第四話 心配性
思ってもいない言葉だった。俺と? まあ断る理由もないし…俺は戸惑いつつも了承した。こっちも話してるの楽しかったし。
俺は四宮さんと一緒に校門を出て下校する。いつもならとっくに帰宅している時間だが、たまにはこういうのもいいだろう。…歩き始めてからずっと沈黙してるな。とりあえず適当に話題出すか。
「四宮さんは何で通ってるの? 徒歩?」
「え? うん…丹波君は?」
「電車。朝が結構辛いけどな」
四宮さんは俺の言葉を聞くと首を傾げて言う。
「せやったら家に近いとこ選んだらよかったのに。もしかして奈々さんと一緒に通いたかったから?」
それはない。まあ主な理由としては俺の自宅近くにある高校が皆私立だからだ。公立と比べると私立の学費はかなり高い。俺の家庭は貧乏ではないが金にはシビアだ。交通費なんてたかが知れてる。
その後、俺は四宮さんと世間話で盛り上がり、駅の近くで別れた。そして駅に入り、定期券を改札に通して階段でホームへ上がった。
「…なぜだ」
ホームには姉貴の姿。姉貴は俺と同様に帰宅部で学校が終わったら即効で帰る。ばったり会わないように時間はズラしてるけどな。
なのに、なんでこの時間に駅にいるんだ。学校に残ってたのか?
姉貴は俺に気づくと意外そうな顔をしてゆっくりと近づいてきた。
「姉貴、帰ってたんじゃないのか」
「いやぁ、本当はすぐ帰る予定だったんだけど、友達と喋ってたら遅くなっちゃって…。そういうあんたは? もしかして明音ちゃん?」
俺は首を縦に振り肯定の意を示す。
「やっぱり。で、メールアドレスとかSNSのアカウントは教えたの?」
はあ? なんでそんなことするんだよ。
「一切してない。する理由がない」
姉貴は「何それつまんない」と言って俺から離れていった。一体何を期待してんだ…。
先に自宅に着いた俺は母さんから遅くなる時は連絡を入れるようにと叱責された。それから遅めの夕食を取り、自分の部屋に行って今日のことを振り返る。
やはり朝早く学校に行ったのは正解だった。ちゃんとお詫びできたし、四宮さんも許してくれたから結果オーライってところか。
それにしても、コミュ障の俺が女子と長時間会話するなんて思ってもみなかった。しかし明日は何を話そうか…。
翌日の朝、いつもの時間に学校に着くと校門で四宮さんと会った。今日は遅めなんだな。
「丹波君、おはよう」
「おはよう。ん? どうした?」
四宮さんは俺をジーっと見ている…かと思うと急に両手を俺の首元にまわして来た。
「え、急に何を…」
「動かんといて」
そんなこと言われても…ってこれはもしや…。
「これで大丈夫やね」
「あ、ありがとう」
どうやらカッターシャツの襟が立っていたらしい。全然気付かなかった。
そして周りの生徒から注目されていることにも気付かなかった。視線が怖い…。
「丹波君、朝からいいねぇ。ラブラブじゃんかよ」
そう言ったのは坂本という男子生徒だった。姉貴に振られた生徒の一人で姉貴の弟だというだけで俺を妬んでいる。実にくだらん。
坂本は俺の右肩を強い力で掴んできた。その目には憎悪の念が滲み出ている。
「坂本、痛いから離してくれ」
「その子から離れたらな。あと俺は三年だ。敬語で話せ」
お前みたいな奴はタメ語で十分だ。俺はふと四宮さんを見た。明らかに困惑している。
「四宮さん先に行ってて。こっちは俺がどうにかするから」
「でも…」
「頼む」
四宮さんは小さく頷くとテクテクと昇降口に向かっていった。 坂本はようやく手を離したがまだ痛みが残っている。もし俺が野球の投手だったら選手生命を絶たれていたかもしれない。
教室に着くと土居がすでに来ておりスマホゲームを堪能していた。指の動きからして音ゲーだな。一年の時に何度も付き合わされたから嫌でもわかる。
昼休みになり俺はいつも通り図書室に向かった。朝のことがあったので四宮さんとなるべく会わないように人の少ないルートを選んで進んだ。
図書室に入るとざっと十人はいるだろうか。ま、ここにいる人は皆おとなしいから教室にいるよりかは静かに過ごせる。
「あ、やっぱりここにおった」
声の方に目を向けるとそこには四宮さんの姿。これじゃあ避けた意味がない。
「丹波君、いつものところ通らなかったんやね」
「いや…たまには違うルートで行くのもいいかなと思ってさ…」
かなり強引だがそういうほかない。四宮さんは怪訝な顔で俺を見たがそれ以上は言わなかった。…これは今のうちに話した方がいいかな。
「四宮さん、ちょっといい?」
俺は手招きで四宮さんを呼び小声で話しかける。
「どうしたん?」
「俺たち、放課後以外の時は会わないようにしないか?」
「え、なんで」
「もし、俺と四宮さんが毎日会ってたら今日の朝と同じようなことが起こるかもしれないだろ? 例えばの話だけどさ」
「考えすぎちゃう?」
「でも、君に迷惑かかるかもしれないし…」
「ふふ。心配性やなぁ」
自分ではそんなことないと思うけど…。そうなのだろうか。
「で、どうだろう。無理にとは言わないけど…」
四宮さんは顎に手を当てて深く考えている。数秒経った後ゆっくりと口を開いた。
「そうやね…変な噂立てられても学校来づらいし」
「ごめんな」
「ううん、放課後会えるだけでも十分」
会えるだけで十分…ね。俺は彼女に慕われるようなことをしただろうか…俺には覚えがない。




