母娘の対立
今回は輪花視点の話です。これから輪花視点の回などがしばしばあると思います。
夜九時。わたし神崎輪花は帰宅した。
門限はとっくに過ぎている。
母が勝手に決めたことだ。わたしが守る義理はない。
きっと口うるさく何か言ってくるだろうが余裕で無視する。
リビングに入る。母がいた。うわぁ。
「遅い! 何してんの! 門限過ぎてる!」
「別にあたしの勝手でしょ。門限だってあんたが勝手に決めたことだし、あたしは知らない」
「母親が決めたことを子供が守るのは当たり前でしょ!」
「娘の前で親であることを自己主張とかマジキモい」
「何その態度!? あんた最近調子乗りすぎよ!」
「だったらなんなの?」
すっごい目つきで睨んでる。まるで亡者を地獄に送る閻魔天のようだ。
でも知らない。スルーすればいいだけだし。
家事もしない、料理もできない。やってることと言えば真昼間からどこぞの怪しげな宗教組織で怪しげな宗教勧誘をしてるだけ。いづれ最後の審判が起きる! だからあなたも悔い改めて改宗するのです! と、どこぞの魔女教の大司祭なみの狂信者ぷりで。
「あんたまた最近わたしがダメって言ったもの読んでるでしょ」
「勝手に入ったの? 最低」
うかつだった。自室の鍵をかけるのを忘れたのかもしれない。わたし以外で鍵を持ってる人間はいないので母が侵入することは不可能だ。
母は全ての規律を聖書で決める。だから聖書の掟にそぐわないものを読んだり見たりすることを許さない。だから隙をみてたまにわたしのプライベートに土足で踏み込んでくることがある。本当に迷惑だからやめてほしい。というかいつ死ぬのこの邪魔でしかない肉塊は。
「質問してるのこっちよ」
母が言った。
「だったらなんなの?」
さっき言ったセリフを再び口にする。
「捨てなさい」
「は? するわけないでしょ」
母が言ったのはわたしが集めている漫画や小説のことだ。主にファンタジー系の。
「ていうかいい加減にしてくれない。ありもしない無価値な存在を信仰するのは構わないけど、それにわたしを巻き込まないで」
「あんたねえ……」
閻魔天さながらの憤怒相がいっそう険しくなった。
テーブルの上に置かれた夕食を手に持つ。このクズの無駄の話に無駄な時間を費やすわけにはいかない。とっとその場をはなれるにかぎる。
リビングのドアを開けて自室がある二階へ上がることにした。
わたしはオカルトが好きだ。オカルトと言ってもホラー系のものではない。寧ろそういうジャンルのは苦手だ。魔術や呪術、神話とかの話だ。最初はただ興味があった程度だったが母がクリスチャンであるためわたしのその興味は母と軋轢を生んだ。そして、しばしばわたしと母は対立するようになった。だから天使などの聖なる存在よりも悪魔や鬼みたいな邪悪な存在が大好きだあり、ゆえにわたしは魔王サタンなのだ。
魔王としてのわたしは母への対抗としての証。勿論自分が魔王などという幻想的かつ非現実的な存在であるなどと本心から思ってるわけではない。母への対抗。自分の身を守る盾。左眼につけた眼帯。中二病。全てわたしの武器であり防具なのだ。