2.俺と日常と(女子小学生のいる)非日常
本日二つ目。
鈍感にさせるのもヒロインがかわいそうで仕方がないですねぇ(恍惚)。
注意、飯テロあり。
効果があるかは分かりませんけど!!
時刻は昼休み、場所は学内のレストラン。俺の目の前にはカレーライスの中盛りが二杯。
机の向こう側に見えるのは高校来の友人。
「うぅ……、数学、ハードウェアもうやりたくない……」
食事時に愚痴って済まない友人よ。
んー、でもやっぱり解せぬ。
「数学やらハードウェアハードウェアはまだ分かるんだが……もう一つの専門教科。口にも出したくないっ」
プログラマー志望で人間の情報を解析するものとか必要なのだろうか……。
「俺は興味あるやつなんだけどなぁ……」
ううむ、入る学科を間違えたのかもしれない……。
「まあまあ、そんな気にしてたって仕方ないって」
「せやな……。はぁ」
もうヤダ……。
ティロンっ。
通知の音だ。
[SMS]
母さん:あの子がまた来てるよ?どうする?
……。
またか、またなのか。
今日帰るのが遅くなるし、そのまま帰してしまって頂戴っと。
[SMS]
母さん:ごめんね、もう家に上げちゃった(てへっ)
(てへっ)は絵文字だ。うん、なんか楽しそうでムカつくなコレ。
「どうしたんだよ。複雑な表情してるぞ」
……顔に出てしまっていたか。迂闊だった。
「んー、何でもないよ」
「……悩みならちゃんと相談しろよ?」
「ああ、おう」
良い奴だなー。
うん、趣味嗜好もだいたい合うしいい友達を持ったなと思う。ホントに。
なんで上げたんだよっと。
その返信は早かった。
[SMS]
母さん:だって可哀想でしょ?入れなかったら帰るまで待つとか言うんだよ?だったらあげる以外ないよね!(イェーイ)
(イェーイ)か。
オイオイオイ、満面の笑みだよ?
すごく楽しそうな顔文字だよな、オイ。
オイオイ、もうツッコミどころさんしか湧かないよ?
どうしてくれるの?
イライラしつつ友人を見るとカレーを既に食べ終わり、スマホでソシャゲをやっている。ディスティニーではない運命をGOするアレだ。
流石に返信に躍起になるのも時間がもったいない。さっさと片付けてしまうとしよう。
「あ、いいよ気にしなくて」
友人も俺が察したことに気がついたようでスマホを振りつつそう言う。
「でも暇だろ?」
「ゲームやるし」
コイツはいつも通りってことか。
まあ非日常は家に居座ってるみたいだが。
うぐぐ、母さんめ……。
それでも俺は恨めしく思いつつもカレーを頬張る。
ゴホッゴホッ。
「汚っ」
むせた。
三限目と四限目は俺の嫌いなヤツだった。マジでやだ。
帰りは友人とゲーセンによって帰った。
・
……そして家の前。
正確な時刻は分からないけど、あたりは真っ暗。本来小学生なら家に帰っているはずなのだが、多分そうではないだろう。
ドアノブに手をかけゆっくり開く。
「……ただいまぁー」
「おかえりなさいっ、アキちゃんっ!」
ごふっ。
勢いよく女子小学生が飛びついてくる。……構えていても突然に来るのは心臓に悪い。
「ははは……、ただいまぁ。いいろちゃん。まだおうちに帰らなくていいのかなぁ?」
「お母さんはいいって。8時までに帰るようにって言われたけど」
「……お隣さんだもんねぇ」
いいろちゃんはこの前俺が一緒になって家を探してあげた女子小学生だ。
あの日の翌日、お隣さんが挨拶に来たと思ったらいいろちゃんとそのお母さんでまじでビビった。
ガチで902号室らしい。
「アキちゃん、どうして遅かったの?」
いいろちゃんは怒っているらしく少しむくれあがっている。
可愛らしくてとて愛嬌がある。あるのはいい。子供特有の癇癪が怖いので素直に伝える。
「遊んでた」
「アキちゃんのばかぁ!」
ダメだった。
それより大声で叫ばないで貰いたい。ここ玄関なんですけど?
共用乗ろうかによく響く場所なんですけどぉ!?
……うぐぐ、面倒な。
ちらりとスマホで時間を確認すると19:00との表記が帰ってくる。
……そりゃ怒るのも無理はないか。
「ご、こめん。ごめんね。全面的に俺が悪かった。今度好きなものなんでも買ってあげるから!」
小学生相手に謝罪を入れるのは屈辱的ではあるが仕方ないことだ。ご褒美とか一切思ってないぞ。一切。
お隣さんであるために関係はあまり悪くしたくはない……。
「ホント?」
「うん、ホントホント!」
何でもと言った手前一瞬躊躇ってしまったがもう言ってしまったことを取り消すのも薮蛇だ。手痛い出費を覚悟しておこう。
「約束……」
「……?」
手を差し出されて困惑気味に声を漏らしてしまう。
目の前には白くて細い小指。はて?
「……指切り。指切りげんまんだよ!」
ああ、なるほど。小さい頃やったっきりで完全に失念していた。
ううむ、かなり久しぶりだ。
「指切りげんまん、うそついたら針千本のーますっ、指切った!」
「ははは」
「や、約束だよ!」
いいろちゃんは念を押すように言う。
「ハイハイ。約束だね」
相手は小学生。何を買わされるか分かったもんじゃない。まあリソースはしっかり貯めておくか。
「……いつにする?」
「え、いつって?」
小遣いの使い道を暗算していたのでよく聞けなかった。
「……ごめん、聞けてなかった」
ははは、と笑いながら返す。
いいろちゃんはむーっと唸ってため息をつく。
「アキちゃんとデート。いつにする?」
「ふぅん、デートねぇ。デー、ト……」
でえと?
……でーと?
デート。
俺はその言葉が意味するのを理解するのに数秒を要した。
理解した瞬間、頭がパニック状態になる。
ほわァ!?
デ、デデデデート!?
だって……、俺って年齢=彼女いない歴のD.D.D.なんやで……?
このままだとピンクの悪魔と対決するやつだぞ。
そもそもピンクの展開とかは幻想でしかないんですがそれは。
「……アキちゃん?」
待て待て、そもそもこんな女子小学生にアキちゃんとか呼ばれてる時点でなんかもう天国じゃないか。
……待て待て。
落ち着け、もちつけ俺ェ!
そもそも女子小学生は幻想だ。
女の子は年齢を重ねることで段々とマセてしまうのだ。
俺のようなド底辺の男にに見合う女性ではないのだよ、彼女は。
俺では釣り合わないのだよ……っ!
多分これは彼女にとっての予行演習。
俺はただの踏み台にしか過ぎない。
だが、こんな可愛い子に踏み台にされるのならば本望だ。喜んでお受けしよう!!
「いいろちゃんの好きな日でいいよ。いつでも都合を合わせるから」
「……、えっとじゃあ、ええと、ええと……」
長くなりそうだ。
すかさずフォローを入れる。
「まあそこは今日の夜にでもゆっくり考えてきなよ。俺は逃げないんだし」
「……うん!」
表情を輝かせていいろちゃんはぱたぱたとリビングに走っていく。む、まだ帰らないのか。
「そしていいろね、アキちゃんのお母さんをお手伝いしてお料理作ったんだ〜」
ほう、美少女の手料理とな。
「お母さんは計量とか手伝っただけで実質何もやってないけどね」
じゅるり、これは何が出てきても美味いな。
「召し上がれっ!」
出てきたものはオムレツと添えられたポテトサラダ。そしてカルボナーラ。
全部、全部、大好物だ。
いつもなら母さんが面倒臭がり、某大手スーパーマーケットの価格が安い惣菜を買ってきてるのでそれで済ませている。
あとはインスタントラーメンとかレンチンだけの冷凍食品とかだ。
「……久々だな」
平均より小さめの体かつ痩せ体質なので食べきれるかいささか不安が残るが、これは食べきれる自信がある。
「いただきます」
「じぃー……」
いいろちゃんが声に出して見つめてきている。可愛い。
さて、まずはオムレツだ。
オムレツは綺麗な薄い黄色で艶々としている。箸で端っこを切ると中からオムレツの蓄えていた水分がじゅわりと溢れ出てくる。
俺は切れ端を添えられたケチャップに浸けて咀嚼する。
口に入った切れ端は歯で押しつぶさずとも舌の力だけで解けてゆき、口全体に卵の優しい風味とケチャップの酸味と甘みが広がって行く。
「じぃー……」
心なしか目が爛々と輝いているように見える。まあ自分が作ったものの感想に期待するわな。
すごくわかる。
「……美味しい」
正直この一言だけでも十分だ。
「これまで食べたことがないくらい美味しい。それもこれもいいろちゃんの思いやりが詰まってるのかな。なんて、ね」
……決まったか。
「はうぅ……」
いいろちゃんが顔を真っ赤に染めて俯いている。そして手で顔を覆って……。
あ、逃げた。
ねえ、逃げる要素あった!?
「あらあら、若いねー」
母さんが何か言っている。
いやまあ、逃げ出すのはいい。
残された料理はどうすりゃええのん。
……ひとまず冷める前に食べるか。
残った料理は美味しい。美味しかったのだが、オムレツよりも味が薄く感じた。
先ほどのオムレツも同様だった。
まともに女子と接したことないのでこうなってしまうんですね。工業高校も工業大学も女子少ないですし……(死んだ魚の目)。