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世界の終わり、茜色の空  作者: 美汐
第七章 彼のいない世界
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彼のいない世界2

 朔の家は、街の東側にある古くからある住宅街のなかにあった。『柏木(かしわぎ』と表札が出ているその家は、白とグレーのツートンカラーで、辺りの家と比べても瀟洒な雰囲気を醸し出していた。


「土曜日だし、誰かいるよね? 車もあるみたいだし」


「そうだな。朔もいるといいけどな」


 さっそく私は門柱につけられているインターホンを鳴らしてみた。しばらく待っていると、インターホンの機械の向こうから声が聞こえてきた。


「はい、どちら様ですか?」


 声の感じから、たぶん母親だろう。私は少しだけ緊張しながら話し始めた。


「あ、突然朝からすみません。私たち、朔くんのクラスメートで、ちょっと彼に会いに来たんですけど、朔くんいますか?」


 すると、少し妙な間があり、それから不審そうな声が機械のなかから聞こえてきた。


「……朔? そんな子うちにはいませんけど?」


「……え?」


 一瞬息が止まった。


「いないって……出かけているってことですか?」


「そういうことじゃなく、うちに朔なんて子供はいません。なにか違うお宅と勘違いされてるんじゃないんですか?」


「え? そんなはずは……。だって確かに以前この家に朔くんは……」


「すみません。今忙しいので、もういいですか? とにかくうちにはそんな子はおりませんので」


 そして通話はプツッと途切れた。最後は少し口調に怒気が含まれていた様子だ。


「え……? なにこれ? どういうこと?」


 わけがわからなかった。確かにここは朔の家のはずだ。『柏木朔』は以前ここに住んでいた。それを私たちは知っている。なのに。


「……まさか」


 京は一言だけ呟くと、絶句したようにその場で固まってしまった。






 念のために、その近所の家も何軒か訪ね、柏木朔という男の子を知らないか訊いてまわった。しかし、誰に尋ねても『知らない』という回答しか得られなかった。

 クラスメートの子たちにもLINEや電話で同じ問いをしてみたが、答えはいずれも同じだった。

 私たち以外の誰も朔を知らない。

 そんな信じられない状況に、私と京は愕然とした。

 ただひたすらにショックで、しばらく道端で呆然と私たちは立ち尽くしていた。


 嘘だ。

 嘘だ嘘だ嘘だ。

 みんなして私と京を驚かそうとして、わざとそんなことを言っているのだ。きっと朔が企んで、みんなにそうさせているんだ。

 いつものいたずらのように。

 私たちをびっくりさせようと。

 そうに決まっている。

 だって、あるはずがない。

 そんなことがあるはずがないんだもの。


 朔がこの世界からいなくなってしまったなんて――。


「……まだ」


 ぽつりと。


「まだわからない」


 顔をあげて京を見た。そこにあったのは、真剣になにかを考えている表情。


「なぜこうなってしまったのか。僕らの前からどうして朔がいなくなってしまったのか。今はなにもわからない。だけど、少なくとも茜と僕のなかには朔の存在が残っている。朔はまだきっとどこかにいる。そう思う。……根拠はどこにもないけれど」


 込み上げてくる思いが、胸を熱くする。

 悲しくて、怖くて。どうしようもなくなにかに急き立てられているようで。

 じわりと目からこぼれ落ちる熱いものとともに、私は京にうなずいて見せた。


「捜そう、一緒に」


 京が私に目を合わせた。そこに映るのは、きっと同じ思い。同じ願い。


「この街のどこかにきっと朔はいるはず」


 なんの根拠も確証もない。

 だけど、私たちの記憶のなかには確かにいるのだ。


 朔。

 あなたを捜す。見つけ出す。

 まだ会って話したいことや聞きたいことがいっぱいある。

 だからきっと――。



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