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第二話 彼女と姉貴

 俺は教室に入ると鞄の中に入れていた文庫本を取り出した。土居オタクしか話し相手がいない俺にとっては読書が最高の時間つぶしだ。

 結局、彼女の名前を知ることはできたが出身は分からなかった。まあ、関西であることは確かだろう。半分ほど読み終えたところで土居が教室に入って来た。


「丹波、相変わらず暇そうだな」

「余計なお世話だ。そういうお前は今日もアニメ鑑賞か?」

「ああ。空いた時間に録画したやつ観ようと思ってんだけど、SDカードの容量が満パンで結構やべぇんだよ」


 こいつの頭にはアニメしかないのか。去年赤点取りまくって進級すら危ぶまれてたのに大丈夫かよ。今年も同じことになりそうだな。

 

「それはそうと探してた子は見つかったのか?」

「探してた子?」

「とぼけるなよ。確か金曜だったか。下駄箱の前できょろきょろしてただろ」


 ああそうだったな。しかしなんて返そうか。ほかの生徒もいるし余計なことは言いたくない。


「見つかったよ。それよりもうすぐホームルーム始まるぞ」


 俺がそう言ったと同時にチャイムが鳴り、担任が教室に入って来た。黒板の上にかけてある時計を見るとホームルームが始まる午前八時四十分。土居は「ビンゴだな」と言って自分の席に座った。

 昼休み。図書室に向かうために廊下を歩いていると、四宮さんが反対側から歩いてきた。あの時と同じシチュエーション。さすがに二度も同じ(てつ)は踏まない。

 先に四宮さんが「どうも」と会釈して来たので俺も(なら)って返した。そこから長い沈黙。何か話題を…。


「えっと、俺が渡したストラップは…」


 四宮さんは無言で持っていたスマホを俺に見せた。左下に朝渡した猫のストラップが着けられている。


「今朝はありがとうございました。この猫可愛いですね」

「気に行った?」

「ええ。私猫好きなので」


 それは良かった。かなり悩んで選んだやつだからな。


「あの、お名前訊いてもいいですか? できればクラスも」

「え? ああ、俺は丹波翔太。クラスは二年五組」

「丹波さんですか。よろしくお願いします」


 あまりにも言葉遣いが丁寧なので本当に同学年なのかを疑ってしまう。いつもこんな感じなのだろうか。


「四宮さんっていつもそんな感じなの?」

「はい?」

「いや、敬語使ってるから…学年同じだからタメで喋っても大丈夫だよ」

「でも、会って間もないのにタメは馴れ馴れしくないですか?」

「そんなことはねぇよ。むしろ、同じ年で敬語の方が違和感ある」


 四宮さんは「うーん」とうなり、数秒経って俺に言う。


「そう…なら、そうさせてもらうわ。改めてよろしく。丹波()


 俺も「よろしく」と返し、図書室に行こうと歩きだしたその時、後ろから誰かが俺の目を塞いできた。


「…姉貴か」


 塞いでいる手を振り払い後ろを向くと姉貴が仁王立ちで俺を見ている。


「よく分かったね。声も出してないのに」

「俺にこんなことするのは姉貴しかいない」


 姉貴はつまらなそうな顔で俺を見ると、視線を四宮さんに向け笑顔になった。


「えっと…」 

「いきなりごめんね。私、この子の姉の丹波奈々、この子がほかの女の子と話してるとこ初めて見たからついつい」 

「あ、そうなんですか。初めまして、四宮明音です」


 律儀だな。姉貴は笑顔のまま四宮さんに訊く。


「ねぇ『明音ちゃん』って呼んでいい? 私は奈々でいいよ」

「はい大丈夫です。では奈々さん、よろしくお願いします」


 姉貴は「こちらこそよろしく」と返すと、俺の肩を掴んで耳元で囁いてきた。


「あんたが言ってた関西の子ってあの子? 可愛いじゃん」


 耳がこそばゆい。つーか、密着しすぎだ。


「ああ。でも本当に関西かは知らない。初めて会った時に方言が出てたからそう思っただけだし」


 姉貴は「ふーん」と言うと再び四宮さんに問う。


「明音ちゃんって出身どこなの?」

「大阪ですけど…それが何か」

「ううん。何でも」


 意外だな。あの時方言が出てなかったら絶対分からなかった。俺の勝手なイメージだが大阪の人は常にテンション高そうで四宮さんの見た目からは想像できない。まあ想像と現実が違うことは往々にしてある。…というか姉貴いつまで体を密着させてんだ。俺は姉貴を引き離して乱れた服を整えた。


「色々答えてくれてありがと。それじゃ私はこれで」


 姉貴は俺の肩をポンと叩き、手を振って階段を下りていった。


「…綺麗な人やったな」

「そう…だな。姉貴は結構モテるらしいし」


 実の姉を褒めるのは抵抗があるが確かに姉貴は綺麗というか容姿はいい。学力も高くテストは一年生の時からずっと三位以内(と聞いている)に入り、二年生の時は学年トップの座に立った。

 ただ性格がな…本人に自覚があるか分からんがさっきみたい恥ずかしげもなく俺に体を密着させてくるのが玉にきずだ。それもあって俺は数十人の男子から敵視されている。何もしてないのに理不尽だろ。


「というか四宮さん、姉貴には敬語なんだな」

「年上の人と会話する時は敬語の方が落ち着く。それよりも私もあんな姉がおったらなぁ…。羨ましいわ」


 初めて姉貴を見る生徒は口をそろえてそう言うがそれは幻想だ。


「四宮さん、見た目に騙されたらダメだ。姉貴は何十人もの男に告白されて全員あっさり振ったとか言われてる」

「え、そうなん?」

「実際に見たわけじゃないけど、学校ではそういう噂が広まってる」

 

 振った理由は知らんが別に知ろうとも思わない。付き合うか否かは姉貴が決めることだし他人がとやかく言ってもしょうがない。


「それじゃ俺は図書室に…」

「もう昼休み終わるけど…」


 俺の「え?」という返事と同時に昼休み終了のチャイムが鳴った。結局今日も行けなかった。


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