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1.JSに捕まったら逃げられない

妄想から生み出された産物です。

そんな勢い有り余った小説でもいいならどうぞお読みください。

「行ってきます……」


 俺は新島章斗(にいじまあきと)。とある工業大学に通う平凡な大学生だ。


「ふぅ、良くも悪くもいつも通りか」


 今何をやっているのか?

 親に頼まれたコンビニへのおつかい(ガス水道電気代支払)だ。

 ついでにコーラとお菓子も買うが。


 コンビニに着くとひょいひょいひょいと商品を手にとってレジまで向かう。幸いにも人はおらず、すぐに会計を済ませることができた。


「お買い上げありがとうございました」


 コンビニの店員さんがそう言って次のお客の対応を始める。家に帰ったら地球でも防衛するかな……。


 ……。


 俺の家のマンション前でJSが一人で泣きそうになっている。

 家に入る鍵でも忘れたのだろうか。

 まあ話しかけたら確実に事案モノなので完全スルーで家へと入っていく。


 はしっ。


 非常に小さな力で俺は引き戻された。


「ひゃうぅ……ごめんなさいっ」


 可愛い……。

 振り向いたのが命取りだった。流麗な黒髪ロングの美少女になりますねクォレハ。


 ……。


 俺は逃げ出したかった。

 しかし体が固まって動かない。


 主よ、コミュ力皆無の大学2年に何をしろと言うのだ。


「……えっと、いいろのおうち分かりませんか?」


 ……全く分かりませんけど?

 いや、うるうる目で見つめられても困り果てるだけなんですよ!


「あ、えぇ……」


 何すりゃええのん!?


「……」←涙がぽろぽろ溢れ始めてる


 不安なのは良くわかる、分からないけど分かる。

 ままま待ってくれないだろうかっ。

 あ、そうだ、ちょうどいいところに棒付きキャンディがあるじゃないか!


「こ、これあげるから!」

「……んくっ、えぐっ」



 泣くのを我慢しようとしてるみたいだけど嗚咽がやばい。

 どうすんるんだこれ。このままだと俺は犯罪者じゃないのよ!?

 棒付きキャンディは無言で拒否されてるしどうするりゃええのん!?


 八方塞がりとはこのことを指すんだなぁって。


 オワタ\(^o^)/


「ん、章斗。何やって……」


 この声は兄貴、兄貴じゃないか!!


「兄ちゃん、助け……」


 助けを求める途中に兄から寄せられる冷めた視線に気がついた。

 やめて、貫通クリティカルはシャレになってないから!!


 あっ、Uターン!

 逃げた!助けてよ!


 ええっと、そうだな……。

 ここはどうにか大学で用いるコミュ力仮面を被らねばなるまい。


「……ええと、いいろちゃん?だっけ」


 女子小学生こといいろちゃんはこくこくと小さく頷く。

 その隙に俺の脳みそコミュニケートコンピューターが超高速で回転。だが、小学生との会話なんてやったことないから空回りもいいとこだ。


「いいろちゃんのおうちは、どういうところか聞いてる?」


 できる限り思いつくだけ優しい問いかけをする。それでも傍から見たら変質者だが。

 唯一の救いは誰にも見られていないことだろうか。


「んっ、んあっ、ここの、んっ、通りにあるって……」

「ええと、……それだけ?」


 いいろちゃんは頷く。


 圧倒的ッ、情報不足ッッ!!


「……ゃ、こっちが……ぃい」


 俺の持つ棒付きキャンディ(チョコバナナ味)を振り払い、袋の中にあるピーチ味を指さした。

 ピーチ味を選ぶか。

 チョコバナナ味も美味いんだぞ……!


「は、はい」


 これで気が紛らわせるなら構わん。俺は袋から取り出すとおもむろに優しく丁重に手渡した。


「……おにぃさん、ありがと……」


 その言葉だけで満足です。ありがとうございました。

 これまでの苦労が報われたよ。


「……」←ピーチ味の飴を舐めてる

「……」←チョコバナナ味の飴を舐めてる


 無言タイム。


「ねぇ、いいろちゃんのおうちの部屋番号は分かる?」

「えっと……確か、902?」


 ……まあこれで同じマンションならお隣さんだが、幸いにもここら辺には複数のマンションやアパートがある。

 致命傷ではない。


 だが、郵便受けのネームプレートが張り替えてある可能性もある。ひとまず探してみよう。


「いいろちゃん。ちょっと見てくるからここで待っててね?」

「ヤダ」

「……」


 Oh...


 小学生と2人で行動とか正気かよ。

 変質者まっしぐらじゃないか。

 これで誰かに見つかったら翌日の紙面を飾るのは確定だよ。


「ウン、ワカッタ。イイヨ」


 未来予想図は地獄だが目の前には天使がいる。チグハグだね。


 手を繋いでとせがまれて手を繋ぐ。

 正直な話、俺は手汗が凄いのであまり手を繋ぎたくなかったんだけど、大丈夫かな……。


 手を繋いで一軒目。

 俺の住むマンションの隣だ。


 郵便受けのネームプレートを見るが、いいろちゃんの見覚えのあるものは無いみたいだ。

 まあはずれと言ったところか。

 902には五木とあり、いいろちゃんに苗字を尋ねたところ、


「みつきわだよ」


 と快く答えてくれた。

 それにしてもなかなか珍しい苗字だな。パッと見、他のネームプレートにもそう読めるような苗字はない。


 手を繋いだ状態が恥ずかしいのでさりげなく手を離したらいいろちゃんの手がガッチリと俺の手を掴んで話さなかった。


 そのまま二軒目。俺住むマンションの前にあるマンションだ。

 改めて考えるとこの裏道紛いのとこに結構密集してるもんだな……。


 ネームプレートは空白が目立つが902には石川という名前が。他にみつきわと読める苗字は書いていない。


 尚、いいろちゃんと会話はここまで皆無。気まずいが、いいろちゃんが手を離すことは無い。

 手汗でびしょびしょなんですけど……。


 そして三軒目。

 こちらも俺のマンションの隣。

 一軒目とは違い、反対側なのだが。


 郵便受けのネームプレートはなかった。仕方ないので902にピンポン突撃することに。


 どうやら共用玄関も無いようで902まで直撃である。

 小学生と一緒にエレベーターに乗る大学生。しかもどちらもオドオドしていてよそよそしい。

 事案ですね、わかります。

 道中誰ともすれ違わなかったのが救いだ。救い。


 902にたどり着き、インターホンのボタンに指をのせる。


 ……。

 普通なら知らない人のチャイムなんてそう簡単にならせないよね!

 ピンポンダッシュ常習犯ならともかく、プレッシャーやばいっすよ?


 ええい、こうなったらままよ。

 インターホンのボタンがゆっくりと押し込まれた。


 軽快なチャイムの音が鳴る。

 正直親の声よりも聞いたピンポンだ。

 誰もが聞いたことのありそうなオーソドックスなやつ。


「……」


 流石に知らない人の家の番号を押すのは気が引けるがそれもこれもいいろちゃんのためだ。

 ……違いますこのままだと誤解されかねないので早く開放されるためです。ごめんなさい嘘つきました。


「……はい?どちら様でしょうか」


 まあ、そりゃそうだよね。


「お忙しいところすみません。みつきわさんのお宅でしょうか?」

「いえ、違いますけど……」


 はずれ。


 自然とそんな言葉が脳内でリフレインする。

 無駄足ィ!


「す、すみませんっ、間違えました。失礼します……」

「そ、そうですか……」


 がちゃ。無慈悲な音がインターホンの向こうから流れる。

 感想としてはどっちも戸惑ってて気まずかったよ!


 四軒目、に向かう途中、いいろちゃんの顔色が優れなかった。


「いいろちゃん、大丈夫?」

「……。いいろ、お母さんから忘れられちゃったのかな?」


 焦りと恐怖の混じった声色。

 それにさりげなく恐ろしい想像をしていやがる。

 ……あれだ、子供特有のありえない恐怖を想像してしまうやつだ。


「大丈夫。絶対俺が見つけてあげるから」


 責任は持てないが言い切る。

 安心させてあげることが大事だ。

 それにこんなに可愛い娘を見捨てる親なんているものだろうか。

 育てば憎らしくなったりもする。だがまだ小学生という天使なのだ。そうそう見捨てる親はいまい。


「……うん」


 こんな男の台詞でも安心させてあげられただろうか。

 俺はいいろちゃんの返事を信じてほかの建物へと向かった。


 四軒目。俺の住むマンションの隣の隣の隣。

 ちなみに隣の隣は一軒家だ。前を通るとわんちゃんがうるさかったがいつ頃からか居なくなった。

 高校くらいからここを通らなくなったので具体的な時期は分からん。


 こちらでもまずは郵便受けのネームプレートを確認する。こちらは八階より上が無い。論外か。

 この通りにある集合住宅。残るは俺の住むマンションだけ。

 まずは郵便受けから。


 やはり空白が目立つ。面倒だから変えない、という人もいるんだろう。

 902はその例に漏れなく空白。

 901には新島という文字。うん、俺の苗字だ。


 ほかのネームプレートにみつきわと読めそうな苗字は、なしと。

 ……ピンポンして確かめるしかないのか?


 俺は意を決して共用玄関のインターホンに902と入力する。

 押しボタンを押し込み、チャイムが鳴る。

 俺はゴクリと生唾を飲む。


「……」


 902の表記が自然と消えるまで何秒掛かっただろうか。

 実際は1分もなく30秒くらいだったのかもしれない。

 だが妙な緊張のせいか2分にも4分にも感じられる程長かった。


「……出ないね」


 落胆、という言葉を音にして表したような元気の無い声。今にも泣きそうだ。


「そ、そうだね」


 流石にこれ以上はフォローのしようがない。このとおりには他の9階以上もある建物はない。


「やっぱりいいろ、すてられぢゃっだんだぁ!」

「……」


 見ていられなかった。


「……っ!」

「大丈夫」


 居た堪れない感覚に囚われ、思わずいいろちゃんを優しく抱き締める。


「……大丈夫だから。いいろちゃんのお母さんはね、きっといいろちゃんのことを心配して探している」


 とにかく思いつく言葉を、安心させてあげられる言葉を。

 並べられるだけ並べる。


「だから、お母さんを信じてもうちょっとだけ頑張ろう?」

「……うぅ」


 これで大丈夫だろうか。

 そもそも現時点で大丈夫なはずがないんだけど。


「……いいろ?」


 エントランスの出口から声が聞こえる。若々しい女性だ。

 その姿はいいろちゃんに似て大変お麗しい……。


「……っ、ママぁ!」


 いいろちゃんは俺の腕から飛び出して女性へと飛びつく。

 いいろちゃんも育てばこんな美人になるんだろう。将来有望な子である。

 いいろちゃんのお母さんはバッグからスマホを取り出して3回ほどタップして耳に当てる。


「……警察ですか?」


 そりゃそうだよね!!

 こんな状況見られてたらそうなるよね!


「いいろね、……おじちゃんにお願いしてね。、……一緒におうち探してもらったの」


 所々で嗚咽が混じっていたが、至近距離ならば多分破壊力半端ないだろう。

 死ねる自信はある。


「……っ、そうだったの」


 いいろちゃんの必死の訴えかけに心を打たれたらしく、電話の向こうに勘違いでしたと言い通話を切る。

 ……危うく朝刊の一面を飾るところだった。


「……すみません、勘違いをしてしまって」

「はは、いえ。大丈夫ですよ。それよりも見つかって良かったです……」


 本当はめちゃくちゃ焦ったんだけどね!!

 役得の反動だとか一切思ってナイヨ。


「本当にこの度はありがとうございました」

「あ、お礼は結構ですので。それでは」


 とりあえず親子水入らずという言葉もあるので即座に撤収。

 もう会うことはないでしょう。

 会っても気まずそうなので遠慮したい。


「あ、待って……」


 いいろちゃんが何か言いたげにしていたが俺はクールに去るぜ!

 ……これ以上の厄介事は嫌です。


 この時、俺はあることを忘れていた。

 兄に受けた誤解が解けておらず、今日と明日の休日中に家族内で完全犯罪者というレッテルが貼られてしまうのはまた別の話。


こんな出会いが欲しかったなー。

いいよなー、小説はなー。


社会なんでもう一話ともう一話を一時間ごとに投下するよ!

読め!

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