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第六話 野江千華と忘れ事

 家に帰るとすでに六時半を回っていた。今日は昨日の反省を踏まえ、事前に帰りが遅くなることは伝えていたので特に何も言われなかった。

 ただ、食事中に母さんが俺をジッと見ているのが気になって仕方ない。

 

「翔太」

「…何?」

「あんた、彼女でも出来たの?」


 俺は思わず噴き出しそうになった。いきなり何を言い出すんだよ。


「め、飯食ってる時にそういうのやめてくれ。マジで噴くから」

「だって、ここ最近帰り遅いじゃない。奈々はなんか知ってそうだけど何も言ってくれないし…」

「図書室で勉強してたんだよ。静かで落ち着くから」


 母さんは表情を変えずに俺を見ている。信じてなさそうだな。


「相手が誰かは知らないけどちゃんと守ってあげなさいよ」

「だから彼女はいないって」

「はいはい。早くご飯食べなさい」


 だったら話しかけるなよ。俺はご飯を掻き込み、急いで自分の部屋に戻った。

 俺は勉強優先だから彼女なんて…い…らない。要らない! よし! 勉強しよう。中間テストまで一ヶ月以上あるとはいえ油断は禁物だ。恋愛なんか考えてる暇はない。

 しかし、カラオケにいたときの野江さんの行動には驚いた。男慣れしてんのかな。四宮さんは消極的で野江さんは超積極的。性格は正反対なのに仲は良い。不思議だねぇ。…って違う! 勉強だ勉強。

 だが机に向かってから十分経ってもやる気が出ない。あの某テニスプレイヤーのように「熱くなれよ!」とか言われたら多少やる気は出るかもしれんが灼熱地獄で倒れそうだ。

 

「…風呂入るか」


 勉強が進まないまま誰もいない部屋でそんなことを呟き、俺は脱衣所に向かった。

 脱衣所に着きドアを開けると着替えを終えたばかりの姉貴がいた。姉貴は俺を見て不敵な笑みを浮かべて言う。


「翔太、惜しいね。もう少し来るの早かったらラッキースケベだったのに」


 なんで残念そうなんだよ。ラッキースケベなんて覗いた側がボコボコにされるんだからラッキーでもなんでもないだろ。


「なんなら脱ごうか?」

「アホか」


 俺は姉貴の言葉を一蹴して脱衣所から追い出した。何考えてんだ。

 風呂を上がった後、俺は体と髪を乾かしてすぐに就寝した。


 翌日、学校に着くと昇降口で四宮さんと会った。だが互いにおはようと挨拶しただけでそれ以上の会話はなかった。

 昼休み。いつものように図書室に向かっていると後ろから肩をポンと叩かれ、振り向くと野江さんが笑顔で俺を見ている。何の用だ?


「今、時間あります? 少し上で話しませんか?」

「いいけど…図書室じゃダメなのか」

「うーん。昼休みは人がいますからね。あんまりほかの人には聞かれなくないんですよ」

 

 俺は怪訝に思ったが話の内容が気になったので、野江さんと一緒に人気の少ない四階の屋上近くまで上がり話を聞くことにした。


「で、何を話すんだ?」

「率直に訊きますね。丹波さんは明音のことどう思ってますか?」

「…え?」

「ほら、可愛いとか優しいみたいなその…印象! 明音に対する印象はどうですか?」


 なぜそんなことを訊くのか全く分からない。ただ何も言わないのもなんだし一応答えとくか。


「人思いで優しい子…かな」

「それは好感が持てるという事ですか?」

「まあそうだな。あの、なんでそんなこと訊くんだ?」

「一昨日、明音と丹波さん二人きりで図書室にいたじゃないですか。人見知りの明音がほかの男子と話してるとこ初めて見たから不思議に思ったんですよね」


 ああなるほど。でも放課後はほとんど人来ねぇからな。男女二人きりの状況になることは別に不思議ではない。そういえば姉貴も野江さんと似たようなこと言ってたような…気のせいか。


「野江さん、一昨日も言ったと思うけど俺が図書室にいたのは借りた本を返しに行っただけで、四宮さんと話しに行ったわけじゃない」

「でも仲は良いんでしょう? 明音にストラップ買ってあげるぐらいなんですし」


 なんでそれを知ってんだ? 言った覚えはないぞ。


「明音に聞きました」


 あ、さいでっか。つーか、さらっと俺の心読んだな。


「昨日、明音にどこで買ったのかを訊いたんですよ。そしたら『丹波さんからもらった』って。どういういきさつかは教えてくれませんでしたけど…差し支えなければ教えてくれません? 話せる範囲でいいんで」

 

 いきさつか。正直あの事はもう思い出したくないんだけど…別に減るもんじゃないしな。結局、俺は開き直ってあの事を話すことにした。

 

「…なるほど。でも丹波さん優しいですね。ただ謝るだけじゃなくて、新しく買ってあげるというのは素直に感心します」

「とにかくお詫びしないと気が済まなかったんだよ。あれは俺のよそ見が原因だし」

「丹波さん責任感強いんですね…ってもうすぐ昼休み終わりじゃん」


 もう終わりかよ早ぇな。次の授業は…ヤバい。


「丹波さん?」

「ごめん、俺教室戻るわ。続きは別の機会に」


 後ろで何かを言っている野江さんをよそに俺は階段を下りて早足で教室に向かった。五時限目体育だったの完全に忘れてた。この学校の体育は二クラス合同で行われ、五組は六組と一緒に授業を受ける。そして着替えは男子が五組、女子が六組で行う。

 俺は体操着を教室に入れたままだったので正直助かった。もし逆だったら入るに入れないし無理に入ろうものなら確実に『変態』のレッテルを貼られていただろう。変態扱いされて残りの学校生活を過ごすなんて死んでもごめんだ。急いで五組の教室に戻ると、中にいたのは一人だけで着替えていないのは俺だけだった。


「あれ、まだ着替えてない奴いたのか。もう閉めるとこだったぞ」


 見覚えのない顔だな。少なくとも五組の生徒ではない。


「えっと、その…忘れてた」

「しっかりしろよ。んじゃ、鍵置いとくからあとよろしく」


 六組と思われる男子生徒は教壇に鍵を置いて足早に教室を出た。授業が始まるまであと五分になり、俺は慌ただしい着替えを終えて教室を出た。

 

 

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