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5.動物とJSと俺

デート回?です。

デートを回避させようとする謎の力が働いたがどうにかデートできた!

「……ん、む?」


 ついつい寝てしまっていたらしい。

 腕に赤いものが付いている。それはヌルッとしていて何か変な匂いがする。

 鉄……?


 赤くて、鉄の匂い。

 視線をベッドにいるであろういいろちゃんに向ける。

 赤いシミを残しそこはもぬけの殻だった。へ?

 どこに行ったの?


 俺はふらりと立ち上がり廊下へと出た。


「あれ、母さん?」


 あるぇ、母さんがげっそりとして疲れ切っている。飲み物買いに行くだけでそんなにエネルギー使うか?


「ごめんなさいお母さんが悪かったわ。おふざけしすぎたみたい」


 ……自覚あってやってるならガチで傍迷惑だよね。


「んで、この状況を説明して」


 廊下の電気をつけ、血まみれの床を指差す。

 いやそんなに血が飛び散ってるわけでもない。俺に付いてた血も微量で、ベッドに付いてたシミも小さなもの。

 床の血も移動中に少し垂れたってのがかろうじてわかるくらいだ。


「……まあ、大惨事よね」


 そうだな。

 まあ普通に過ごしててこんは成り得ないからな。


「うん、いいろちゃんが興奮しちゃってね。鼻血を出しちゃったのよ」

「興奮?鼻を強打したとかではなく?」


 母さんは静かに頷く。

 へぇー……。


「結果、私の部屋に移送して安静にしてるの。鼻に詰め物してるから見られたくないみたいだし」

「……そうか」


 ……残念だが、今日の動物園はナシかぁ。俺も久々だったし楽しみだったんだけど仕方ないよなぁ。


 母さんと少し"お話し"をした後、改めて話し合いをした。その結果、いいろちゃんが落ち着いたらお家に帰すという結論が出た。

 母さんも反省してたようだし、多少は許したよ?

 許せない部分が多いけど時間が解決してくれる。しばらくは母さんにオラついてしまいそうだが、自分の非を認めていたので極力抑えられるよう努力しよう。

 こう、おふざけが過ぎなければ悪い人じゃないんだけどねぇ。


 ……まあ、事後処理はまあつつがなく進んだ。

 俺は起きたいいろちゃんとお昼ご飯を食べている。

 母さんは抜きだ。自分から抜くと申し出たしダイエット中なのかもしれない。


「事後……、ゴクリ」


 ……いいろちゃん?

 何を考えてるんだい?


 いいろちゃんが起きた後も気が休まらなくていい迷惑だよ。全く。

 幸いにもお洋服は汚れてなかったようで一安心。俺の服は袖と裾が汚れてた。……まあ寝巻きなのでどうでもいいが。


「ぅあ……、動物園はダメなんですか?」

「いいろちゃんも、母さんの悪ふざけでけっこう疲れただろうしね。無理させるわけにもいかないよ」


 もし何かあったらこっちの責任になっちゃうし。あんなに鼻血が出ただけでも怖いのに、もしものことを考えると寒気がする。


「ぅう……、そうですか」

「うん、素直なのはいいことだよ」

「はい……」


 動物園に行けないのはかなり残念そうで名残惜しそうにお昼ご飯を食べている。これは超簡単飯(冷凍食品)だ。いいろちゃんの手料理と比べると超普通!

 いい意味でいいろちゃんの料理に慣れたくないな……。


「ぅう〜……」


 恨めしそうに俺を見つめるいいろちゃん。可愛いが罪悪感が湧いてくる。

 なかなか卑怯だな。


「……まあ、近くのペットショップなら行ってもいいけどね」


 渋々だがそう提案する。


 するとどうだろう。

 いいろちゃんの表情がキラキラ明るくなって楽しそうになった。

 うーん、子供って表情がコロコロ変わって面白いなぁ。


「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末様」


 食器を片付けようとすると母さんがやってくれるそうで手持ち無沙汰になった。


「ペットショップ、行きましょう!ペットショップ!」


 思わずその勢いに気圧されそうになるがどうにか持ちこたえる。

 ちらりと母さんを見ると行って来なよという視線を送ってくる。


「はいはい。行こうか」


 パーカーを羽織って家の鍵と財布を自分の部屋から取ってくる。

 いいろちゃんは一足先に玄関に立っていて左手を俺に向けてくる。


 ……。


 へ?


「……て」


 て?

 手をつなげって?


 ……仕方ない。


「はいよ。これでいい?」

「……うん」


 玄関が狭くてよくわからなかったが、嬉しそうな声色だった。


 ま、本人が嬉しいんならいいか。


「じゃ、出発だー」

「おー!」


 うむ、ノリが良くて大変助かる。

 こうして元気よく俺たちは外へと歩みを進めた。


 家を出ると小学校の方に向かい、大通りまで進む。曲がってまっすぐ歩いて進んで行く。

 進んでいくとコインランドリーがある。更にそこを少し行くと目的地だ。

 だいたい徒歩五分の位置。


 学校が徒歩五分と言ったな。

 アレは嘘で更に短い徒歩三分という方がいいかもしれない。

 めっさ近い。


 実はケーキ屋も近いので甘いもの好きとしての利便性はヤヴァイの一言に尽きる。

 小学校から目と鼻の先の距離なのだ。


「ほぇ、ここって色々とあるんですね……」

「そうだね。正直言って俺も怖いくらいだ」


 スーパーマーケットも三つくらいあるし小さな電気屋もあるからなんでも揃うんじゃないかな。

 マンションの裏手にはドラッグストアもあるし。

 ちなみにほんの少し遠くなるが更にドラッグストアがある。百均付きだ。


 最近ここら辺一帯は地価も上がっているらしく馬鹿にならない。


「中古の本屋もあるし普通の本屋もある。ここはいいぞ」


 古い知り合いと出会いそうなのが玉に瑕だがそんなことは些細なことだ。ここはそれを有り余るメリットで塗りつぶす!!


「よかったらケーキも買ってあげるよ?」

「いいんですか?」


 当然だろう。

 なんのためのバイトだ。


 こんな風に他愛もない会話をしているといつのまにかたどり着いていた。

 というか過ぎてた。


「おっとごめんね。通り過ぎてた……」

「いえ、いいろもお話に夢中になり過ぎました」


 いい子だ……。

 このペットショップは初めて利用したのだが、頼むと展示していない子も見せてくれた。


「いいろちゃん、犬派?猫派?」


 何のけない質問。


「……ぇ。ぅぐ」


 いいろちゃんは予想通り言いよどむ。

 動物好きにとってどれが1番なんかなんて甲乙つけがたいものだ。すごくわかる。


「あ、アキちゃんはどうなんですかっ?」

「どちらも好きだけどどちらかと言ったら猫派だな」

「いいろも猫さん大好きですよ!」


 同志かぁ。

 嬉しいものだ。


 店員さんの好意で犬を出してくれたことに感謝しつつ犬と触れ合う。

 俺はこういった夢のような日常を待ち望んでいたのかもしれない。


 ペットショップで動物を愛でること三十分、そろそろ切り上げて周辺でも散策しようと提案した。


 いいろちゃんが快諾したので、ペットショップの外へ。


「俺もここあたり歩くのは小学生以来だからゆっくり見て回りたくてね」

「ここにはどんなものがあるか、いいろにたくさん教えてくださいっ」


 目をキラキラさせて言ってくるものだから、応よと二つ返事をする。困ることはないので別に構わないのだが。

 初対面の時みたいに遠慮した雰囲気とかは全然なくて色々とここあたりのことを教えてあげた。

 パン屋とか耳鼻科とか、周辺の便利な施設を歩いて案内してあげる。

 大学生となった今でこそ小さな世界だが、小学生にとってはこの小さな地域が全てなのだ。

 公園のベンチに座って休憩していた。


「色々紹介したね……」

「はぃ……。疲れました……」


 ……少し調子に乗って連れ回しすぎたかもしれない。

 目に力が入っていないのかすごく瞼が重そうにしている。


「続きはまた今度にしようか」

「はぃ。お願いします……」


 ふにゃり。

 そんな擬音が似合う感じに俺に寄りかかってくる。動かなくなったので一瞬持病かとびっくりしたがそういう訳でもなさそうだ。

 静かに寝息を立てている。


「外で寝るとはな……」


 後でなんと言われるかわからないが、おんぶをして連れて帰ることにする。

 この際、羞恥などどうでもいい。

 眠った子を起こすなんて忍びないしね。


「久々に楽しかったな……」


 帰り道、ひとりごちる。


「また……、連れて行って下さぃ……」


 寝言だろうか。

 俺はその返事に小さく勿論と返し、家へと帰ることにしたのだった。

うーむ、穏やかな日常はやっぱり素晴らしいと思います。

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