神崎輪花の意外な一面
ゴキブリ騒動が落ち着いた後皆自由に思い思いのことをし始めていた。
夕衣はVitaで巨人を駆逐中。出来ればGを駆逐してほしかったよ!
そして、雪姫は堂々と薄い本を読んでいた。先生来たらどうすんだよ。
で輪花はPCで何かやってる。時々クスクス笑ったりしている。かなり楽しそうだ。
「何やってんだ?」
「あ、先輩」
PCを覗き込んでみる。
「『小説家になろう』か?」
「うん」
眼帯を外して左眼を露出した輪花が頷く。
ちなみに眼帯は机の上に置いてある。
「小説家になろう結構読むのか?」
「うん。先輩は?」
「俺も読むけど、俺は書くのが主だな」
「先輩も書くのであるか!?」
興奮気味に輪花が言った。
「うん」
「やったー! 嬉しい!」
「つっても俺のは趣味だぞ」
「それでもいいよ! ペンネームは? どんなの書いてるの!?」
「主にファンタジー系の作品ばっかだよ。ペンネームはミサト」
「へえ、ファンタジー系の。ところでペンネーム苗字とそのまんまなのね」
「考えんのがめんどくて」
実は最近俺と同じユーザーネームの人が多くてペンネームを変えた方がいいのではないか、と悩んでたりもする。やはりもっと変わった名前でないと駄目なのかな。
「えっとちょっとPC借りていいい?」
「うむ、よかろう」
俺が聞くと、輪花が大仰に言った。
「というかそれ学校のなんですけどね」
そんな輪花にVitaで絶賛巨人を駆逐中の夕衣が突っ込んだ。
「……あっ、うん、そうだね」
輪花が困った表情を浮かべて言った。
まあ、PCがデスクトップである時点で輪花の私物ではないことは明白だったが。
「はい」
輪花がマウスを渡してきた。その際に輪花との距離がかなり縮まる。肩と肩が僅かに触れ合う。思わずドキッとしてしまった。
「どうしたの?」
「……うん? ああ、何でもない。ありがとう」
どうやらいつの間にかに輪花に見入ってしまっていたらしい。危ない危ない。マウスを受け取りPCへと向く。
適当な作品名を入力して検索。まだ、名前が売れてない俺はペンネームで検索してもロクに出て来やしないのだ。
「出てきたぞ」
「どれどれ~」
輪花が興味津々とPC画面を覗き込む。
ちなみに作品ジャンルは今なろう内で流行ってる異世界ものだ。いやだいぶ前から流行ってるが。
正直作品は趣味で書いているから個人的な趣味趣向が全開だ。だから異世界転移とかの要素も入っている。面白いかどうかは正直怪しい。
「ふむ、我は驚愕したである」
しばらくすると作品をキリのいい話まで読んだ輪花がこっちに顔を向けて言ってきた。
「面白かったか?」
「うむ。我が書く作品より断然面白いのだ」
「それは素直に喜んでいいのか?」
「うむ。先輩は我がライバルである」
「そうか。ちなみにどこが面白かった?」
「キャラが良かったのだ。特に主人公の星華が格好よかった。でも先輩は男子なのに女子の視点で書くのは大変であろう?」
「まあ、というかほとんど妄想だし」
作法も何も知らずに書いた小説だ。別に将来は作家を目指してるというわけではない。いやいづれはそうなるかもしれないが。俺ラノベ好きだし。
「わたしが教えてあげてもいいよ」
俺の答えに輪花がボソッと耳元で囁いた。その口調は小悪魔の誘惑ようだった。輪花の息が俺の耳元を嬲り、身体が強張った。再び鼓動が激しくなる。そういう仕種をとられると本当心臓に悪いです。
「なん~てね」
てへぺろと可愛く舌を出して言った。
「あんま男をからかうなよ……」
恨みがましく輪花を睨む。だが別に本気で恨んでるなんてことはない。
輪花みたいな性格の娘は俺は嫌いじゃない。ていうか好きだわ。
まったくなんて可愛いやつなんだ。
俺はこの娘をなんでこんなに可愛いと思うのだろう。