表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/18

第十六話 協力

 テストが終わってから一週間経ち、答案用紙が返却された。苦手の英語が足を引っ張ってしまったが、ほかの教科が良かったので上手くカバーできた。ちなみだが学年順位は一位はやはり渡辺京香、二位は四宮さんで図書委員がワンツーフィニッシュ。(おおむ)ね予想通りだ。俺は九位でギリギリ目標は達成できた。そして土居は今回赤点の教科はゼロ。なんとか追試は免れた。

 

「丹波、お前のおかげだ。やはり持つべきは友だな」

「それはどうも。次は自分で頑張れよ」


 もうすぐ六月、今月は勉強漬けだったから息抜きに今日の帰りゲーセンでも寄るか。この前土居の誘い断っちまったし…。

 四時限目が終わって昼休み、俺が教室で一人寂しく昼飯を食べていると丸眼鏡をかけた渡辺さんが俺の目の前までやってきた。数人の生徒が「あれ渡辺京香じゃないか?」と気づいているようだが大きな騒ぎにはならなかった。

 

「俺に何か用か?」


 渡辺さんは頷き、小さな声で俺に訊いた。


「丹波君は小説書いたことある?」

「小説? まあ短編ならいくつか」

「そう…なら放課後、少し協力してくれないかしら」

「協力?」


 俺は渡辺さんから依頼内容を伝えられ、放課後、彼女と一緒に三階にある文芸部部室の視聴覚室へ向かう。


「小説の執筆か…部員には頼まなかったのか?」

「頼んだけどうちの部員はみんな読み専だからね。書くのは私だけ」


 渡辺さんはそう言って軽くため息をついた。視聴覚室のドアを開けると二人の部員がいる。そのうちの一人が渡辺さんに訊いた。


「部長、その方は?」

「同じ学年の丹波君、少し協力してもらおうと思ってね」


 その生徒は「はぁ」と素っ頓狂な声を出した後、怪訝な顔で俺を見た。悪い事はしないから安心しろ。


「で、渡辺さん、書いてる小説のあらすじを簡単に教えてくれないか」

「あらすじね。えーと、普通の高校生と優等生の美少女が偽の恋人関係を結んでそこから話を展開させたいんだけど、上手くいかなくて…」


 ラブコメの定番テンプレだな。個人的にはあらすじを変えた方がいいような気がする。

 

「少し訊くけど丹波君はラノベ読む?」

「ああ。俺○イルは特に」

「へぇ意外。男子でもラブコメ読むんだ」


 俺からしたら君がラブコメ書く方が意外だよ。博学だからミステリーとかSF書いてるのかと思った。

 それは置いといてまずはストーリー展開だな。キャラクターとタイトルは後でもいいだろう。


「渡辺さん、あらすじなんだけど、少し定番すぎると思うんだよ」

「そうかなぁ…じゃあ丹波君はどういうのがいいの?」


 直接訊かれると返答に困るな。どういうあらすじがいいのか…。

 俺は思考を巡らせる。既存の作品にはない設定…ムズイ。


「そうだな…普通の男子と優等生の美少女はそのままでいい。二人は両思いでクラスメイトってことにしとこう。それで二人とも人見知りであまり話さない。そこに恋のキューピット的な少女が主人公の前に現れて…」


 そこで俺は言葉に詰まった、渡辺さんは俺を見て何度か頷く。


「即興でよくそこまで思い付くわね。ストーリー構成はどうする?」


 そこなんだよな。小説は読むのと作るのとでは勝手が違う。


「渡辺さん、作る小説は短編と長編どっちだ」

「長編。十万文字書く予定」


 本一冊分かよ。そんなに書いてどうすんだ。


「今年の夏に開催される夏コミで書いた小説を出そうと思ってるの。開催は八月だからまだ二ヶ月余裕あるけど、早いうちにやっとかないと間に合わない」


 夏コミか。俺は行ったことないが土居は『戦場』と表現していた。渡辺さんも乗り込むのか…勇者だ。


「去年は準備不足で結局出せなかったからね。今年はリベンジしたいの」

「なるほどね…つーか、去年の小説は残ってないのか?」


 渡辺さんは首を横に振った。それは残念。

 俺は自分が帰宅部だということを完全に忘れ、渡辺さんと小説の案を出しあっていた。


「あ、そうだ。四宮さんがいるんだし、メインヒロインを関西人にしてもいいんじゃない? ラブコメであんまり出ないでしょ?」


 確かにそうだな。サブではいるけどメインヒロインで関西人はあまり聞いたことがない。


「…ということで協力してほしい。無理にとは言わない」


 俺は図書室に行き、事情を伝えた上で四宮さんに交渉することにした。

 

「別にええけど、完成はいつなん?」

「それはまだ決まってない。ただ渡辺さんは最低でも一ヶ月って言ってた」

「一ヶ月も…すごいな。私はよう書かん」

 

 だと思う。十万文字なんてプロでもそうすぐに書けるものじゃない。

 図書室が閉館時間になり、俺と四宮さん、渡辺さんは学校近くのファミレスで小説のストーリー構成を考えることにした。


「丹波君の言った恋のキューピットはいつ登場させようか」

「俺の案を採用するのか」

「私はいいと思うけど…」

「ダブルヒロインもいいんじゃないでしょうか」

「うーん…ヒロイン一人の方が一途でいいと思う」


 皆で意見を出し合うが一向に噛み合う気配がない。これは思ったよりも苦戦しそうだ。夏コミまで間にあうのだろうか…。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ