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第十五話 これはデートではなくお出かけ

 五日間に渡るテストが今日で終わり、緊張な面持ちだった生徒も解放感に満ちあふれていた。だが、中にはテストの出来が相当悪かったのか、絶望感に(さいな)まれている生徒も何人かいた。まあ…ドンマイ。俺は専ら土居の勉強を見ていたので自分のことに手が回らなかったが今回は手ごたえを感じている。

 活動が止まっていた部活も今日から再開された。俺は直接見ていないが、運動部の生徒はよほど待ちわびていたようで、皆(スーパー)サイヤ人並みのオーラを放っていたらしい。…もちろん嘘だ。本当にそんなオーラを放ったら学校どころか地球が危ない。

 テストが終わってすぐ、俺は土居にゲーセンに誘われたがやんわりと断り図書室に向かう。図書室に入るとさっそく四宮さんが俺に話しかけてきた。

 

「丹波君、テストどうやった?」

「結構良かった。多分十位以内には入ってると思う。四宮さんは?」

「私はまあまあかな。一位は多分ない。良くても二位」


 まあまあと言った割にはやけに自信のある発言だな。四宮さんは元のポテンシャルが高いから上位を取るのが当たり前になっているのだろう。

 テスト前、自主勉強で多くの生徒がいた図書室も今は俺と四宮さんだけ。俺の憩いの場がようやく戻って来た。

 

「なぁ丹波君、今からどっか行かへん? せっかくテスト終わったんやし」

「今から? 図書委員の仕事はどうすんだ」

「山科先生がおるから大丈夫。な? ええやろ?」


 四宮さんが珍しく積極的だ。気持ちはありがたいんだが前のことがあるからなぁ…。


「もしかして、また噂が広がるのが嫌なん?」


 俺は返答に困ったが、ほかに言うことが思い付かなかったので首を縦に振った。四宮さんは数秒唸って言う。


「…別にええやん」

「え?」

「丹波君この前()うてたやん。『言わせたい奴には言わせたらいい』って。噂とかそんなんいちいち気にしてたら(なん)もできひん」


 そんなことよく覚えてるな。この前つってもそれを言ったのは一ヶ月近くも前だ。


「友達と一緒におったらアカンの? そんなことないやん。私は丹波君と話すのめっちゃ楽しいで」


 彼女の言葉はとても力強く俺は思わず気圧されそうになる。まあ実際に付き合ってるわけじゃないしな。

 ということで、俺は四宮さんと学校を出てどこかに行くことにした。完全な見切り発車である。

 

「四宮さんどこか行きたい場所ある?」

「うーん…書店」


 だったらあのまま図書室にいたらよかったのに…本いっぱいあるじゃん。内心でそうツッコミながら俺と四宮さんは学校近くにある書店に入った。四宮さんが真っ先に行ったのはラノベが置かれているコーナー。有名な作品から新刊までほぼ網羅している。四宮さんはその中から新刊のラブコメ作品を手に取った。


「これおもろそうやな」

「四宮さん、ラブコメ好きなのか?」

「うん。一日一回は読んでる」 


 やっぱり女子は恋愛モノ好きなんだな。まあ、俺も読むけど。

 結局、四宮さんは本を一冊購入し、十分も経たずして書店を出た。店員が俺に向けて『一冊ぐらい買えよ』と目で訴えかけてきたが俺はスルーした。金にあまり余裕はないんだよ。

 書店を出た後、俺たちは無人の公園のベンチに座り、四宮さんは買った本の梱包を外してさっそく読み始めた。

 

「これってさ…デートなのかな」

「デートなん?」

「四宮さんはなんだと思ってるんだよ」

「…お出かけ」


 これはお出かけ? もうお出かけとデートの違いが分からん。


「私はお互い異性として好意を持ってたらデートと思ってる。まあ人それぞれ個人差はあるやろうけど…」


 ああなるほど、四宮さんはデートをそう定義してんのか。言われて見ればそうかもしれない。

 それから俺と四宮さんは小一時間話をして公園を出た。まだ日は高いからもう少し一緒にいてもいいかな。だが公園を出てからずっと歩きっぱなしだ。足が痛い。


「四宮さん、少し休まねぇか。疲れた」

「さっき公園で休んだやん。しゃあないなぁ…。じゃあ、あの喫茶店で休もか」


 四宮さんが指さす先にはレトロな雰囲気が漂う喫茶店。店名が書かれている大きな看板が目立つ。


「ここで休もか。めっちゃおしゃれやし」

「そうだな」


 俺と四宮さんは店に入り二人掛けのテーブルの椅子に座る。店内の壁には複数の絵が飾られており、中央の天上にあるスピーカーからはクラシック音楽が流れている。俺はココア、四宮さんはココアと一緒にホットケーキを頼んだ。甘いものを食べているときの四宮さんはとても幸せそうな顔をしている。俺は頬杖をつきながらその姿を見ていた。


「ん? 私の顔になんかついてる?」

「いや、美味しそうに食べてるなぁと」

「だって甘いの好きやもん、丹波君は甘いの好き?」

「どっちかと言われれば好きかな。あんまり食べないけど」

「そうなんや。ん~! これホンマ美味い!」


 普通のホットケーキなのにすごく美味そうに食べてる。…なんかお出かけとかデートとかどうでもよくなってきた。細かい事考えんのは時間の無駄だ。

 四宮さんはホットケーキを食べ終えると追加でイチゴパフェを注文した。小柄な体に似合わず結構食べるな。

 

「あ~、美味しかった。機会があったらまた()よ」

「四宮さんって結構食べるんだな。カロリーは大丈夫なのか?」

「大丈夫、食べた分運動するから。…そろそろ帰ろか。もう遅なってきた」


 外を見ると日がだいぶ落ちてきている。店に入ったときはまだ日が高かったのに…だいぶ長くいたんだな。

 俺たちは店を出てそのまま駅に向かう。明日は休みだし少しぐらい帰りが遅くても問題ないだろう。

 歩きながら俺は思う。四宮さんの定義に当てはめると、先月に映画館に行ったのもこれも両方お出かけ。俺たちはまだ『友達』止まり。本当のデートができるのはまだまだ先になりそうだ。


 

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