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第十話 デート2

 映画館にスイーツ店ときて次に行ったのは図書館だった。このチョイスが良いか悪いかは人それぞれだが俺も四宮さんも本は読むから悪くはないと思う。

 図書館では静かにしなければいけないという暗黙の(アンノウン)ルールがあるからコミュ力は必要ない。まあ、あるに越したことはないけどな。図書館は学校の体育館と同じくらいの広さで中にいるのは二十人程度。人口密度は低い。

 中を適当にぶらついて読む本を探す。文庫本コーナーはあった…が、


「マジか」


 読みたい文庫本はあったものの肝心の一巻がない。誰かが借りていったのか。図書館はこういうことがあるからなぁ…。

 仕方なく別の本を取って空いている机に置いた。そういえば四宮さんはどこだ? 

 

「丹波君」


 声のする方に目を向けると四宮さんが分厚い本を二冊持っている。そして俺の使っている机に本を置いた。

 タイトルから見てどっちも難しそうなだな。『相対性理論』に『不完全性定理』か、こんなのマニアしか読まねぇぞ。


「すごいな」

「何が?」

「これ、大人でも分からないと思うぞ。四宮さん分かるのか?」

「正直、私も完全に理解するのは厳しい。でも、難しいものほど理解できた時の達成感って大きいやん」


 確かにそうだな。そこで俺は一つの疑問が浮かぶ。


「四宮さん、そこまでの好奇心があるんならもっとレベルの高い進学校行けたんじゃないか?」


 うちの学校も一応進学校とは言っているが、そこまでレベルが高いかと問われると微妙なところだ。強いて言えば中の上といったところか。四宮さんは俺から視線をわずかに逸らし小さな声で言った。


「一応、私立の進学校を受けて合格はしたんよ。でも途中で千華と同じ学校に行きたくなって…」


 野江さんか。受験した私立の学校名を訊くと俺は思わず「え」と素っ頓狂な声が出てしまった。そこは偏差値が七十を超える全国でも有数の進学校だ。あれ? てことは去年学年トップの渡辺さんは四宮さん以上の実力があるということか。図書委員恐るべし。

 あまり話し過ぎると周りから睨まれそうなので、俺は三十分経たずに四宮さんと図書館を出た。だが外は生憎の雨。


「困ったな」


 朝から曇ってはいたがこのタイミングで降ってきたか。折りたたみ傘は持っているが二人で入るには小さすぎる。近くにコンビニでもあればいいんだが、残念なことに見当たらない。


「どないしよ…私、傘持ってへん」


 選択肢に挙げられるのは、雨が止むまで図書館にいるか、窮屈だが相合い傘で行くかの二つ。ただ後者は恥ずかしい。

 俺はポケットからスマホを取りだし天気予報をチェックした。降水確率は四十パーセント。微妙な数字だな。雨はそんなに強くないから相合い傘でも十分しのげそうだが…。


「四宮さん」

「うん?」

「ちょっと図書館で待っててくれるか? 俺、コンビニで傘買ってくる」


 女の子を一人で待たせるのは気が引けるが、無理に相合い傘で行ったら雨で濡れて風邪を引く可能性がある。四宮さんは寂しそうな顔で俺を見ながら言った。


「分かった。さっきおったところで待ってるわ」

「ごめんな。すぐ戻ってくるから」


 俺は図書館を離れネットでコンビニのある場所を調べる。ここから一番近いところで徒歩十分か。長い道のりだな。

 十分後、目的のコンビニに着くと俺は絶望した。傘が一つもない。店員に訊くとついさっき売れ切れたらしい。最悪だ…。俺は再びコンビニを探し、結局図書館に戻ってきたのは出てから一時間後だった。この前の持久走より体力を使ったかもしれない。

 四宮さんは俺を見るなり安堵の表情で駆け寄って来た。気持ちは分かるけど図書館では走らないように。


「丹波君、どこ行ってたん? 心配したで」

「悪い。すぐ戻ってくるはずだったんだけど、最初に行ったことこが売り切れててさ。でもなんとか買えた。ほら」

 

 俺は買った傘を四宮さんに渡して今度こそ図書館を出た。時間を確認しようとスマホを見ると電源が切れて画面は真っ黒。フル充電じゃない状態で一時間も使い続けたらそりゃ電源も切れるか。

 晴れてたらこんな苦労せずに済んだのにと内心で愚痴をこぼしていると、四宮さんが横で何かを呟いている。いや、歌っている。


「てるてる坊主 てる坊主~ あーした天気にしておくれ」


『てるてる坊主』か。その声は澄んでいてとても心地よい。…そういやこの歌、三番の歌詞が怖いんだよな。

 四宮さんは前を向いたまま二番まで歌い終え、問題の三番に入る。


「てるてる坊主 てる坊主~ あーした天気にしておくれ」

 

 と、四宮さんの歩く速度がだんだんと遅くなり、顔が俺の方に向く。なんだ?  


「それでも曇って泣いたなら…」


 四宮さんは左手をチョキにしてそれを俺の首にゆっくり近づけていく。そして彼女の人差し指と中指が俺の首に触れた。その刹那(せつな)


「そなたの首をチョンと切るぞ」


 訳が分からず呆然としている俺をよそに、四宮さんは悪戯いたずらっぽい顔で「チョキン」と言って切る仕草をした。これが本物だったらと思うとゾッとする。


「ごめん。少し悪戯したくなって」


 俺はただ「はは」と苦笑いするしかなかった。この子を敵に回したら大変なことになりそうだ。

 歩行速度を上げて俺と四宮さんは朝に待ち合わせした駅に着き改札へと向かう。帰りの方向は逆なので四宮さんとはここでお別れだ。


「丹波君、今日はありがとう」

「こちらこそありがとう。気をつけてな」


 四宮さんは「うん」と言ってホームに向かい、その姿を見届けた後、俺は反対側のホームへ向かった。

 雨は上がり綺麗な夕焼けが顔を覗かせる。明日は晴れるだろうか。そんなことを考えながら俺は電車が来るのを待った。

後半はちょっとだけホラー。

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