柔木メイ 7
メイはしばらく施設内をうろうろしていた。コンクリートの壁に手を触れると冷たく硬かった。メイは左手を壁に沿わせながら歩いた。電気は点いているが暗い。匂いはない。臭くも、香水のような匂いもない、ただ湿ったコンクリートの匂いがした。
すると階段に行き着いた。上には完全に人の気配を感じた。すぐそこには居ないと思ったが、それなりに人が居るのだと感じた。
メイ(ばれたらヤバイのかな。)メイは思った。今日やっている事には罪悪感しかなかった。ばれたら100%お母さんに怒られるだろうと。少し膝がガクンとなるのがわかった。
メイ(ここまで来て戻れるか!!)
メイは手を握りしめて上に向かった。もちろんそろりそろりと。まだ人の気配は遠くに感じた。ゆっくりと階段から1階の床を踏みしめた。
――――――――お父さん居る!!
メイはこの階に父ジュウが居ることを感じた。
というより廊下の一番奥に部屋が見えた。後ろ姿でもメイはハッキリとわかった。何度も何度もテレビで、現物で見たあの背中の形、分からないわけがなかった。
メイは走った。途中の部屋には人が居た。その人達も走る音を聞いてしまった。それは何かと確認しようと皆廊下に出ようとしていた。それ以上にメイは早かった。
メイは勢いよくカードキーとパスワードを押し扉を開けた。
メイ「お父さん!!!」
ジュウ「ん?」ジュウはトレーニングパンツ1枚でうなだれるように座っていた。メイの声を聞くとすぐに振り向いた。完全にメイの顔を見た。メイはやっぱりお父さんだったと安心したと同時に耳を疑った。
ジュウ「・・・だあれ?」
対アンノーン用生物兵器第2支部 研修室
教官、研修生が3人、どうやら研修の説明中のようだ。
教官「皆今日はありがとう!今日はここのヒーロー達の問題に触れていこうと思う!」
研修生全員「はい!!」
教官「ヒーローは強い!皆もそれはわかるな?」
研修生全員「はい!!」
教官「では何で強いんだ!?佐藤さん答えて!」
佐藤「日々のトレーニングが尋常ではない事を今日知りました。」
教官「そうだな。今日皆に見てもらった通りトレーニングのレベルではない。というよりここの修行は地獄だ。それに耐えられる体を持つのがヒーローだ!では後藤くん!君は筋トレとかスポーツをしたあとどうなる?」
後藤「・・・?疲れますかね・・・?」
教官「うん、まあそうだな。その疲れが時に気持ちいいと思ったりスカッとすることはないか?」
後藤「ああ・・・あります!たまに余韻に浸ることもありますね。」
教官「そうだな・・・実はそれがヒーローにとって最大の弱点なんだ・・・」
研修生全員「・・・?」
教官「今日見た通りヒーローは何もなければずっとトレーニングをしている。どう見えた鈴木さん?」
鈴木「凄くカッコよかったです!!ヒーローの姿がそこにありましたよ!!」
教官「うん。それが終わった瞬間になるんだ・・・」
研修生全員「なる?」
教官「その筋トレやトレーニング後にドーパミンやら脳内物質が出て気持ちよくなるっていう現象があるが、ヒーローは脳内物質が2倍~5倍出てしまうのだ・・・そして成るんだ[賢者モード]に!」
後藤「け・・・賢者モード!!!!!」
佐藤・鈴木「賢者??ゲーム?」
教官「通常の[賢者モード]の8倍脱力する。」
後藤「は・・8倍!!??」
佐藤・鈴木「通常ってまずわからないんですけど・・・」
教官「ここでジュウにあったよね?」
研修生全員「はい。」
教官「彼なんかは賢者モードになったらもうラリってるからね。相手にしない方がいいよ。幻覚まで見てるんだ。」
――休憩室
ジュウ「君だあれ?可愛いねぇ?僕と遊ぶ?遊びますか?」
ジュウは口からよだれを足らし床を這いずりながら、さらに目は焦点が合わず髪も乱れていた。
メイ「お父さん・・・メイだよ・・・?」
ジュウ「メイ?メイちゃん?僕の子供もメイちゃんだよー!!」
メイ「あぁ・・・」
メイは頭の中が真っ白になる。目の前が洪水になった。ぐにゃあと空間が曲がりくねって平衡感覚を失った。
そして意識を失った。