表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/18

第七話 持久走

 授業開始のチャイムが鳴る前に俺はグラウンドに出て遅刻は免れた。だが授業前から無駄な体力を使ってしまった。

 体育教師の藤森先生が俺を軽く睨み、次は早く来るようにと注意してきた。遅刻してないのに睨まれるっておかしくないか? 俺が列に並ぶと藤森先生が大きな声で授業内容を伝える。


「今日は持久走だ。男子はグラウンド十周、女子は七周走ってもらう」


 一部の生徒(主に男子)が不満を漏らすが藤森先生はそれを無視して、二人ペアを組んで交互に記録を取るようにと指示を出した。俺は当然のごとく土居と組む。


「あー、怠い。持久走って普通冬だろ。なんで春にやるんだ。鬼かよ」


 それは俺も思った。代わりにツッこんでくれてありがとう。


「あれあったらいいのにな。キック力増強シューズ」

「持久走でキック力必要か? スタミナだろ」

「確かに大事なのはスタミナだけど、脚力も要るぞ。あれ使えば結構記録伸びると思うんだよな」 


 そんなもん使ったら記録が伸びる以前にグラウンドえぐれるわ。甚大な被害が出るぞ。

 ちなみに、この学校のグラウンドは一周三〇〇メートルある。つまり男子は三キロ、女子は二・一キロと少し中途半端な距離を走る。と、それは置いといて、


「土居、俺が先に走っていいか。面倒なことは早めに済ませたい」

「ああいいぜ。俺は順番気にしないから」


 俺はスタート地点に立ちその場で一回屈伸した。三キロなら十分切ればおんの字かな。藤森先生の笛の音を合図にみんなが一斉に走り出した。初っ端から何人か飛ばしているが陸上部の生徒ではなさそうだ。腕の振りがめちゃくちゃだしこれは後半へばって一気にペースが落ちるパターンだな。

 かく言う俺も五周目までは順調だったが六周目に入ってからペースが落ちてきた。八周目に入るとすでに走り終えた生徒がちらほら見える。これは陸上部の生徒だろうな。しかもそれほど疲れていないようで俺は自分のスタミナのなさを嘆きたくなった。三キロ走り終えると俺はトラックから外れしゃがみこんだ。土居が大丈夫かと訊いてきたが息が上がって声が出ない。俺はただ頷くことしかできなかった。数分経って俺はふー、と息を吐き心を落ち着かせる。


「土居、タイムは?」

「九分五十八秒、帰宅部でこれは早いと思う」


 おっ、十分切ったか。高二の平均タイムは知らんがまあ悪くはない。陸上部はやはり早くほとんどの生徒が八分台だった。次は土居の番だな。俺は土居からストップウォッチと記録用紙、シャーペンを受け取った。次の走者が走っている間、横にいる男子がなにやら話している。

 

「あーあ、せめて女子とペア組みたかった。なんで異性と組むのはダメなんだよ」

「誰と組んでも一緒だろ。五、六組の女子でいいやついるか?」


 それは五組と六組の女子に失礼だろ。一回謝ってこい。…と直接言えたらどれだけいいか。


「一組は美女が多いよな。渡辺(わたなべ)とか」


 フルネームは出ていないがおそらく渡辺京香(きょうか)のことだろう。彼女は一年生の時に学年トップを取った生徒だ。会ったことはないがかなりの美少女だと聞いている。


「渡辺か…四宮もいいんじゃないか?」


 俺は思わず振り向きそうになった。まさかここで四宮さんの名が出てくるとは…。


「四宮? 俺、一年の時に同じクラスだったけどすげぇ地味な奴だったぞ」

「いつも本読んでるからそう思うだけだろ。渡辺ほどじゃないけど人気あるよ。関西弁で喋ってる姿が可愛いとか」

「え、あいつ関西出身?」

「らしいよ。確か大阪だったかな」


 どっからその情報を手に入れたのか…。その後、別の男子も会話に加わり、この学校で誰が一番美人か話し合っていた。


「二年ならやっぱ渡辺京香だろ。勉強も出来てルックスもいい。もう反則としか言いようがない」

「ホントそれ。マジで彼女にしたい」

「お前は無理だよ。即行で振られる」


 今更だがお前ら授業そっちのけだな。そんなの休み時間に話せよ。


「あの人もいいよな。ほら三年の…あー、名前が」

「もしかして丹波奈々?」

「そうそう! 丹波先輩! あの人も美人だよな」


 また振り向きそうになった。今度は姉貴か。集中できないので俺は奴らの声が聞こえない距離まで離れて走者の方に目を向けた。えーと、土居は今ので七周目か。八周目に入ったときに俺は大声で残り二周であることを伝えた。土居はコクッと頷くと走るペースを上げた。ラストスパートかけたな。土居は走り終えると酔っ払いのようにフラフラとした足取りで俺のもとに来て尻餅をついた。


「…大丈夫か?」

「こ、これが大丈夫に見える…か?」


 …見えないな。タイムを確認すると十二分二十三秒。結果を伝えると土居は渋面じゅうめんを作って悔しさをあらわにした。

 授業が終わり生徒が次々と校内に入っていく。五組の教室は着替え中だから中は男だけ。こんなことを言うのはなんだがむさ苦しい。男子校に通っている学生はどういう気持ちなんだろう。一旦教室を出ようとドアを開けると廊下で待っていた女子と鉢合わせた。


「ねぇ、男子着替え終わった?」

「いやまだ」

「早くしてよ。六時間目始まるじゃん」


 そんなこと言われても俺にはどうしようもできない。というか女子は男子の着替え見ても何も言われないんだし入っても問題ないだろ。…いや、女子からしたら男子の着替えを見るのは抵抗あるか。それから数分経ち六組の男子が続々と五組の教室を出ていく。結局、六時限目開始の三分前に五組と六組の生徒全員が着替えを終えた。だが五組の教室に漂う汗臭さは六時限目の授業が始まるまで消えなかった。


次回、新キャラ登場します。

評価・感想頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ