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第十一話 噂

 学生や社会人にとって憂鬱であろう月曜日。俺は学校に着いて早々、周りから強い視線を向けられた。

 そのほとんどは男子によるもので、羨ましそうに見る者もいれば、ただ睨んでいる者もいる。もう嫌な予感しかしない…。

 俺は何もないことを祈りながら昇降口で上履きに履き替え、教室のある三階へ向かう。

 教室のドアを開けると、あらゆる方向に向いていた生徒の視線が一斉に俺に向いた。怖っ。

 怖すぎて正直入りたくないが、ホームルームまであと五分を切っている。俺は仕方なく生徒をカボチャだと思っておそるおそる教室に入り自分の席に座った。わ~、カボチャがいっぱい(白目)。

 ほかの生徒が俺を見る中、普段通りゲームをしている土居に小声で訊く。

 

「土居、俺、すげぇ見られてる気がするんだけど、何か知ってるか?」


 土居は一旦手を止め、俺を見て無表情で答えた。


「お前と一組の四宮明音が付き合ってるって噂が学校中で広がってんだよ。多分それじゃねぇの?」


 俺はその場で硬直した。付き合ってる? 俺と四宮さんが? 


「先週の土曜日にお前と四宮が映画館から出ていくところを何人かの生徒が見てたんだとよ。誰かは知らない」

 

 土居は説明を終えると中断していたゲームを再開した。さっきから俺に視線が向けられてるのはそれが原因なのか。噂って怖い…。

 

 昼休み。俺は居苦しい教室を出てすぐのところで誰かに肩をポンと叩かれた。直近一週間の俺の肩事情を振り返ってみよう。先週の月曜日に姉貴に肩をポンと叩かれ、火曜日は坂本に肩をガシッと掴まれ、水曜日は野江さんに肩をポンと叩かれ、四宮さんに肩をチョンとつつかれた。みんな俺の肩狙い過ぎじゃね? んで今日は…誰だ? 見たことはあるんだが。


「私の事分からない?」


 声で察した。眼鏡かけてるだけでだいぶ印象変わるな。


「渡辺さんか」


 目の前にいる少女はコクッと頷き、さっそくあの話題を持ち出してきた。

 

「今朝は大変だったみたいね。四宮さんも朝から質問攻めに遭ってたわ」


 やはりそうか。学校中に広がるぐらいだから四宮さんの影響力は相当強いんだろう。そしてこの渡辺京香も…。


「どうしたの? 私をジッと見て」

「いや何も。それより渡辺さん図書委員だろ? 図書室にいなくていいのか」

「今は山科先生がいるから大丈夫。そういう丹波君は行かないの?」


 行きたいのはやまやまなんだが、朝の噂がまだ収束していない。そんな状態で図書室に入ったら変に注目されそうで行くのを躊躇ってしまう。…まあ今も注目されてるけどな。多分(まと)は渡辺さんだろうけど…。


「あの人、四宮明音の彼氏じゃない?」

「え、マジ!? てか横にいるの渡辺京香?」


 渡辺さんは自分の名前が出たことが予想外だったのか、「え?」と言って声のする方を見た。そしてなぜか俺の手を取って走り出した。どこからか「廊下を走るな!」という声が聞こえたが今回だけ許してくれ。渡辺さんがダン! ダン! ダン!と大きな足音を鳴らしながら階段を上がる。人が見えなくなったところで渡辺さんは足を止め、俺の手を放した。はぁ、はぁと息を切らしながら渡辺さんが言った。

 

「おっかしーな。ちゃんと眼鏡かけてるのに」

「眼鏡?」

丸眼鏡(これ)、私だと気付かれないようにかけてるんだけど、さっきバレそうになって焦ったわ」

「バレて困ることでもあるのか」

「眼鏡外すと男子の視線が集中するから嫌なのよ」


 渡辺さんはそう言って眼鏡を外した。そこには俺の知っている渡辺京香の姿。

 

「ところでなんで俺まで連れてきた?」

「え? つい反射的に」


 反射的って…勝手に人を巻き込むな。

 渡辺さんは眼鏡のレンズをハンカチで拭き再びかけた。周りを見渡すと三年のクラス名が書かれている表札が見える。三年は進路のことがあるし邪魔しちゃ悪いからさっさと降りよう。渡辺さんとは二階で別れ、俺は外に出て適当に時間を潰した。

 時間が過ぎるのは早いものであっという間に放課後になった。俺は図書室に向かい、こそっと中を覗いた。…四宮さんだけか。いつも通りだ。


「よっ、四宮さん」

「あ、丹波君。朝大丈夫やった?」

「うん、まあ…そっちは?」

「めっちゃ大変やった。教室入ってクラスの人から丹波君と付き合ってるんか訊かれて…渡辺さんが止めてくれたけど」


 お互い大変だな。多分、映画館で俺たちを見た生徒が勘違いして付き合ってるなんてデマを流したんだろうが、かなり面倒なことになったな。土居は学校中に広まってるって言ってたから、完全に誤解が解けるにはだいぶ時間がかかりそうだ。…まあ人の噂なんて七十五日どころか一週間も経てばすぐ忘れ去られる。そこまで気にしなくても大丈夫だろう。

 今日も適当に四宮さんと駄弁(だべ)って図書室が閉まる時間になった。俺は先に図書室を出て昇降口で四宮さんを来るのを待つ。


「よお、丹波」


 俺に声をかけたのはクラスメイトの…誰だったか。新学期が始まってもうすぐ三週間になるが生徒の名前はまだ全員覚えきれていない。


「ちょっと訊きたいことがあるんだがいいか?」


 どうせ四宮さんのことだろ? もう分かりきってる。


「お前、一組の四宮明音と付き合ってるって本当なのか?」


 できれば期待を裏切ってほしかった…はぁ、面倒くせぇな。


「誰が言いだしたかは知らんが俺と四宮さんは付き合ってない。不確かな情報を鵜呑みにするな」

「でも、一緒に映画館には行ったんだろ?」


 俺は若干苛立ったが、息を吐いて気を落ち着かせる。そして野江さんの名前を伏せたうえで、本当は野江さんと四宮さんが映画館に行く予定だったが、野江さんが当日に体調不良でキャンセルして俺が代わりで呼ばれたことを伝えた。これで納得してくれればいいんだが…。


「事情は分かったよ。けどなんでお前なんだ。代わりならほかにもいただろ」


 そんなの俺が訊きてぇよ。なんでだろうね。


「とにかく、四宮とは付き合ってないんだな?」


 俺は首肯した。話し始めて一週間ぐらいしか経ってないのに付き合うなんて両思いでもない限りありえない。


「念のために訊くけど、まだ四宮とはヤッてないよな?」

「バカかてめぇ!!」


 話が飛躍しすぎだ。つーか、場所考えて発言しろ! 人少ないとはいえ女子もいるんだぞ!? 一度顔面に一発お見舞いしたいが、本当にやったら本当に面倒な事になるので理性で抑えた。

 



 

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