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RESPAWN GIRL 18 OLD  作者: 赤花野 ピエ露
7/7

7:顔。

助走の踏み切り、グリーンスペースのラストラインです。

 ただ表情筋を動かすだけ、声に抑揚をつけるだけ、そんなくさい演技をする役者を大根役者とは呼ばない。

 大根役者とは何でもそつなくこなす味気ない冴えない役者のことだ、臭い演技をする奴を大根に例えるなど味覚と調理の腕、そして業界の質の悪さを露見するだけだ。


 嗤えますね、


 自分のことを可愛いと思いつつも不安で心配で評価されたくて痛々しい自虐ネタとも言えるセルフポートレイトをSNS上に上げる女の様に嗤えますね、画家にとって自画像を描く事は一つの通過儀式、それを人に見せる事は画家としての自信を付けましたよと言う報告である、『本当にブスだな』と言われて文句を垂れるようなら上げるべきではないのだ。

 そしての光景を嗤うのは美しくない、どうせ愚かなら口を噤む阿保であれ。

 人間は美しき生き物などではなく、美しくあろうとすべき生き物なのだ。

 心の中に真実など無くあるのは己の解釈により掬い取られた事象の一欠けらだけに過ぎない、その違いを認め合いその違いを楽しむのが人間関係であり人生選択の一つである。

 そしてこれもまたこの世界の一欠けらに過ぎない、この世界に輪郭などは無く原子と密度の違いそれと法則による流れなどしかない。

 原子の違いに輪郭を幻視し虚ろを揺蕩う微睡の住人には一杯のコーヒーを注ごう。

 外界を知らない己に酔っている愚か者には酷評をくれてやろう、臭い料理はおかずにならない苦痛でしかないと。

 くさい演技で臭い腰を振るのはよしてくれ、たとえその身が軽くとも臭いものを乗せるのは苦痛でしかないのだ。

 その臭い腰で稼いだ金でおまんまを食べている者には分からないかもしれないが、苦痛でしかないのだ。

 近づかれるのも汚らわしく身の毛がよだち虫唾が走る、恥じらい無きものが何をいまさら口走る。

 これ以上の愚かさは身を亡ぼすだけであるのに、鈍った嗅覚ではその危険性にも気が付けない。


 愉快ですね、


 RESPAWN 、 糸切れてなお踊るピエロがその糸を意図を辿るころには楽園の民はそこに居ない。

 GIRL   、 若さに身を任せ一線を越えてしまった過ちを取り戻す事はもうできない。

 18    、 赤子でもその刻を迎えれば大人としての階段を責任と共に上がらなければならない。

 OLD   、 こうして時は過ぎて行く…


 過ぎ去るを手にするには越えなければならない壁がある、それは【 F 】。


 これはその後へ、その先へ向けた助走なのだ。






   *






 8:腕。


 9:お腹。


 10:久方ぶりの素顔を見て。


 11:霧曇の朝に。


 12:白紙の進路と白髪頭。


 13:蓮の華を夢に見て。


 14:歪んだ平穏。



 15:平和的な狂想曲。




 16:そして知りつつ歩みを合わせる。





 17:コーヒーの零れる動揺を。






 18:OLD.


 18年間は長い、少女が大人の階段に足を掛けるよりも長い。

 そして、破滅へと向かっている世界で来るともしれぬ者を待つには長すぎる期間だ。


「キャァァァッーーーー!!!」金切り声が日陰に木霊す。

 日陰と言っても此処は路地裏、人間社会の日陰だ。

「だ、誰か居ないの!?助けて!!!」人は居るだろうが、この日陰に居るのは人と名の付くけだものだけだ。

「そんなに走ると俺を楽しませられなくなるぞぉ~!!!」けだものだ、獲物を追い立て追い詰める事に悦を感じているけだものだ。

「待てよぉ~、俺のウサギちゃぁ~ん」女性を獲物だと、物だと思っているけだものだ。

「痛いっ!」長らく道路整備の入っていない路地裏の質の悪い石畳が女性の逃げ足を挫く。

 絶望に染まる女性の顔に喜びを見出しているこの肥ったけだものは、贅肉が内から圧迫する容量の少ないポケットに前足を突っ込み入れて鉄の牙を取り出し女性に突き立てようと迫った。


     < ポーーーン >


 コンピューターゲームが一般に普及し始めた一世代前、いや、今からすれば逆に新しさを感じる若者が出て来る一昔前、その一昔前の家庭向けコンピューターゲームの様に八和音で奏でられたピンボールの弾むような音色が路地裏に響き渡る。

 <カツン>、と、実体の有る乾いた物同しがぶつかり合った様な高く乾いた音が人工的な音色の直後に鳴った。

 薄暗い路地裏にぼんやりと浮かび上がったのは女の影、輪郭が明瞭ではないこの路地裏ではっきり『女』だと分かるボディーラインのその影の手には先程の乾いた音を出した長物が握られていた。

 木刀、土産屋で売ってあるようなチープなものではなく紫黒檀や縞黒檀といった硬度の高い木材で作られているであろう木刀、音がその事を教えてくれる。


 そして、夜目の利く者なら、物語の大筋を理解している者ならば彼女の顔に刻まれたそのピエロの象徴に目を丸くするだろう。


「何だテメー!!!この俺様に歯向かおうってぇーのかぁ!!!アアンッ!!!」木刀を持った者がこれから女を襲おうという時に割って入って現れたのだ。

 たとえそれが女であったとしてもけだものがその女を敵と認識するには十分であった。

 普通は突然現れた事に驚いたりするものだが、けだものは目の前の事を処理するので手一杯なようだ。

 それは救いの手を求めているこの女性も同じだったようで、この女性は得体の知れない女の影に縋り寄った。

「助けてください!!!」この女性からすれば武器を持った同性というだけで味方であり、突然目の前に現れたその演出はまさにヒーローの登場であった。


     しかし、


     「え!?ムリムリムリ!!! 私普通の女の子だもん」


     嘘だ。


 ピエロの見え透いた嘘だ。


「フハハハハハ!!!つまり俺の楽しみが増えたわけだなこりゃ!!!」声色と言がこの女の影の正体を曝け出す。

 少女だ、美しく潤いのある声を持った大人への階段に足を掛けているかどうかという頃合いの少女。


 あの存在の声を聴いた者ならば、砂糖が飽和状態になるまで入れられた蜜のように甘いこの声に霧のように朧げな姿を想像することだろう。


 けだものは生唾を呑む、少女の顔が見え上玉だと生唾を呑む。

「そ、そんな! 木刀を持っているじゃない!!!」少女だと分かり強気に出るこの女性は少女を時間稼ぎに使い逃げる算段を立て始める。

 この女性もまたけだもの同様路地裏の住人なのだ。


 ピエロは嗤う、人の不幸が大好きだから嗤う。


「おお、ああー、そういやこの前も持ち出してたな~コレ~」ブンブン、と、音は鳴っていないが木刀を振り回す、本人の言っていたように本当に普通女の子のようだ。


 本当にそう見えるから驚きだ。


「此処は何処だったっけぇー?」危機感の無さも路地裏の住人とは違う、普通… の…… より少し間の抜けた女の子だ。


 彼女の本性を知る者ならば何も言えなくなる程に白々しい、見た目同様白々しい。


 辺りをきょろきょろと見渡すその様は隙だらけだ、実に相手と同じである。

「頭わいてんのかテメー」危機感の無さから恐怖を感じていないこの少女に少しの苛立ちと冷めた視線を向ける。

 しかし少女は呆けている、心の底から楽しんでいる。

「(今だ!)」女性がけだものの隙を見て再び足を回して逃げ出す。

 けだものは嗤う、有害薬物の常習的な使用が窺い知れる不揃いの黄ばんだ前歯を外気に晒し嗤う。


 もしも、少女の心が顔に出ていたならば、この獣よりも歪んだ嗤みが見れたことだろう。


「待てよぉ~!!!フハハハハハ!!!」嬉々として再び足を前に出す。

 そして鉄の牙を持った前足も前に出す。

「うぼッ!?」のどに刺さり入り込み気道を塞がれた事で美しく潤いのある声が鮮血に淀む。

 けだものは適当に前に出して喉に入った事を気にする様子も無く倒れ込む少女に見向きもしないで女性の後を追う、少女が死んでいたとしてもけだものはそれを愉しめるから。


 この状況を一番楽しんでいるのが誰なのか知らない獣は雌犬の尻を追い駆け続ける。



     < ポーーーン > <カツン>




 誰も居なくなった路地裏に再び二つの音が鳴り、響き渡る。

「もう居ないよね? 一応警察には連絡しておこっかなぁ~っと」上着のポケット手を突っ込みバサバサと揺らし、スカートのポケットに手を突っ込みバタバタと揺らし、背負っていたリュックサックを手に取ったところで少女は気付く。

「かるッ!!!」背負っている時点で気付かなかったのだろうか、やはり少し間が抜けている。


 『誰も居ないよね?』、この少女がわざわざこんな事を口にするだろうか、この少女が監視者の目に気が付かないという事が有るだろうか。


「ウガァーーーー!!! 短時間に二回もリスポーンしたせいで荷物がほとんど無くなってる……… ぁあ、でも何入れてたか分かんないからいいや!アハハッハハハッ……… スマホと財布また買わなきゃだねぇ~……… はぁぁぁ………     」

 路地裏の独り言、女性への心配、けだものから受けた牙、警察への通報も忘れた少女は独り家路を急ぐ。

「鍵無いからあの人達が居なくなったら家に入れなくなっちゃうーーーーー!!!」






   RESPAWN GIRL 18 OLD






「顔を見られたのなら、気を付けろよ」男が少女に心配して注意し促す。

 半年を共に暮らし過ごしてきた自分達ですらつい先日知った衝撃の事実、大好きなコーヒーを溢してしまった程の衝撃で受けたショックはいまだ癒えていない。

「大丈夫っすよー、私此処に住んでたんですから」事実だ、彼女なら何の問題も無い。

「記憶無いのによく言うわ」安全の為にか、弄ばれたのかは知りようがないが、元の顔さえも忘れ、己の顔が二重になっている事にさえ気が付かなかったのに、と、この男はあきれる。

「住んでいたからといって大丈夫とはならんだろう」この男も、全ては少女へ向けた心配から。


「うぅッ… !!!   こ!これからパジャマに着替えるんですからいったいった!!!」


 心配が嬉しい、背徳感と二重生活から歪んだ心が平穏を求める。

 雑味は要らない、また手を伸ばしそうになってしまうから、口に出すだけに止めなければならない。

 記憶を思い出す毎に狂気が身を乗り出してくる、見覚えの無い頬とお腹の痣、この事についての記憶が蘇ると歪みは頂点を迎え攀じ切れてしまう。


 18年間、私を眠らせていたのは、私自身だ。


 この狂気を忘れたい、眠らせていたかった。

 眠り過ぎて忘れていた、忘れようとしていたことを忘れていた。

 曖昧なら曖昧なままでいたかった。


 まるでピエロだ。


 それは、ピエロ。


 恐ろしき概念、それがピエロ。


 I Want to Die.


 死ぬ事さえもできない。











 くしゃみはせずに聞きたまへ、


「誰だ っすか?」


 私だ。


「そうか… そういうことか… やはり、か… 」


 理解が早くてなによりだ。


「怨む」


 そうしてくれたまへ、その方が良い。


「私が望むのは雑味無き平穏、平和」


 選択肢の無さは身を亡ぼす、


「美しく死にたい」


 繰り返しは望まぬか、良き返答だ。


「平和を続けるには雑味が要るっすね、でも、もう要らないっす」


 また、顔を出しているぞ、良き兆候だ。


「怨む、恨む、憾む」


 人の心が謎を創る、事象を捉える一欠けらの行動が謎である。


 疑問を用いて形を成せ、さすれば世界は見えて来る。


 これより始まるが全ての事象が大本、終焉を迎える世界、そこで行われている代理戦争。


 愉しみの為に謎を残そう、気が付かなければそれも一興。


「嗤える」


 さあ、君の望みを叶える為に行きたまへ。


 こうして少女は旅に出た、果て無き旅路に終止符をうつために。






     「行ってきます、っすね。」






     Next → 第三章:百年戦争


お読みいただきありがとうございました、誠に感謝いたします。

謎と解は見つけられたでしょうか?

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