終わりの終わり1
朔の声が聞こえた気がした。
明るく楽しそうで、みんなを和ませる、そんな声。
ずっと一緒に楽しく過ごせたらいいなと思っていた。京と朔と私と。
変わらない三人でいるんだと、漠然と考えていた。
幸せだった。
その幸せな時間がいつかは失われるものだなんて、そのときは考えもしなかった。考える暇さえないくらいに幸せだったのだと、今になってようやく気付いたんだ。
気がつくと、私は見知らぬ白い空間のなかを浮遊していた。下を見下ろすと、寝台のようなものの上で誰かが寝かされているのが見えた。頭からつま先まで、なにか見たこともないような装置が取り付けられている。違和感を感じ、その人物の顔をよく見てみると、私はあまりの衝撃にしばらく呆然とした。
なにこれ? どういうこと?
どうして私がそこにいるの?
寝台で寝ていたのは、他でもない私だった。学校の制服姿で、目を閉じて横たわっている。
そして私は思い出していた。
あのとき、朔を見つけたとき、私は車道に飛び出して、そのまま横からきた車にはねられたのだ。その直後に、また世界は終わりのときを迎えた。
そうか。私はあのとき死んだのだ。だから私は幽霊となってここに浮かんでいるのだろう。あの瞬間、世界が終わる前に朔に会わなければと必死で、横から車が来ていることにも気付かなかった。
つくづく馬鹿だなと思う。
けれど、なにかがおかしいことに私は気付く。
世界が終わりを迎えたなら、以前だったらまた三日前の時間にタイムリープしていたはずだ。けれど今回はそうならず、こんな不思議な空間にきてしまっている。
そして、私の肉体はどういうわけか、なにものかの手によってわけのわからない装置を取り付けられ、調べられている。これはどういうことなのだろう。
私は、本当に自分が死んでしまっているのか確かめようと自分の体のそばに近づいた。
すると、すぐにそれに気付いた。
胸が上下している。口からも、かすかな呼吸音が聞こえてきた。
――生きている?
私の肉体はどうやら死んではいなかったようだ。もしかしたら、車にはねられたと思ったのは勘違い? それとも、タイムリープで死ぬ前の状態に戻っている? けれど、だとすると、今の自分の状態はなんだというのだろう。
「幽体離脱……?」
いつもならありえない、馬鹿馬鹿しいと思ってしまう事態だが、この数日間で起きたもっと信じられないような出来事のせいで、そんな意味不明な状況がすんなり受け入れられてしまう。
「でもまあ、身動きはこっちのほうが取りやすそう」
もはや今の自分に怖いものなどなかった。
世界の終わりを幾度も経験し、己の死をも体験したようなものなのだ。これからなにが私の身に降りかかったとしても、恐れるものはなにもない。
「……でも、これ以上の大変な出来事は正直勘弁だけど」
まずは、自分の現在の状況を把握したところで、見つけなければならない人物が二人いた。
京と朔。
彼らはどこにいるのだろう。
私は自分の体から離れると、二人を捜しにいくことにした。
このあとラストまで連日更新します。
よろしくお願いします。




