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春風

作者: いとうふみ

幕末維新から150年。

私自身も、幕末に活躍した新選組隊士「沖田総司」さんの大ファンでして笑、一人で京都や東京まで繰り出しては、史跡巡りなんぞをしています。


私も、彼の事をなぜ好きなのかと問われると、本当に「直感」に近しいもので理由をうまく述べられないのですが、こんな素敵な理由だったらいいなーという思いで書かせていただきました。


よろしくお願いいたします。

『誰かを好きになるってどういう事なのですか?』

『そ、それはですね。えぇーと……。』

 少女が青年に尋ねて、青年の頭頂部から首までが真っ赤に染まる。そんな夢。

 映画の様に、第三者の立場でその情景を見ている「私」なのに、青年のそんな姿をみて、胸をもやっとさせる。まるで、そこにいる少女の気持ちが手に取るように分かるように。

 この夢を見始めて、早16年。

 高校1年生の私。

 叶わない想いって残酷だ。




 普通の県立高校の普通科の、特に特徴も無い普通の女子高校生。それが私。自己紹介の時なんかとても困る、「普通」過ぎて秀でているものとか何も無いから。

 勉強は苦手でも運動が得意な子。運動が苦手でも勉強が得意な子。おしゃれなかわいい子。クラスのムードメーカな子。趣味がある子。アルバイトを頑張っている子。

 何かを持っている人ってすごいなーと思う。でも、自分が何かを頑張るのは嫌だ。自分でも自分が時々嫌になる。だけど、これが私。仕方がない。


「ねえねえ、篠塚?」

「なーにー、森本。」

「うわ、棒読み! ていうかさ、篠塚ってこの前、歴史のテストで90点取ってたじゃん? 俺、歴史が超苦手だから教えてくれねえかな。」

 自分の席で、愛読書「新選組顛末記」を読んでいると、隣の席の森本に話しかけられた。彼は、小柄で小型犬の様なので、クラスでとても可愛がられている。

「ただ歴史が好きなだけだよ、昔っから。」

「ええ、すげえ! なんで!? 授業とか眠くなんねえの!?」

「好きだからね。」

 森本が隣の席でキャンキャンと叫ぶ。ああ、耳が痛い。と思っていたら、なんだなんだと一人の男子生徒が森本と私の元へとやって来た。

「どしたの?」

「おお、ヨッチー! それがさあ……。」

 ヨッチーこと、吉池くん。森本の親友で、私の幼馴染でもある。穏やかな常識人で頭もよく、子犬の様な森本とは180度タイプが違う。

 そんな吉池くんに森本が先ほどまでの話を楽しそうに説明する。彼は、ふんふんと頷きながら森本の話を興味深そうに聞いていた。


「篠ちゃんは昔から、ほんと好きだよね。沖田総司が。」

「うん。」

「おきたそうじ?」

「生まれた時から夢の中に出てくるんだよね、沖田総司が。」

「うん。」

「生まれた時から?」

 私と吉池くんとはツーツーな話題でも、森本には何が何だか分からないような話題らしかった。頭に、はてなマークが浮かんでいるようにも見える。

 しかし、気にせず吉池くんは続ける。

「篠ちゃんは、夢の中の沖田総司にずっと恋をしてるんだよ、もっちゃん。」

「こ……こいって……、さ、さかなの……。」

「もっちゃん、定番のボケは要らないから。」

「ご、ごめんなさい。」

 森本が、私と吉池くんを交互にチラチラみて、そして、にへらと笑った。何だか、小さい子がいたずらを隠すときみたいな、そんな表情。


 春の風が窓の外をこれでもか、というくらいびゅうびゅうと駆け抜けていた。運動場の砂ぼこりが凄い。次の時間、体育でなくてよかった。

 ああどうせなら。

 この叶わない、つまらない気持ちも風と一緒に連れてけ。連れてけ。


「『誰かを好きになるってどういう感情ですか?』って、俺、夢の中で女の子に聞かれたことがある。」

「へ。」

 数分の沈黙の後、森本がふと小さく口を開いた。そして、普段はキャンキャンとうるさい、その口から静かに洩れた言葉に私は思わず聞き入る。

 何気なく吉池くんに目を移すと、彼は森本の机に軽く腰かけて静かに瞼を閉じていた。

「そん時、俺、照れくさくて、なんも言えなくて。夢の中の俺には、そん時結婚したいくらい好きな女の人が居たんだけどさ。その女の子が自分に向けてくれる気持ちにも気づいててさ。」

 森本が、耳まで赤くしながら、頭をかく。

 ちょっと待て、こいつは何を言おうとしているのか。私の心臓が嫌に速さを増す。

「気持ちには答えられなかったけど、本当に嬉しいなあって思ってたんだよ。」

「…………。」

「夢の中の自分が沖田総司だとは思っても見なかったけどさー、ヨッチーが俺の夢話聞いて、幼馴染の篠塚の事教えてくれてさ。今日、話して確信持った感じ。」

 森本は、真っすぐに私を見つめ、そして口を開く。

「馬鹿みてえって思うやつもいるかもしれねえけど、きっと、俺たち、150年ぶりくらいにまた出会えたんだなって思う! うわ、超恥ずかしい!」

 真っすぐに私を見つめてきたわりに、最後が決まらないのはやっぱり森本だから。吉池くんは、クスクスと口元に手を当てて笑っている。


 ふと、私の頭の中に何度も何度もみた、夢の景色が浮かび上がる。


『誰かを好きになるってどういう事なのですか?』

『そ、それはですね。えぇーと……。その彼女とずっと一緒にいたいというか、誰にもとられたくないというか。様は、熱い気持ちです、そうですよ、それですよ!』


 沖田総司さんの言葉を何だか、今なら素直に受け止められる気がした。



「森本。吉池くん。」

 私の言葉に、二人がそれぞれの反応を見せる。

「どしたの?」

「何だ?」

 笑みを浮かべながら、余裕そうな表情で見てくる吉池くんと、きょとんとした顔で見てくる森本。

「あたし、自分の事つまらない女って思うのやめようと思う。」

 だって、こんな体験談持つ人、中々他にいないでしょう。

 きっと、前世からの繋がりを持つ相手とまた現世で再会できたなんて。


「ふふふ。いいじゃん、篠ちゃん。」

「なんか宣言されたぞ! くっそ、俺もなんか宣言してえ!」

「ばか、森本。」


 さあ、そろそろ授業が始まる。

 教科書を開こうか。


つまり! です!笑


森本→前世は沖田総司

篠塚→前世は沖田総司に片思いの少女。前世では叶わず、この世に生まれ変わってからもその思いを捨てきれずに夢でもなお思っていた。


⇒二人は、吉池という繋がりによって、お互いが夢の中の人物であると確認しあった。


そして。

吉池→普通にいい人。



ありがとうございました。

なんかの形で続きか、前世でのお話とか、吉池の片思いとか書けたらいいなーと思ってます。

読んでくださってありがとうございます。

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