛けりゃ安泰だと思うんですけどね!


 聖乙女候補の多くが、ちゃんと品定めして、根回ししてるってのに、真面目なのか、気が回らないのか。


 聖騎士と話をしてるところを見かけて、「お!ついに春が!」とか思ったんですけどね、体力づくりがどうとか、ひねり上げるこつはなんだとか、そんな話ばかりで。


 そんなんだから、神官長に目をつけられちゃうんですよねー。本人は食いっぱぐれないからいいかなとか言ってますけどね。


 玉の輿、狙った方がいいのにねぇ!


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