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7.幼馴染と小学生の化学反応

「それで、いいろちゃんは照史のことをどう思っているの?」

「むぅ、いいろがアキちゃんのことをどう思ってても勝手じゃないですか。それこそ良空さんこそどういう目(・・・・・)で見てるんですか?」

「ぐぬっ、言うわね。アキちゃんとかあだ名までつけちゃってからに。……けしからんっ」

「ふふふ、こういうものは言った物勝ち(・・・・・・)ですよ」


 ……どうしてこうなったのだろう。


 俺の目の前では俺といいろちゃんと鳴流の三人で俺お手製のひやむぎを囲んでいる。

 ……事の発端は15分ほど前に遡る。


「ただいまー……って母さんは婆ちゃんとこ行ってんのか。なら誰もいな……」


 言葉を詰まらせた俺の視線にいたのはつい先日、帰郷してきたばかりの鳴流であった。あ、そういや鳴流は鍵を隠してる場所知ってたんだっけ……。


「あ、おかえりー!」

「ああ、ただいまー。ってそうじゃねえ!」


 お前なに勝手に人の家に上がり込んでんだ!?俺はそんな言葉が口から出そうになったが堪えた。仕事がなくて暇な上に他の連中もそんなに暇じゃないのだろう。

 まあ、休みの期間だけでも大目に見るとするか。そう心に決めた。


「お邪魔してるよー」

「ごゆっくりしてけ」


 ……というか人のたけのこを勝手に食うとはいい度胸だと思った。大目に見ると決めた手前文句をいう気は無かったが。


「あ、そうそう。照史の部屋にあるマンガ勝手に読ませてもらってるよー」

「ほいほい」


 というか俺の部屋にあるマンガ男性向けのファンタジー系だから面白くないだろうに。

 そう思い尋ねてみると、


「まあアイドルやってるし、色々と知識を深めとかないとねって。だってこういうサブカルチャーを知ってるアイドルって親近感が湧くと思わない?」


 と返された。

 確かにそうだなと納得していると、兄貴に頼まれていた通販の物品を忘れていた。頼まれて受け取っていたのだ。

 何かって?

 男なら大抵がお世話になるPCゲーだ。ナニとは言わんけどな。


 ダンボールごと兄貴に渡しに行くと鳴流が俺について来ていたようで兄貴に挨拶をした。

 まあ鳴流はそんなに兄貴とは話す仲ではないが中学時代はよく共謀して俺にちょっかい、もとい構ってアピールをしていた。


「ん、兄貴とは話してなかったのか」

「いや、家に上がる時に少し会ったよ?ただ無言で話しづらくてね」


 まあ久々の相手だと話しづらいか。

 兄貴も兄貴で昨日帰ってきてたみたいだし、一体どこで何をやってるんだか。


「ところで、なにか食ってくか?」

「ふあ、そうだね。久々に照史のひやむぎを頂きたいな」


 ふむ、そうだな。

 ひやむぎなら簡単だしアレンジのつゆも色々と作れるから飽きる心配はないか。


 そう考えているとチャイムの音が鳴る。チラリと時刻を確認すると16時前を指している。


 となると、いいろちゃんか。


「はーいよー」


 小走りで玄関を開くとそこにはいつもと変わらず嬉しそうないいろちゃんの姿が。


「今日も来たよっ、アキちゃん!」

「お、おう」

「いいろちゃんっ、こーんにーちわっ!」


 いいろちゃんはむっすーとした目で鳴流を睨みつけていて、なんだか敵対しているようで少し腰が引けたのは黙っておくとしよう。


「……えぇと、ひやむぎを作るからいいろちゃんも一緒にどうかな?」

「わぁっ、喜んでっ!」

「……えと、それじゃあリビングで待っててねー」


 仇敵を見つめるかのようなその視線は一気に喜びの輝きを放ちだし、俺は困惑しながらもキッチンへと向かう。


 そうして五把ほどひやむぎを作って見てリビングに戻ればこの有様だ。いやまあ作ってる時もこの様子が見えてたから戻りたくはなかったケドね!


 いいろちゃんは言わずもがな美少女だし、鳴流は上京してアイドルをしていて顔は悪いどころかいい方だ。両手に花とはこの状況なのだろうが、どうも会話に乗っていける気がしない。


「ちぃっ、今更呼び名なんて変えたら不自然だし……。どうすればっ」


 鳴流がなんだか絶望した表情になっている。というか本人の目の前で変な会話をしないで欲しいな!?


「……ふむん」


 鳴流の目の色が変わる。碌でもないことを思いつたかのような目だこれ。


「とーこーろーでー、照史はいいろちゃんのことをどう思ってるのかなぁ?」


 ……これまた、古今東西使い古されたかのようなネタを。


「うるさい、さっさとひやむぎ食べろ」

「いてっ」


 ずいっと近寄ってきた鳴流のおでこにチョップを入れる。なんだかいいろちゃんが羨ましそうな目だったが気のせいだ。

 ただ、誤解をなくすためにも俺の考えだけは伝えておこう。そう思った俺は鳴流にこっそりと耳打ちする。


「どう思うも何も、恋人ごっこってやつだ。俺如きが彼氏だなんて男運が無いにも程があるだろ?」

「……ぇ」


 鳴流が不意を食らったかのような驚いた顔をしている。豆鉄砲を食らった鳩の顔とはこのことを言うのか。


「へぇー、ふぅーん……。いいろちゃんも難儀なものだねぇ……」


 いいろちゃんを見て苦笑いを浮かべる鳴流。

 その意図が分からないいいろちゃんは小首を傾げてぽかんとしている。


 かくいう俺も鳴流の考えていることがよくわからずクエスチョンマークを浮かべるのみだ。


「そ、そんなことより照史の作るひやむぎは美味しいよねぇ!」

「急な話題転換だな」

「はい、私もそう思いますっ!」


 いいろちゃんが元気に話に乗っていく。いやまあ簡単な料理(?)とはいえ褒められるということは悪い気はしない。


「と言うよりいいろにも教えて欲しいです!」

「えぇーずるいっ、私にもー!」

「茹でて泡が出たら水加えて持っかい泡が出たら火を止めて1分くらい放置。以上」


 簡単なのでその場で教えてしまう。

 なんだか二人から抗議の目線が飛んでくる気がするが気のせいだ。


「むぅ……、アキちゃんのいけず」

「照史は面倒なのを先送りにしたり回避しようとするの、変わらないね」

「……何が言いたいんだよ」


 なにも楽な方に流れるのは人間として間違っちゃおらんだろうが。時代も時代で利便性が上がりに上がって、大抵の人がそうなるもんだろ?


「そうなるのは照史くらいじゃないかな?」

「いいろがアキちゃんを矯正しなくちゃ!」


 揃いも揃ってなんなんだこいつら。

 さっきは仲が悪そうだったのに今度は団結し始める。女とは中々にわからん生き物だ。


 まあだからって理解を放棄したりしたらダメなんだろうが、ひとつ言えるとするならめんどくせぇ。


「アキちゃん、矯正計画!」

「照史を真人間にするっ、面白そう!」

「いや、なんだそれ」


 数少ない休日を棒に振ってまで俺を矯正したいのかお前ら。

 確かに俺も極端に面倒臭がりだってのもダメ人間ポイントってのを自覚はしてるが長年治らないんだぞ、これ。


「さぁて、何から取り掛かろうか……」

「俺抜きで俺改造計画発足は止めてくれないか」


 怪しく舌なめずりをする鳴流の言葉を遮って置く。というか放置すると腕とかをドリルと付け替えられるかもしれない。それぐらいに怖かった今の顔は。


「む、なんでよ」

「そりゃお前が変なことを言うからだ。それとその顔やめろ」


 なんだその獲物を見るかのような目は。気持ち悪いからやめろっ。


「アキちゃん。いいろはアキちゃんにもっと格好よくなってほしいんですっ!」


 いいろちゃん?その気持ちは嬉しいけどそういうことをやると引かれるからやめようね?

 やるなら秘密裏にやるべきだと思います。


「むむむ、まずは照史の直さなくてもよい点を挙げよう!」

「そうですねっ!」


 ……聞く耳も持たないか。というか放置するとどんどんエスカレートしていく気がする。

 ギギギ、面倒な。


 ……兄貴の部屋に逃げよう。


「あっ、アキちゃんが逃げた!」

「奴は捨て置け!今は作戦を寝るのよ!」


 鳴流のキャラが砕けすぎてて分からなすぎないかそれ。


「兄貴、ちょっと失礼するわ」


 あのままリビングにいるとサイボーグにでもされそうなので兄貴の部屋に失礼する。


「んぁ、どした?」

「んいや、それはもう面倒なことにね」

「あー、リア充過ぎワロタ」


 ……言われてみるとそうなのかもしれないが、それでこっちもいい迷惑なんだ。


「いや、それが面倒なのよ」

「は?ふざけんな。お前、高校の時とか告白されてたんだろうが」


 ……そう言われてみればそうだった気がする。友人の方が二桁言ってて俺は霞んで見えるが。


「いいか?お前はチャンスを掴んでる。寄越せ」

「寄越せたらとっくにやってる。ホントありがた迷惑だよ」


 まあ大学は女子も少ないし楽なほうなんだが。


「まじリア充パネェわ。ただしイケメンに限るってやつかよ、クソっ」


 ……兄貴がトリップを始めた。暫くは会話もしてくれないだろうし使ってないノーパソ借りるか。

 リビングではなんだか不穏な会議が進んでいるみたいだし本当にどうしたものやら。なんというか、まだ厄介事が降り掛かってきそうだが……。


 気のせいだと、信じておこう。


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