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第十二話 いつの間にか彼女と友達になっていた

 図書室の施錠を終えた四宮さんが俺のもとに来て、一緒に校門を出て帰路に就く。

 土日を除くと今日で六日連続一緒に下校している。この光景を見られたらまた誤解を招きそうだが、周りに同じ制服を着た生徒は俺の見る限りいない。

 

「丹波君」


 急に名前を呼ばれ狼狽(ろうばい)しそうになったが、俺はそれを表に出さず四宮さんを見て「なんだ?」と言った。


「下駄箱のとこで誰かに怒鳴ってたけど何かあったん?」

「あー、えっと…俺と四宮さんが付き合ってるって噂が本当かどうかしつこく訊いてきてな。思わず…」


 あながち嘘ではない。しつこくはなかったが訊いてきたのは事実だ。しかも、朝からジロジロ見られてイラついた状態で、四宮さんとヤッてるかなんて訊かれたらそりゃ怒鳴りたくもなる。胸倉は掴んだが殴るのはさすがに自重した。

 四宮さんは「そうなんや」と言った後、はぁ、とため息をついた。


「まさか見られてたなんて思わんかった。丹波君気付いた?」


 俺は首を横に振った。気付いてたらとっくに言ってる。


「もうその事は忘れよう。言いたい奴には言わせればいい」

「そやね」


 沈黙の中、俺と四宮さんは前を向いて歩く。四宮さんは小柄ながらも歩く速度は結構速い。デートの時もそうだったが男の俺とほぼ同じ速さだった。俺が遅いということはないと思うが…何かスポーツでもやっていたのだろうか。


「四宮さんって何か習い事してた? スポーツとか」

「え? 小学生の頃ソフトボールやってた。一回だけ全国出たことあるで。初戦敗退やったけど」


 へぇ、全国か。初戦敗退でも十分すげぇよ。


「今はもうやってないのか」

「やってない。ソフトボールが嫌いになったわけちゃうんやけど練習がキツイねん」


 なるほどね。全国レベルになるとその分練習もハードになる。それは仕方ない。

 

「丹波君は習い事してたん?」

「俺は全然。ずっと家に引きこもって本読んだりゲームしたりで…」

「外で友達と遊んだりとかは?」


 悲しいかな。俺は小さい頃から友達と呼べるような存在はほとんどいなかった。いてもせいぜい一人か二人。今は…土居ぐらいだな。

 四宮さんは俺が黙り込んだことが心配になったのか、横から覗いて「大丈夫?」と訊いてきた。俺は笑顔を作って頷く。

 

「いきなり黙るからびっくりしたわ。変な事言うてしもたんかと思った」

「四宮さんは何も変な事言ってないよ。悪いな心配かけて」

「別に心配したわけちゃうけど…なんかあったらすぐ言ってな。私ら()()やろ?」

 

 …え? 友達?


「俺たち…友達なのか?」

「なんやと思ってたん?」

「…同じ学年の生徒」


 俺の返答に四宮さんは不機嫌な顔になり、頬をぷくっと膨らませる。


「丹波君、私をそういう風にしか見てなかったん? 友達やなかったらこうやって一緒に帰らへんやん」


 まあ確かに。一緒に映画館に行ったりもしないわな。


「ちょっとショックやわ。丹波君がそう思てるんやったら友達関係なくしてもええけど」

「違う! そういう意味で言ったんじゃない。えっと、その…」

「はは、冗談や冗談。そんな焦らんでもええやろ」


 本気で焦った自分が恥ずかしい。鏡で見なくても顔が紅潮しているのが感覚で分かった。

 四宮さんは屈託ない笑顔で俺を見ている。俺はその姿に思わず見惚(みと)れてしまいそうになった。

 …なんだろう。今この瞬間がとても楽しい。俺は気分が高揚して思わず笑いが出てしまう。四宮さんは最初目を丸くしたが、徐々につられて笑みがこぼれる。

 周りに人がいなくてよかった。何も知らない人が見たら確実に引かれていただろう。

 

「今日の丹波君おかしいで。ホンマに大丈夫?」

「大丈夫だよ…四宮さん」

「何?」

「友達って言ってくれてありがとう。すごく嬉しかった」


 こんな台詞が出るなんて俺は本当におかしくなったのかもしれない。まあ、いきなり笑い出す時点ですでに異常だが…。四宮さんは頬を赤らめ「どういたしまして」と返した。駅が見えてきたところで四宮さんが何かを思い出したように「あ」と声を上げる。

 

「そういえば、もうすぐゴールデンウイークやな。丹波君予定ある?」


 もうそんな時期か。去年はただボーッと過ごしてたから、今年ぐらいはちょっと出かけようかな。来年は進路のことで遊ぶ余裕はないだろうし…。


「今のところ予定はないな。四宮さんは?」

「私は千華とあのスイーツ店行こう思てんねん。丹波君が土曜日に連れて行ってくれたとこ」


 野江さんも甘党なのか。俺は二日前の記憶を辿る。ショートケーキを頼んだことは覚えてるんだがそれ以外の記憶は曖昧だ。

 駅に着き、改札で四宮さんとお互い顔を見合わせる。


「ほな、また明日」

「ああ。じゃあな」


 俺は軽く手を振り改札を通ってホームへ向かう。十分にも満たない短い時間だったが不思議と長く感じた。それにしても、あのストラップの件が起こるまで一度も話したことなかったのに、もう友達に格上げされたか。俺がお詫びしてなかったら、さっきみたいに四宮さんと話すことはなかったな。うん。間違いない。

 

ストックが切れたので明日は投稿できないかもです。

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