エピローグ
「署長…」
深刻な顔をして、部下は男に声をかけた。
男は顔の上に置いた雑誌を、少し上にずらした。
「なんだ?どした?」
部下の対して男は軽薄な態度で、欠伸をまぜて言った。
そんな不謹慎ともとれる上司の態度には何も言わず、報告を続けた。
「たった今、国内並びに世界各地の対策本部との通信が途絶しました」
男はそっと雑誌を持ち上げた。
そこには部下同様の深刻な表情があった。
「確かか?」
「はい、間違いありません」
遠くにある画面に目をやった。
世界地図が映し出されたそこには、各所に『lost』と表示されていた。
机の上で組んでいた足をおろして、自分の端末で確認した。
部下の言う通り、どことも通信が切れていた。
「衛星がやられたのか?」
「落ちたのか、砕けたのか、原因は分かりませんが、使えなくなったのは確かです」
「そうか」
ため息とともに、背もたれに体を預けた。
「他の通信手段は?」
「……だめです。やはりどれも死んでいます」
今度はほかの部下から報告が上がった。
それ以降沈黙に包まれた。
急ごしらえのようにも見えるが、一応本部に見えるそこでは、他にも男女何人も職員がいて、今はその誰もが男を振り返っていた。
誰もが深刻そうな顔をしていた。
「署長、やはりもう…」
「ああ、ギリギリ間に合ったが、そろそろここも持たないだろうな」
その言葉を皮切りに、うつむく者、嗚咽をこらえてる人、泣き出した人が出てきた。
「全員注目!」
そんな中男は一人声を張りあがた。
そして机の下に隠していたのか、勢いよく(けれど割れないほどに)酒瓶を机に置いた。
その色合いからして、ワインなのだろう。
「どうせ終わりだから、貴様らには俺秘蔵の超高級ワインをくれてやろう!もちろんキンキンにビールもあるぞ!全員泣いて喜べよ!」
「お、おぉぉ!」
「署長太っ腹!」
「よーし!宴会だお前ら!」
涙を流すもの、嗚咽を流すものがいるのは変わらなかったが、空元気ではあるが雰囲気は明るくなった。
それからは妙な光景が流れた。
涙を流しながらの宴会というべきだろか。
そんな騒ぎの後ろで、男は静かに写真を眺めていた。
家族写真だろうか、男と思しき男性と女性。二人に挟まれるように立っている学生服を着た少女。
「里奈すまない。俺はこんな形でしか、救ってやれなかったよ」
男は独り言のようにそう呟いた。
××××年××月××日
第4空間災害対策本部、通信途絶。