5:死にはしないのさ。
私の書いてきた文章を見ていただけてる方には感謝を、『きっと分かる』と信じています。
この路地裏の住人達、その男達の髭はみすぼらしく汚らしい。
まともな剃刀さえも手に入らない、予防接種を受けていない浮浪者だらけ、衛生的に劣悪なこの環境では髭を剃るのは悪手だ。
破傷風、その対策だ。
みすぼらしく汚らしくとも死にはしないのだ。
「こんちわっす~」
「こんなところに若い娘が来るもんじゃない」面倒事はごめんだ、と、少女から顔を背け汚れた毛布を肩上に持ち上げる。
<パン>
「この辺りに到達者の団体が居るっすよね、何処に居るんっすか?」少女は足を残す為にわざと答えを知っている質問をする、争いを嫌うタイプの路地裏の住人に不意な一撃と呑み込むのに時間の要する恐怖を与え。
「こ、この角の先に受付屋が居る」世界を知ったつもりでいるろくに自分も満足させられない若者の愚か者達がたまに暴力を振るいに来る、しかし、この少女が振るったものはそれらと違う、この路地裏の住人は身を護る為の行動をとった。
「俺が言ったとは言わないでくれ」
少女は笑う、嗤う。
「いいっすよ」と、嗤う。
誰でも調べられるようなこんな情報に価値は無い、言いふらす必要も無い。
「その代わり、私が調べてるのも内緒っすよ~」
釘を刺す、わざわざ釘を刺す。
頷くこの路地裏の住人を見て少女は笑みを深くした、純粋な笑みを表に出す、わざと。
だが、それを悟れるものは少ない。
少女が角を曲がるのを見るとこの路地裏の住人は安物の、一件しか連絡先の登録されていない電話を取り出す。
飯代、薬代に消えるその飯代を得るためにこの路地裏の住人が引き受け行っている唯一の仕事を果たす。
「あんたらの事を聞いてきた娘が居る」
この行動が自分の首を絞めることになるとも知らずに…
「か、金をはやくくれ… 」
*
「ボス」コイツが俺に話し掛けて来るということは、
「問題か」
「猫の可能性があります」亡霊がとうとう俺たちの下にまで来たか。
「監視機能を最大限にしておけ」大事な情報を一つ残らずすくう為に。
「了解しました。 こちらへ」今日の逃げ道はルート〈ろ〉か、スーツの汚れを気にしなくて済むルートだ。
「こんちわっす~」
ルール〈ろ〉その扉を開けたら猫が居た。
「…猫娘」一度見た事があるので知っていた、している顔のままの変わらぬ姿だ。
「あー、やっぱりあんたには見覚えがあるっすね~。 爺になっちゃってますっすけど」18年も経てば当たり前だ。
俺は横に手を伸ばし飛び出ようとした部下達を止める。
「…俺が知っている事は少ないぞ」目的は大体察しが付く、どうやって此処をこのルールを調べたのか… 戦術級の天才にそんな疑問を投げかけるのは時間の無駄だ。
そして命の無駄でもある。
「おお!それは良かったっすよぉ~!」
興味を引けた、先ずは一安心だ。
「邪魔なのは殺しときますね」俺の頬をかすった凄まじい速度で投げられた木刀が俺の部下の額を貫いた。
こりゃあまいった… 。
凄まじい牽制だ。
木刀を投げる事でその力を見せつけ、素手でも戦えることを、成長を示し。
頬を流れる血が俺の動きを鈍らせる、だから少し遅れて気が付いた。
『邪魔なのは』、死んだのはスパイの疑いがあった部下だ。
その疑いがあるからこそ傍に置き、それを利用するために置いていた部下だ。
この猫は恐ろしい。
「早く教えてくださいよ~」
俺が手にしている餌の小ささに手が震える、満足できなければ腕ごと持って行かれる。
「君を攫った組織は…」
<ジュッウゥッ>
「ん"んっがっぁぁぁッ!?!?!?」紅く光った細指が俺の肩を焼き突く。
<PPP PP PPP PP>
そのアラームを聞いて痛みが何処かへと飛んだ、それどころではなくなった。
このアラームは放射線量測定器が人体に悪影響があるとされる値を感知した際に鳴るものだ、血の気が引いた。
それと同時にアラームも止まった。
更に血の気が引く、少女の指が元の色に戻っている… 。
蒸発したからか俺の血も付いていない、完全に力を使いこなしている。
(二個持ちの到達者だと!?馬鹿な!!!!!)
「そんな事は知っていますよ」
気怠そうに首を掻く猫に怯える。
「私を眠らせていたのは誰っすかぁ~?」
恐ろしい。
組織は脅威ではない、そうも捉えられる発言だ。
事実そうなのだろう、組織的なものだと知っていてなお個人を知ろうとしているのだ。
しかもあの組織が相手だと知ったうえで… 、 恐ろしい。
恐ろしい。
「…知らない」
「はぁ~… あんたもっすか」
俺、そしてこの組織は今日で終わりを迎えるだろう。
「 …お前はいったい何を考えていやがる」
最後にせめて知っておきたい…
「私、自分の不幸話をする人が嫌いなんですよ~。 だからそういう人にはあえて自分の不幸話を聞かせてあげるんですぅ~」
私が言っていること分かります?、そんな顔で話を続ける。
「作中人物の心理描写を見てその人物について知った気でいる人って居るじゃないですか~、純文学ものを読んで互いの解釈を言い合えるそんな友達も居ないのかなって思っちゃうんですよね~、ホワイトキューブの中でしか語れないのかな~って」
理解力の無さと孤立している事を馬鹿にしてきているのだろうか、
「私のこの喋り方とキャラクターは色々と便利なんです。よ。だって、私の事を馬鹿だって思いつつもよくしてくれる人には優しく純粋にあまりストレスをかける事も無く、私の事を馬鹿だなコイツ利用できるときは利用してやろうって奴にはそっと毒を飲ませてあげられるんですからね~」
不幸話をする悲劇のヒロイン病には不幸話を、馬鹿には馬鹿を、そういう事だろう。
「『性格は免疫システムだ』なんていう当たり前の事を口にしなくちゃいけないこんな馬鹿な世界で楽しく生きる為に、四季折々の風情を楽しむように、花鳥風月、私は皆さんの性格を楽しむ事にしたのです」
『性格は免疫システムであり、善人になれない奴は劣っている』誰かの言っていた言葉が頭をよぎる。
「差別や宗教争い、実に低レベルで愉しませていただきましたっすよ~」
戦術級の天才、戦争その戦局をたった一人で変えうる天才に贈られる言葉だ。
「私は平和を楽しみたいのです、雑味要りません。 なので消えて下さい、邪魔しないでくださいねっすよ」
ただこの猫は、この天才は狂っている、酷く歪んでいる。
<PPP PP PPP PP>
*
数字無き存在の根本たる世界より、
『美しさとは枠内外のバランスであり歪みや醜さは枠から大きくはみ出すことだ。それは、美しさには限界があるという事であり歪みや醜さには限界が無いという事でもある。』
『幸せと不幸も同じことだと私は思う。』
『家族を失い友をも失った少女は独り自分を殺し怪物を殺す。』
マトリョーシカ、繰り返し描かれたダルマ人形。
『生物が、物理的に到達できる最高地点を「F」と言う。
だが82年前に突如として、その地点Fを超える生物たちが現れた。
人々は科学的に説明のつけられないその生物達を「魔物」と呼んだ。』
それは地点を超えし者、到達せし者達、始まりは百旗を掲げし者。
そして終わりもまたしかり、戦争の物語だ。
単純すぎる計算だ、【 82+18=100 】、どうだい、単純すぎるだろう。
だからこそ分かりやすいだろう。
第三章:百年戦争
あらすじがあらすじの体を成していない理由の一つ、登場人物だけを淡々と早々と飛ばし飛ばしに書き出した理由の一つ、思い出してほしい、読み返してほしい、
『以上が、prologue となります。次からが本編です。たぶん…』
『地Fのロゴにクエスチョンを禁止するようなマークが入っているのは、つまりその逆、全てに疑問を持てということです。』
日記を読めばわかるはず、物語は日々改変されて行く、出たり消えたりまた出たり…
何故ならこれは、戦争の物語だから、冒険譚だから。
私はカク…、違える為に…。
*
「マヨマヨ~」
「よくそんなものが食えるな、素材の味を楽しめよ」味が消えてしまうだろう。
「フフフ、っす」何が『フフフ』だ。
「私は、たのしんでるっすよ~」
お読みいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いいたします。




