番外編 四宮明音と野江千華
今回は千華と明音がメインのお話です。語り手は千華です。
明音と初めて会ったのは中学二年生の時、五月のことだった。
「えっと…大阪の学校から転校してきた四宮明音です。よ、よろしくお願いします」
へぇ、大阪から…確かにちょっと言葉が訛ってる。クラスの生徒からは「可愛い」とか「すごい好み」などの声が聞こえる。
席はあたしの一つ前で位置的に話しかけやすい。けど当時の明音は…というか、今もそうだけど消極的な性格でこっちから話しかけても数分で終わってしまう。明音は人と会話するよりも本を読む方が好きなタイプの生徒でいつも一人で本を読んでいた。
「四宮さん、何読んでるの?」
あたしが訊くと明音は黙ったまま本で顔を隠した。ああ、この子極度の人見知りだ。大阪にいたときもこんな感じだったのかな。
仲良くなりたいけどあんまりしつこく話しかけても嫌われそうだしなぁ…と少し悩んでいたけどそれは杞憂で、一ヶ月も経つと明音も心を開いたのかあたしとよく話をしてくれるようになった。
七月になるとお互い名前で呼ぶようになり一緒に外に出かけることも増えた。そして迫った期末テスト。
「あかねも~ん! あたしを助けてー! 勉強教えて!」
「静かにしいや。ここ図書室やで」
「…ごめんなさい。ていうか明音は勉強しなくていいの? ずっと本読んでるけど」
明音は常に手元に本を持っている。あたしは活字が苦手で一行読んだらすぐに寝る自信がある。
「ちゃんと授業受けてたら大丈夫。私は勉強はしたいときにしかせえへん」
いいなぁ…。あたしもこんなこと言えるようになりたいよ…。
あたしはテストが始まるまでマンツーマンで明音に勉強を教えてもらい、ついに二日間にわたる期末テストが行なわれた。
「明音ー、テストどうだった?」
「悪くはなかったけど満点はないわ。二、三個はミスしてた」
あたしには一生たどり着けない領域に行ってるよこの子。期末テストが終わって一週間経ち、テスト返却の日。
「うーん、微妙…」
あたしの結果は五教科(国、数、英、社、理)の合計が三七一点、前回が三五九点だったので上がったには上がったけど十二点だけ、まあ下がるよりはマシか。
テストの点数はほとんどの生徒が中間より落ちていて、五教科の合計が四百点を超えていたのは二五〇人以上いる生徒の中でわずか三十三人。その三十三人中の一人に明音がいた。
「四宮さんすげぇ! 国語百点じゃん!」
「ホントだ。つか、どの教科も点数高い。四宮さん天才だよ」
みんなが称賛の声をあげても明音は無言。けど頬を赤くしているので嬉しい気持ちはあるみたい。素直じゃないなぁ。
「そんなことない…。上には上がおる」
「いやいや、十分すごいよ」
クラスの一人が言ったけどそれでも明音は首を振る。
「これで満足してたら私は成長できひん。順位がすべてちゃうけど満足するのは一位取ってからや」
教室はしんと静まり返った。ホントにこの子中学生なのだろうか。ちなみに明音はその後の二学期中間、期末、学年末のテストで三回連続学年一位を取り学校中を驚かせた。
三年生に進級するとみんな受験勉強で学力が上がり、さすがの明音もずっと一位というわけにはいかなかったけど学年トップクラスの実力であることに変わりはない。
「明音はどこの高校受けるの? やっぱ進学校?」
「そうやね。私は…」
明音の言った志望校は全国でも有名な私立高校でテレビでも取り上げられたことがある。一方のあたしは普通の公立校。進学校とは謳っているけど明音の受験する高校と比べるとやはり劣る。
あたしは明音と同じ高校に進学したいのが本音だけど私利私欲のために「あたしと同じところ受けて」とは言えない。やはり本人の意志を尊重するのが友人として当然のつとめだと思う。
それはそれとして受験生になると夏休みも勉強漬けだしハロウィンやクリスマスも楽しむ暇がないので正直辛い。結局、その年は一年のほとんどを受験勉強に費やし、ロクにイベントを楽しめないまま新年を迎えた。
「千華ー! 新年あけましておめでとう」
「ん、あけおめー」
「元気ないやん。寝惚けてんの?」
「違ーう! あたしは受験で頭いっぱいなの」
「ああ、なるほど。気負いしすぎんようにな」
あたしの心境は複雑だった。受験まであと三週間、合格できるかどうかも不安だけど明音と学校で会えるのも三月まで、まあ家は近いからプライベートで会えるけどね。でも明音と同じ高校に通いたい。でもあたしの実力が足りないよ~。
月日が経つのは早いものであっという間に運命(は言い過ぎ?)の受験日がやってきた。
はぁ、緊張する…。あたしは重い足取りで高校の校舎に上がり場所を確認する。二階か…受験する教室に入るとあたしは思わず「え」と素っ頓狂な声が出た。そこには昨日受験を終えたはずの明音の姿。
「あ、千華」
「なんで明音がここにいるの? 昨日受験終わったんじゃ…」
「うん、でも私はここが本命やから」
あたしは明音の言葉が理解できなかった。本命? ここが? いったいどういうこと?
明音には訊きたいことがたくさんあるけど今は受験に集中しよう。あたしは鞄から参考書を取り出し復習を始めた。明音の方を見るとパラパラと適当にページをめくっている。あれ読んでるの?
復習も終わりついに受験が始まった。過去問を死ぬほど解きまくったおかげかそこまで苦労はしなかった。受験が終わりあたしは明音と一緒に帰ることにした。
「明音、私立の方が本命じゃなかったの?」
「最初はそうやったんやけど、やっぱり千華と同じとこ行きたいなぁ思て変えたんよ」
明音も同じこと思ってたんだ。なんか嬉しい。
「千華、先に帰っといてええよ」
「え、どこ行くの?」
「昨日受けたこと。今日合格発表やねん」
「もう!? 早すぎない?」
「私立はこんなもん。ほなな」
明音はそう言うと早足であたしを追い抜いていった。気になったので翌日訊きに行くと見事に合格していたらしい。
「すごーい! あ、写真撮ったんだ」
明音のスマホには掲示板に張り出されている番号が写っていた。四〇九六か。
「お母さんに『どうせ入らんのやから撮っても意味ないやろ』言われたけど一応記念に」
まあそれはそうだね。でも全国レベルの進学校に合格しているってだけでも十分な実績だと思う。少しもったいない感じはするけど…。
受験から二週間後、あたしは明音と一緒に受験した高校まで足を運んだ。ネットでも知ることはできるけどやっぱり直接見ないとね。明音は言わずもがな合格だった。むしろ落ちてたら大波乱だよ。
それにしても人が多すぎてなかなか番号が見えない。あたしの番号は…んー? あっ、
「あたしもあった! やったよ!」
はぁ、やっと心から安心できる。もう長すぎるよ…。あたしは明音と抱き合って互いに喜びを分かち合った。
次回は本編に戻ります。




