彼のいない世界6
夕方。私たちは三度目の同じ時を迎えようとしていた。
朔は私たちの前にもう一度姿を現す。京のその言葉を私は信じるしかなかった。
世界は再び終わりのときを迎えるかもしれない。それでも、一人の大切な友人のことだけが頭を占拠し、他になにも考えられなかった。
ただ朔に会いたい。
もう一度会って話がしたい。
そればかりを考えていた。
学校を出た私と京は、バスに乗るため駅まで歩いていく。周囲では、下校していく生徒たちがきゃらきゃらと笑い声をあげながら歩いていた。
いつもなら、ここにもう一人朔という男の子がいて、くだらないおしゃべりをしながら一緒に歩いていたはずだ。
脇を通り過ぎる車。去っていく自転車。
流れていく景色のなかに、私たちは大切な友人の姿を捜し求めた。
西の空は、次第に茜色を濃くしていく。時間は無情にも過ぎていく。焦りから胸が苦しくなり、呼吸は浅くなった。
「……京。朔は本当に」
たまらず救いを隣の幼馴染みに求めると、すっと手に温かい感触が訪れた。驚いて顔をあげると、隣にいた京はどこか緊張の色を滲ませながら正面を見据えていた。
「信じよう。最後のときまで」
ぎゅっと手に力が込められ、私もそれに応えるように彼の手を握り返した。大きくて力強い手に、京が男の子であるということをあらためて思う。そして、なによりも心強く感じた。
プアン、と。
道路を走るトラックが何台か通り過ぎていったそのとき。
一瞬通りの向こう側、トラックとトラックの隙間に、誰か見知った人影を見たような気がした。
はっとして声をあげようとした次の刹那、背後から何者かによって腕を掴まれそうになった。けれど、私は衝動的にそれを振り払い、危険を承知で道路へと駆け出した。
「――――朔!!」
叫んだのと同時に、彼がこちらを見た。
そして驚愕の表情が彼の顔に浮かんだと思った、次の瞬間。
私の意識は暗転した。
七章終了です。お疲れ様でした。




