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世界の終わり、茜色の空  作者: 美汐
第六章 Repeat the last day
28/43

10月24日 PM17:00 終わりのとき

 夕陽に染まる街が美しかった。

 茜色の海が遠くに広がり、山の峰が陰影を濃くしていた。

 学校の屋上は閑散として、冷えた空気が辺りを吹き晴らしていた。寂しいけれど美しい光景。悲しいけれど、愛おしい時間。

 私たちは、運命のときを学校の屋上で過ごすことに決めていた。

 授業が終わると、私たちは他の人に見つからないように、こっそりと屋上にやってきていた。


「もうすぐ世界が終わるね」


「もしかしたら、だろ」


 フェンスの向こうに広がる景色を見ながら放った私の言葉に、京がすかさず付け加えた。

 夕陽が次第に西の山の峰に近づいてきている。固唾を呑んで私たちはその光景を見守る。


「時間を止めることができたらな」


 朔がぽつりと漏らす。同じ思いを私も抱いていた。

 時間が止まればいいのに。

 今、この瞬間の愛おしさを永遠に留められたらいいのに。


 胸が熱くなり、堪えきれずに目の奥に涙が溜まった。

 世界が終わろうとしているかもしれないことに、私たち以外の誰も気付いていない。

 きっと知らないほうが幸せだ。

 そんなことは、知ったところで抱えきれない。どうしようもできない。

 ただ私たちには受け入れることしかできない。

 愛おしい世界の記憶を刻みつけることしか。


「茜」


 そのとき、京の声が耳に届いた。

 なにかと思って振り向くと、そこには真剣な顔をした京の姿があった。

 そしてはっとする。一昨日の夜のこと。あのとき聞けないままだった続きの言葉。


「この間言えなかったことを、これから言おうと思う」


 私はすぐに、胸が激しく高鳴るのを感じていた。そして、おばあちゃんの言葉を思い出す。


 ――自分の気持ちに嘘だけはついちゃいかんよ。


 京の顔を見つめる。そこに嘘の色は見出せない。私はゆっくりとうなずいて見せた。


「……茜。僕は」


 京が一つひとつの言葉を懸命に紡いでいた。その懸命さをしっかりと耳に宿そうと耳を澄ませる。


「僕は、ずっときみのことが……」


 京が次の言葉を口にしようとした、そのときだった。

 突然屋上に通じている扉が開いた。と、そこから何者かが飛び出してきた。


「――カクホ!」


「カクホ!」


 なにが起きているのかわからなかった。

 サングラスのようなものを顔に装着し、ぴたりとした白いボディスーツのような服装をした男二人が、突如こちらに近づいてきたのだ。

 そして、京の傍らに立っていた朔を取り囲み、両腕をがっちりと捕らえたのだった。

 目を白黒させていると、もう一人違う人物が私たちのほうへと近づいてくるのが見えた。


「ようやく見つけたわ。随分手こずらされたけれど」


 印象が前と違っていたので、最初私は同一人物だとはわからなかった。


「あなたは……鈴ちゃん……?」


 昨日出会った秋野鈴という少女だった。しかし、ツインテールの髪型こそ同じだったが、その口調や顔つき、雰囲気は、昨日とはまるで違っていて、かなり大人びて見えた。

 そして、鈴という少女が目の前に現れた瞬間、もう一つ大きな異変が起きた。


「う……わああああああああああ!!」


 誰かの叫び声が屋上全体に響き渡る。

 驚いてその叫び声をあげた人物に目をやると、私以上にその本人が驚愕の表情を浮かべていた。


「朔……?」


 驚きと怯えとが入り交じったような彼の表情は、それこそそのとき初めて目にしたものだった。朔は鈴の姿を見ると、頭を激しく左右に振り回しつつ、自分を捕らえている男たちから逃れようともがいていた。


「もう逃げられないわよ。あなたはここにいちゃいけない人間なの」


 鈴の冷徹な声が響く。冷たい刃のように。

 そして、鈴は朔に向けてその言葉を口にした。


「サクヤ」


 刹那、彼らを形作っていた輪郭がぼやけ、驚きで声を失っている私と京の目の前で、そのまま彼らはその場から姿を消した。


 しん、と。

 風が私たちの間を通り抜けていった。

 屋上には、私と京だけが残されていた。

 なにが起こったのかわからないまま、けれど、時間は無情にも運命のときを迎えようとしていた。

 無言のまま、私と京はその光景を見つめる。


 そして、西の山の峰に、世界最期の太陽は身を沈めた。



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