表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の終わり、茜色の空  作者: 美汐
第七章 彼のいない世界
29/43

彼のいない世界1

 朝の光がカーテンの隙間から部屋に差し込んでいた。ちらちらと踊る小さな埃が目に映る。やかましく鳴っているのは聞き慣れた電子音。ぼんやりした頭のまま、目覚まし時計のアラームを止める。そして両手を見つめ、自分の体が存在していることを確かめた。


 生きている。

 世界はまだ存在している。


 スマホの日付を確認し、また前回と同様、過去にタイムリープしていることが夢ではなかったことを認識した。


 昨日の夜、京に電話をし、再びタイムリープをしたことを互いに確認しあった。しかし、前回とはなにかが違っていた。朔にも電話をかけようとしたのだが、なぜか私のスマホのアドレス帳から、朔の名前だけが消えてしまっていた。

 おかしいと思い、京にも訊ねたが、なぜか京のほうも朔のアドレスだけが消えていたようだった。

 すぐにでも京と会って相談したかった。けれど、前回もそうだったが、どうもタイムリープの直後は全身がだるく、とても眠かった。たぶんこの日の前日に夜更かしをしていたせいだと思う。

 とりあえず、日付はまた前回と同じ10月24日の三日前、21日の夜に遡っていることは確かなようだった。またくわしいことは次の日会って話そうと約束して、昨夜は電話を終えた。


 考えることは山ほどあった。

 再び起きた世界の終わり。タイムリープ。朔のこと。

 けれど、どうしても強力な眠気には勝てず、私は一晩を無為な睡眠に費やしてしまった。

 こんな大事なときに快眠してどうするのか。自分の規則正しすぎるバイオリズムを責めたい気分だ。

 それはともかく、急いで出かける準備を整えた私は、逸る気持ちを抑えながら外に出た。






 朝陽公園に到着すると、すでに京が公園内のベンチに座って待っていた。

 麗らかな日よりは前回と同じである。青い空には以前にも見た一筋の飛行機雲。同じ朝の時間。以前も吸ったことのある空気。けれど、なにかがどこか違うような気がするのはなぜだろうか。


「おはよう」


「おはよう」


 互いに簡単な挨拶を交わしてから、再び口を開くまでに少しの沈黙があった。山ほど話したいことがあったはずなのに、いざ話そうとすると、なにから話せばいいのかわからなくなってしまったのだ。もしかしたら京もそうなのかもしれない。


「また……」


 先に口火を切ったのは、今回は京のほうだった。


「時を遡ったんだな。僕たちは」


「うん」


 時を遡るなんて普通では信じられないことだけれど、二度目ともなると、前回よりも落ち着いて状況を受け入れることができる。人間の順応能力とはすごいものだ。


「でも、前回とはなにか違うみたいだね」


 再び世界の終わりを体験し、時を遡った私たち。しかし、それよりもなによりも、一番に気になっていることがあった。きっとそれは京も同じだろう。


「どうして朔はあのとき捕まったんだろう? それに、どうして連絡が取れなくなっているんだろう? あの人たちは何者? あの鈴って子はいったい……」


 口にしたら、疑問が一気に吹き出した。頭の中は整理がつかずにこんがらがって飽和状態である。救いを求めるように京の顔を見つめると、京もまた、いつも以上に眉間に深い皺を刻んでいた。


「まあ、とりあえず落ち着いて話そう。僕も自分のなかでこの状況を少しずつ整理しているところなんだ」


「あ……。そう、だね。まずは落ち着かないとだね」


 やはり京はこんなときでも冷静だ。そのことが、こんなときだからこそありがたく感じた。


「まず、僕たちの今の状況を把握するために確認をしておこう。今日は世界が終わりを迎えた10月24日より二日前に当たる10月22日。そこは間違いないよな?」


「うん。私たちはまたあれから時を遡ったんだね」


「そう。そこについては前回と同じだ。けれど、前回とまったく同じではない状況も発生している」


「朔のことだよね」


「ああ。朔と連絡がつかない。たぶんタイムリープ直前のあの出来事がなにかしら関係しているんだろうが」


「なんだったんだろう。あの人たち。見たこともないような服装をしていたし、見間違いじゃなかったらあれ……突然消えたよね?」


「見間違いではないと思う。なにかしらのトリックか幻を見せられていたのかもしれないが、少なくとも僕も確かに目にした。茜一人の気のせいだけでは片付けられないだろうな」


「あとは、あの鈴っていう子のこと」


 私は思わず唇を噛み締めた。


「彼女、嘘をついてたんだよね。だって、絶対前から朔のことを知ってた感じだった」


 嘘をつかれたということと、無理遣り朔を連れ去った首謀者が彼女らしかったことから、私は彼女に対して胸にくすぶるものを感じていた。


「サクヤと」


 京がぽつりと零す。


「朔のことを呼んでいたな、彼女」


 サクヤ。

 遠い響き。

 私の知らない人物の名前。


「なんでそんなふうに呼んだんだろう。朔、なにかネット上とかでそんな名前使ってたのかな?」


「さあ、どうだろう。いずれにしろ、彼女は以前から朔のことを知っていた。そのうえで僕たちに近づき、朔のことに探りを入れてきたわけだ。どういうつもりかわからないけど」


「なんか、嫌な感じだよね。それって」


「まあな。事情を知らないからそう思うだけかもしれないが」


 そんな京の言葉は、私には随分お人好しに思えた。


「とにかく、朔に会いにいかない? 電話に出ないなら直接会いに行くしかないと思うんだけど」


「そうだな。家は前に何度か遊びに行ったこともあるからわかるしな」


 そうして私たちは、朔に会いに彼の家へと向かうことにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ