epilogue(後味の悪いエンドロール)
ある日の朝、公園で。
わたしと父は決断をした。
母さんとの離婚。
狂信者とは付き合えない。
父と相談して決めたことだ。
「正直母さんには改心してもらいたかったんだがな」
疲れた感じで父さんが言った。
何度も母さんを説得しようとしたんだが全部失敗したんだという。
父とともに自宅に帰る。
母さんと顔をあわせるのが憂鬱だ。
父さんと一緒にリビングに入る。
母さんはいた。
母さんはわたしに気づくと
「あんた何日もどこ行ってたのよ! 教会にも顔出さないで! おかげで大変よ。あちこちからお宅の娘さんは不信者ですねなんていわれて!」
「教会に顔なんて元々出してないでしょ。何言ってんの? ていうかその狂信的な態度いい加減やめなよ」
「なんですって!?」
「やめないならわたしにも考えがある」
「は!? 餓鬼に何ができるっていうの?」
母さんが嘲った。
「まさみ」
わたしの後ろから顔を出した父さんが母さんの名前を呼ぶ。
「和矢さん?」
母さんがそれに目を開く。
和矢とは父さんの名だ。
「俺も母さんにはこれ以上宗教にのめりこまないでほしい」
「何を言ってるの? 私の信仰を妨げようというの? はっ!? 所詮は神を知らない愚民ね!」
「俺は一度冷静になって周りをよく見ろと何度も言ったはずだが」
母さんの言動を父さんが一度窘めるが聞きやしない。
「それで、どうするのかしら? 私を追い出す? 教会の神父が黙ってないわよ!」
両手を広げて大仰な態度で母さんが言う。
出来れば穏便かつ、母さんが冷静になってくれることを願ったのだが、どうも無理そうだ。
「そんな妄想が果たして現実になると思うの?」
教会なんて言ってるがその実はただの新興宗教の団長である。
「はあ、何言ってんの? 私は教会でとても信心深い信者だって評判なのよ! 信者揃って私を擁護してくれるわよ!」
前よりも狂信的になって手の施しようがない。
性格は傲慢になり、言ってることがハチャメチャ。もはや論理もクソもない。
「しまいね」
わたしは父さんと目配せして呟いた。
「仕方ないか」
父さんは憂鬱そうにつぶやいた。
どこで間違ったのか、父さんが母さんと結婚した時はこんな性格ではなかったはずだ。
「まさみ、その狂った態度を改めない限り、この家からは出てってもらうよ」
「クッ!? あなたまで私を突き放すのね」
「俺は何度も言ったぞ、その狂信をやめろってね」
「はん! 知らないわよそんなの!」
そう言うと母さんはそのまま荷物をまとめて家を出て言った。
狂信者も家から出てって、環境的には問題はなくなった。
しかし、家族と上手くいかずそのまま縁を切るような形になりわたしの心にはぽっかりと穴が開いた感じになってしまった。
父さんもそうだろう。
しかし、わたしと父さんにとって母さんの行動はとても看過できなかった。
狂信者だなんてご近所周囲の反応は悪くなるし、変な噂は流れるわ(基本的に母の噂は事実であった)で、とても迷惑であった。
★
「そんなわけで母とは上手くいかず、そのまま別居ってことになった」
『は!?』
昼休みの学校で輪花から爆弾発言を聞かされ俺たちは驚いた。
「マジかよ……」
「マジです」
とても微妙な気分だった。
今回の件は家族関係だったため、俺たちはほぼ協力できなかった。せいぜい相談にのるぐらいしか。だから直接的に何か出来なかったことが悔やまれる。秋葉原のアニメイトとかにいるあのエセオタ宗教勧誘詐欺野郎どもだったら撃退できるんだがな。
この件はとても後味の悪いまま終わろうとしていた。
「まあ、色々と迷惑かけたけど、みんなありがとう」
「いやいや、こっちこそ、何も協力できなくて、ごめん」
「そんな大丈夫だよ。気にしないで」
輪花はそういうが、俺達は何も出来なかった。なのでお礼を言われても罪悪感が湧いてしまう。
神崎家の件はとても微妙な終わり方になってしまったが、これから関係を回復させる機会もあるかもしれない。
「今度また何か困ったことがあったら、相談してくれ。次こそは輪花の力になりたい」
「うん、わかった」
とりあいず第二部はこれで完結です。何か微妙に切り悪いですが、家族関係や人間関係どうしてもどうにもできないってことあるじゃないですか。後味の悪い方が印象に残ると言いますしね。それを狂信的な宗教の信仰を持つ母親とそれに対立する娘というモチーフで宗教勧誘の迷惑行為を訴えたかったんですが、書いてて気づきました。家族関係と迷惑勧誘両方くっつけてテーマにするのは難しいと。主人公介入しづらくなっちゃうんですね。これが迷惑勧誘だけ訴えてるのならまだ書きやすかったんでしょうが、結果今回肝心の事件解決にはあまり主人公の美里君関わってないし、事件は自然解決した感じになっちゃいました。なお第二部は完結しましたが一応まだ連載は続けて行きます。多分今まで以上にマイペースになりますが。




