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1話 自作自演の巻き込まれ召喚


 日本人が異世界に勇者として召喚され、ファンタジーな世界で活躍する、お馴染みのストーリー。

 しかしこの異世界召喚が、日本を危機に追いやっていった。


 日本における、青少年の神隠しが、世間でささやかに噂となっていた。

 元々都市伝説のように考えられていたそれは、徐々に現実味が増し、拡大した。

 とうとう捜査に踏み切った日本政府は、ついに「異世界召喚」の瞬間を観測し、証拠を手に入れたのである。

 だが、秘密裏に問題提起された「異世界拉致監禁事件」は、それ以上の証拠を手に入れることも、解決策を提示することも出来ず、低迷した。


 そんな中、一人の男と提出された論文が、政府に衝撃を与えた。

 男は「異世界に召喚された後、魔王と邪神を倒して帰還した元勇者」を自称し、「異世界召喚と世界管理者に関する研究論文」を提出したのである。

 元勇者を自称する男は、異世界で手に入れた能力を帰還後も扱うことが出来た。また論文の完成度が非常に高かったことで、政府の信頼を勝ち得た。


 男の登場と助力により、異世界召喚に関する捜査は格段に進んだ。

 男が予め発見していた他の「元勇者」の協力、有志の高校生との幾度かの実験により、異世界召喚における普遍的法則が発見された。


 漸く得られた結果は、「異世界召喚を防ぐ手だても、予測する方法も無い」という非情な物であった。


 途方に暮れる政府。

 そんな中、最初の「元勇者」である男が、画期的な提案をした。


「現状問題なのは、大まかに分けて四つです。召喚された日本人が帰ってこない事例があること、召喚の予測が出来ないこと、保護者に説明する必要が発生すること、日本の法律下では拉致監禁にあたること」


 と前置きし、「以上の問題を解決する方法があります」と断言した。


「制度がないなら、制度を作ってしまえばいい。少なくとも異世界召喚がこちらのコントロール下にあればよいのですから、異世界に生徒が召喚されることを前提とした学校を作ってしまえばよいのです」


 斯くして、日本に「異世界召喚学校」が設立されたのである。




 そしてこれは、異世界召喚学校でサポート課の課長を務めるある一人の男の、苦悩に満ちた日常の物語である。

 ……多分。そんな物語になる予定ではある。








 あーー疲れた。

 やべーマジ眠い。っていうか寝てる。


「……課長、起きてますか」

「寝てます」

「起きてるじゃないですか」


 頭の上から女性の声が振ってくる。

 凛とした声が、俺を現実に引き戻そうとする。


「……いや、気のせいだ。謎の女の声なんて気のせい」

「現実を見ましょう」

「もう働きたくない。怠い眠い」


 机に突っ伏した姿勢のまま愚痴を漏らすと、女性は呆れたように溜め息をもらす。


「いつだってサポート課は人材不足なんです。多少ブラックになってもしょうがありません」

「いやでもね、日本政府も俺達に仕事を押し付けすぎだと思うんだよね。俺が過労で死んだらどうすんの」

「殺しても死なない男が何を」


 失礼な。俺だって無防備な所を神具でミンチにされた後肉片を燃やし尽くされたら軽く死ねますよ。


「というか、そんなに働くのが嫌なら辞めれば良いじゃないですか。サポート課」

「いやー、それは良心が痛むというか、言い出しっぺの義務感というか」


 と、そろそろ現実に向き直るとしよう。さすがに彼女を何時までも愚痴に付き合わせるのは悪い。

 机から起き上がって、あくび混じりの背伸びを一つ。

 目尻の涙を拭いて、彼女に向き合った。


「で、何か報告?」

「はい」


 栗色の長めの髪を後ろで一つに結び、眼鏡をかけたスタイルの良い、ザ・できるキャリーウーマンって風貌のこの女性は、俺の秘書を務めている。

 サポート課で課長のサポートって、何とも言えない立ち回りだと思うが、彼女は全く気にした様子を見せない。

 名前は郡川(こおりかわ)──愛梨(あいり)

 名字はともかく、クールな雰囲気に全く似合わない名前だ。愛梨。

 ちなみに下の名前で呼ぶと、かなり怒る。いつものクールな瞳が氷点下に達する。

 そんな彼女が、平坦な口調で報告を始めた。


「今朝の生徒三人の召喚の一件ですが、行き先の世界座標が214号世界と一致しました。召喚陣から予測される世界レベル使命レベルは共に低水準であり、記録と年代は違えど危険性は少ないと判断いたしました。そのため、四日前に当校のサポート課に入った伊丹を三人に付けました」

「ん、良い判断だ。彼は経験は無いが能力と度胸がある。初めての仕事もこなしてくれるだろう」

「ありがとうございます」


 郡川は軽く頭を下げる。

 元の姿勢に戻るとき、後頭部のポニーテールが少し揺れた。

 彼女の着ている服は、異世界召喚学校指定の制服である。というか、サポート課はこれを着ることが義務づけられている。


「次の報告です。先日、高部孝太郎が暴力沙汰を起こしたため、性格に問題ありと判断され、退学処分とされました」

「あー、ついにやっちゃったか。ま、しょうがないね」


 俺は苦い顔をしていると思う。

 やる気はあったのだが、如何せん短気で直ぐに手がでる生徒だった覚えがある。教師陣のブラックリストにも入っていた。

 だが、退学処分はサポート課の仕事じゃない。一応報告は受けるが、サポート課とは土俵が違う。

 やる気だけじゃどうにもならないのが、この学校なのだ。


「では最後に、補講校舎の予算について……」


 と言ったところで、郡川が口を止める。サポート課の職員室に、警報が鳴り響いたのだ。


『課長! 緊急連絡です』

「どした?」


 放送の慌てた声に、俺は冷静に返答する。

 ま、なんとなく用件はわかる。


『只今召喚陣を確認。未確認の世界であり、世界レベル使命レベルともにAです。総合危険度をSと判断しました』

「現状、Sに対応できる職員は?」

『課長のみです』


 ま、そうだろうな。そもそも難易度Sに対応できる職員なんて、この学校でも俺含め三人しかいない。


「俺が出るしかない訳ね。りょーかい、行ってくるよ」

『座標送ります』

「OK。あー、また仕事が増える」


 また愚痴愚痴言いながら、送られてきた座標に転移魔法を発動させる。


「じゃ、郡川。いつも通り後は任せた」

「はい……」


 郡川はパッとしない表情で、転移中の俺に言う。


「あの、課長。力及ばず、すみません」

「気にすんな」


 と、彼女に当たり障りのない声をかけたところで、俺は異世界に転移した。







「よく召喚に応じてくれました、異世界の勇者方! 我々はあなたがた三人に最大級の歓迎を……ってあれ? 四人?」


 大袈裟に俺たちに語っていた少女は、困惑した表情を浮かべる。

 悪いが、異世界召喚学校で「巻き込まれ勇者召喚」は規定ルートなんだ。実際は自作自演な訳だが。


「おお、これが異世界か……テンション上がるぜ」

「あー、やっと二年目にして召喚されたよ! 楽しみー!」

「二人とも落ち着いて下さい。テンション上がりすぎですよ」


 俺の目の前で、勇者として召喚された三人の生徒が、せわしなくあたりを見渡している。

 召喚された場所は、煌びやかで華やかだ。おそらく王城の一室であると推測できる。

 と、俺は目の前の三人のようにははしゃげない。サポート課の仕事は始まっているのだ。

 とりあえず、目の前の生徒三人を送還することが可能かを確認──結果は不可。

 俺は異世界に転移することも、他人を転移させることもできる。だが勇者として召喚された彼らは、与えられた使命を果たさなければ、元の世界、そして日本に帰ることはできない。

 これは政府が行った研究で分かった、異世界召喚における普遍的法則の一つである。それでも送還できることに越したことは無いので一応試すのが決まりだ。

 ま、送還できないのも想定内。


「え、えぇっと、勇者様方?」


 異世界の少女は、今度は勇者達のハイテンションに困惑しているようだ。

 お三方、話をさっさと続けたいから、早く落ち着いてくれませんかね?



 暫くしてある程度落ち着いた勇者三人と、聖女を名乗る少女の会話が始まった。


「勇者様方には、この世界の魔王、そして封印された邪神を倒していただきたいのです」


 自称聖女の言葉に、俺は軽く目眩を覚える。勇者三人も、目を開いて驚いているようだ。

 邪神討伐だと? そんなの使命レベルAじゃ収まらん。紛れもなくSだS。

 未確認の世界だからってことで、世界レベル使命レベルがAの所を引き上げていたわけだが、もしかしたら未確認か否かは関係なく、S難度の可能性がある。

 結果的には、これは俺が出てきて良かったな。Sに対応可能な他の二人じゃ、力不足だったかもしれん。

 勇者三人は、ある程度異世界の知識を学校で習っているから、邪神討伐の難易度が、明確にはわからずとも非常に高いことは分かっているわけだ。驚くのも無理はない。


「あのー、魔王だけ倒すんじゃ、だめなの?」


 勇者の一人で紅一点の、山瀬(やませ) (あおい)が質問する。

 聖女は苦い顔で言った。


「実は、邪神の封印がもう解けかけているのです。魔王は再封印させないように邪神の祠を守り、封印解除を早めようと生け贄を捧げています。さらに封印の方法が現在では紛失しているため、再封印も不可能なのです」


 詰みじゃねえか。

 なるほどそれは確かに、勇者に魔王と邪神を倒してもらわなきゃ駄目だわな。


「だが、俺達で大丈夫なのか? 何の力になれるかも分からねーぞ?」


 勇者の一人、ムキムキマッチョが言う。いや君なら筋肉でごり押せる気がするよ。

 やたらがたいが良いこの生徒は、海野(うみの) 拓巳(たくみ)。特に実技系の授業では、圧倒的好成績を修めている。


「あなたがたは神様から祝福され、特別な力を持っているはずです……が、それでも邪神討伐が可能かどうかは……」


 ま、難しいだろうな。

 ちなみに自称聖女の言った神様の祝福というものも、異世界召喚の普遍的法則である。俺たちは宗教問題上、神ではなく世界管理者と呼称しているが、それが勇者に異世界限定で使える何かしらの能力を与えるのだ。


「それは、僕達に死ににいけ、と言っているのですか?」


 冷淡で丁寧な口調の彼は、神谷(かみや) 修司(しゅうじ)。見ようによっては根暗だが、成績は非常に優秀であり、実技でも光る才能を見せる、天才である。

 目が隠れるほどのばした黒髪と、野暮ったい眼鏡が無ければモテモテだろう。


「……私達も、非常に非人道的な願いをしているのは分かっています。あくまでもお願いでして、無理にとは言いません……」


 自称聖女の声は尻すぼみになる。顔も暗く、俯いている。

 すると、突然彼女が椅子から立ち上がり、勢い良く頭を下げた。


「ですが、お願いします! 私たちも藁にもすがる思いなのです。 我々に出来ることがあれば、何でも致します! どうか、どうかこの世界を、救っては頂けませんか!?」


 彼女はとめどなく涙を流しながら、力ある声で請う。そろそろ自称とつけるのは止めておくか。その姿はまさに民を思う聖女である。

 そんな聖女を見て、神谷がポケットからハンカチを取り出し、未だに頭を下げている聖女に差し出した。


「聖女様、泣かないでください。男というのは美人の涙に弱い。あなたのために世界を救ってみたくなるではありませんか」


 優しい口調だ。

 聖女は信じられない物を見るような顔で、神谷を見る。

 神谷は自信満々の微笑みを浮かべた。


「ったりめーじゃねーか! 邪神くらい俺がぶっ飛ばしてやんよ!」

「こんな美少女を泣かせる邪神なんて、ぺぺっとやっつけちゃうんだから!」


 神谷に続き、海野と山瀬が声を上げた。


「皆様……」


 聖女は口に手を当てて、嗚咽する。

 そんな彼女から離れ、神谷は二人の元に下がると、腰に手を当てて言う。


「じゃあ聖女様、世界の救い方を教えてください」

「は、はい!」


 聖女は涙をハンカチで拭くと、笑顔で答えた。


 ……いい雰囲気になってるとこ悪いんですけどね、断る選択肢なんて無いんですよ。

 使命果たさないと帰れないんですよ。邪神倒すのは規定ルートなんですよ。


 なんとなく雰囲気も気持ちも置いてけぼりになりながら、俺はこれからの予定を頭の中で組み立てていった。





 四人それぞれに部屋が割り当てられたが、とりあえず俺の部屋に四人とも集める。

 言わば作戦会議だ。特にこの部屋に盗聴の魔法が施されていないのは確認済みである。


「で、あなたが僕達のサポート役ですか?」


 神谷が俺に聞いてきた。どうも三人のリーダーはかれになりそうだ。お似合いである。

 似合ってるから、とりあえずその前髪を切ってコンタクトに変えようか?


「ああ。士島と言う」

「士島さん、ですか」

「私聞いたこと無いよー」

「俺もねぇな」


 聞いたことなくて当然。偽名である。

 優秀なサポート課っていうのは、異世界から帰ってきた元勇者が名前を広めるため、自然と生徒達に知られることとなる。

 逆に言えば、知らない名前だと不安になる。


「まあ心配しなくていい。俺はS難度でも対応できる」

「……やはり今回の召喚は、S難度ですか。邪神討伐の時点で使命レベルはSですからね」


 召喚陣ではAと判断されたんだがな。それを言うと油断を引き起こしそうだから、言わないでおこう。


「んー、えすなんどってなんだ?」

「拓巳ちゃん、馬鹿が露見してるよ?」

「んだ葵! いって良いことと悪いことがあるぞ!」

「……喧嘩しないでくれると助かるんだが」

「あ、ほっといてください。いつものことですから」


 開始早々賑やかすぎだろう。

 どうやらこの三人は同じクラスの中でも、仲がいいらしい。とくに海野と山瀬は幼なじみだとか。

 山瀬は小柄な女生徒だ。海野と並ぶと、親子のようにすら見える。


「しかし、総合でSということは、世界レベルも……」

「Aだ。その上、未確認世界だからな」


 三人がごくっと唾を飲み込む。

 あ、海野は雰囲気に流されただけだ多分。

 そもそもサポート課の難度設定は、生徒の教育課程には入っていない。雑学のようなものなのだ。海野が知らなくても無理はない。海野も、成績が悪いわけではないのだ。勉強も頑張っている。


「というわけで、気を引き締めて行ってくれ。サポート課は君たちの命が危険な場合のみ手助けするが、その他は基本的に不干渉だ」


 そもそも俺自身はこの場に居ないはずの人間で、勇者でもない。

 彼ら異世界召喚学校に入学した生徒は、勇者をやりたくて保護者を説得し、面倒な手続きを行い、能力を認められた一握りの人間だ。

 そんな彼らの異世界生活の邪魔をするのは、サポートではない。

 サポート課の仕事は二つ。

 生徒達を死なせないこと。

 そして、出来れば一年、最長二年で、使命を果たさせて生徒を日本に帰還させること。

 俺達サポート課は影だ。あくまで黒子に徹するのが仕事なのである。


「では、異世界生活を始める前に、いくつか確認事項がある」


 俺が言うと、三人の視線が俺に集中する。

 これはお約束のようなものだ。


「一つ、君達は日本の法律ではなく、異世界召喚学校の法律に従う。そして異世界召喚学校では、異世界のいずれの知的生物も『人類』とは認めていない。生かすも殺すも君達の自由だ」


 けっこうエグい話だが、こうでもしなければ勇者は直ぐに殺人犯となる。

 また、異世界召喚学校は厳密には日本ではなく、それ単独で一国家とされている。故に学校内でもここであっても、適応されるのは日本の法律ではなく異世界召喚学校の法律なのだ。そして異世界であろうと、ここはあくまで異世界召喚学校の領地であると規定されている。


「二つ、二年以内の使命達成に尽力すること。やる気が感じられない、または二年の期限を越えそうな場合、サポート課の判断で使命を強制的に終了させる」


 この世界の場合、二年以内に邪神討伐出来なさそうだと俺が判断すれば、俺が邪神討伐をすることになるというわけだ。まあ実際は、俺が邪神を瀕死に追い込んで、彼ら勇者の誰かにとどめを刺させる事になるが。


「三つ、この世界に子種を残すこと、また子種を持ち帰ることは厳禁だ。異世界人と性行為をする場合は、避妊を徹底せよ」


 これは異世界になるべく心残りを作らせないためだ。また、余計な問題を減らすためでもある。このため、サポート課は大量の避妊具を常備しなければならない。俺自身はヤッている暇は無いのだが。


「あ、もちろん日本人同士なら好きにしたまえ。ただ、身重になる危険性と責任を十分に考慮せよ」


 少し山瀬の頬が赤くなる。

 え? セクハラ?

 いえいえ、要確認事項ですよ。


「そして最後に、異世界召喚学校生徒としての品位を持って、異世界生活を満喫せよ。以上で確認事項は終わりだ。わかったな?」


 俺の問いかけに、三人は何度も頷く。

 その顔には、これからの異世界生活への期待に満ちていた。


もともと今投稿するつもりなんて無かった。もっと書きためて、受験が終わってから投稿するつもりだった……

だが某ニコ◯コ漫画で同じ様なタイトルの作品がつい五日前かそこらに投稿された。絶望した。

パクリだと思われる前にとりあえず投稿したくなった。そんな感じです。すみません。

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