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第八話 二人の図書委員

 すべての授業が終わり俺はそのまま帰るか図書室に寄るかで迷っていた。正直どっちでもいいのだが、俺はとりあえず脳内会議を行い一秒で図書室に寄ることに決めた。

 図書室に入るとやはり中には四宮さんだけ、そして手元にはオックスフォード英英辞典。君は辞書が好きなんだな。いっそのこと辞書と美少女を組み合わせて辞少女とでも呼ぼうか。いや、それだと少女を辞めるみたいで縁起が悪い。…俺は何を言っているんだろう。


「あ、丹波君…なんか疲れてる?」

「五時限目に持久走あってな。まだ疲労感がある」


 スタミナのない俺にとって体育は地獄でしかない。適当に理由作ってサボればよかった。


「無理せんようにな。ケガしたら大変やし」


 俺は頷き、四宮さんの反対側の椅子に腰かけ隣の椅子に鞄を置いた。さて、何をしようか。

 四宮さんは相変わらず読書。まあ図書室はそういうところだからな。俺は五時限目に聞こえた(というか聞いてた)男子の会話を思い出す。姉貴は置いといて四宮さんともう一人、渡辺京香という女子生徒。かなり人気があるみたいだがちょっと気になる。


「丹波君、何か難しい顔してるけど大丈夫?」

「え? ああ、うん」

「ホンマに?」


 珍しく攻めるな。いつもなら「そうですか」で済ましそうなのに…。


「もしかして、気になってる人でもおるんか?」


 何でこの学校の女子はみんなテレパシー能力持ってんのかね。ええ、そうですよ。


「実は五時限目の授業の時に近くにいた男子が一組の渡辺って人の話してるの聞いたんだよ。俺、名前は知ってるんだけど顔は見たことなくてさ。だから気になったんだ」


 俺が説明を終えると四宮さんは無言で受付の方を向き、そして俺に顔を向きなおして言った。


「顔は見たことあると思うで。渡辺さんいつも昼休み受付におるし」


 受付? それってつまり…。

 

「渡辺さんも図書委員なのか?」

「うん」


 確かこの間、四宮さんは図書委員は昼休みと放課後で担当が分かれてると言ってたな。俺は昼休みしょちゅう図書室(ここ)くるから四宮さんより見てる回数は多いはずなのにあんまり印象に残ってない。俺の目が節穴なのか?


「渡辺さん、受付におるときは丸眼鏡かけてるからな。やから印象に残りにくいのかもしれんわ」


 俺の心を悟ったかのように四宮さんが言った。あれか、ラブコメでよくある、いつもは眼鏡かけてて地味な女の子だけど眼鏡外したらすげぇ美少女みたいな感じか。きっとそうだ。

 さらに訊くと、四宮さんと渡辺さんは一年の時から仲が良く、クラスメイトからは『二大美女図書委員』と呼ばれているらしい。


「渡辺さんとの会話も関西弁?」

「ううん、標準語。学年は一緒やねんけど、渡辺さんはなんか同いどしって感じがせえへんのよ」


 ふぅん。…てことは関西弁で話すのは俺と野江さんだけなのか。俺は慣れてるけど四宮さんがいきなり関西弁で喋りだしたらみんな驚くだろうな。出身を知っている生徒は何人かいるみたいだが。…話がずれてきたぞ。ずらしたのは俺だが。

 今日も閉館時間ギリギリまで図書室にいた。家に居るよりは四宮さんと話してる方が個人的には楽しい。

 司書の山科先生が来たところで俺と四宮さんは図書室を出て昇降口に向かった。上履きを履き替えているところで四宮さんが俺の肩をつついてきた。


「どうした?」

「ほら、あそこ」


 四宮さんが指差す先には一人の美少女が立っていた。

 透明感のある肌にさらさらのロングヘア、大きな瞳とよくふっくらとした唇に色気を感じる。運動をしているのか体つきはよく胸も大きい。横からわざとらしい咳払いが聞こえたので俺は視線を胸から顔に移した。男だからしょうがないだろ。


「あの人が渡辺京香さん。確か…文芸部やったかな?」


 なるほど、これは人気があるのも頷ける。渡辺さんは俺たちに気づくとゆっくりと近づいてきた。


「四宮さん、隣にいるのは彼氏?」


 四宮さんは頬を赤くしてかぶりを振った。


「い、いえ、違います! 違います! えっと…この方は五組の丹波さんです」

「丹波?」


 なんか俺の名字に反応してるがそんなに珍しいか? メジャーかマイナーかと問われればマイナーだが。


「もしかして丹波先輩の弟?」

「姉貴を知ってるのか」

「知ってるも何もこの学校じゃ有名人よ。弟がいるっていうのは知ってたんだけどまさか君だったとはね。図書室でよく見るけどあんまり印象には残ってなかったの」


 それ本人のいるところで言うことか? 地味にショックなんだけど。


「あ、ごめんなさい。悪い意味じゃなかったんだけど…お詫びと言ってはなんだけどこれから三人でどこか行かない? 丹波君、あなたのことも知りたいし」


 いきなりすぎる。俺と四宮さんは渡辺さんの勢いに押されて駅近のファストフード店に行った。俺はポテトMサイズ、四宮さんは健康志向なのかサラダだけ、渡辺さんはハンバーガー、ナゲット、ポテトLサイズと女子にしてはかなりボリュームのあるセットを頼んだ。


「四宮さん、それだけでいいの? 足りなくない?」

「私、油っこいものが苦手で…夕食もありますし」

「確かにそうね。丹波君も少なめだけど夕食があるから?」

「それもあるけど俺は小食なんだよ。今食い過ぎたら晩飯食べられない」


 今まで会った女子の中では渡辺さんが一番ワイルドかもしれない。それはいいのだがこのままだとただ飯食って終わりじゃん。描写的にいいのだろうかと俺が危惧していると渡辺さんが話しかけてきた。


「丹波君、お姉さんについて訊きたいんだけどいいかな」

「なんでもどうぞ」

「お姉さんはいつも丹波君のことなんて呼んでるの? 仲はいいの?」


 グイグイ来るな。知ったところで何もないだろうに…。


「たまに『あんた』で呼ばれることあるけど基本的には下の名前。仲はどっちかと言えばいい」

「丹波君の下の名前は?」

「翔太、飛翔の『翔』に丸太の『太』で翔太」

「そうなんだ。…ねぇ、翔太君って呼んでいい?」


 マイペースだなぁ、おい。カップルじゃないんだから『丹波君』でお願いしたい。俺がその旨を伝えると渡辺さんは残念そうな顔で首肯した。もし学校で俺が渡辺さんから『翔太君』と呼ばれれば確実に変な噂が広がるし、土居のような二次元オタクを除く男子全員が俺の敵になる。

 

「そういえば、四宮さんと丹波君は二人でどこにいたの?」

「図書室です。放課後、丹波君とよく話すんです」

「へー、あそこ放課後ほとんど人来ないのに…」


 まあ、俺も行く予定はなかったが本を返し忘れてたからな。それがなかったら野江さんと会うことも、昼休みに図書室の受付を担当しているのが渡辺さんであることにも気付かなかっただろう。

 食事を終えて店を出ると外は完全に暗くなっていた。時間を確認しようとスマホの画面を見ると俺は思わず「はぁ!?」と感嘆符と疑問符のついた声(どんな声?)を上げてしまった。着信が五件、メールが七件、ともに母さんからだ。と、六回目の着信。さすがに出ないわけにはいかない。


「…もしもし」

『晩ご飯抜きね』


 その一言で電話が切れ、俺はもう少し食べておけばよかったと後悔した。

 


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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