大切だからこそ1
セイレイは弓を構え、矢を番えた。
そして、タイミングを計って矢を放つ。
矢は風を切り、真っ直ぐに猪に向かって飛んでいく。
そして、猪を射抜いた瞬間、セイレイは持っていた弓を仕舞い、腰に挿していた短刀抜き出し猪に向かって走り出す。
猪は自分に襲い掛かる者に反撃しようとするが、相手が悪かった。
セイレイはあっという間に距離を詰めると短刀を振り下ろし、猪を絶命させる。
「よしっ!ごはんゲットっ!」
「何がよしだよ。」
セイレイの言葉に落ち着いた声音が聞こえた。
「何だよ、ミュート。」
「君は甘い。」
「何が?」
「一瞬だけど、戸惑っただろう。」
「……。」
ミュートの指摘にセイレイは黙り込む。
「そんなに嫌なら僕に任せればいいんだ。」
「ヤダよ。」
セイレイは唇を尖らせながらミュートの言葉を否定した。
「何でだ。」
「ミュートはあんまりお肉とか苦手なのに、俺の為に命を奪う行為をしてほしくはない。」
「だがな。」
「大丈夫、一瞬、こいつに子供がいるように見えた気がしたから、戸惑っただけ、悪かったな心配かけちゃってさ。」
「レイ。」
「さーて、早く戻らないとクレア姉ちゃんが心配しているよ。」
「……。」
「ミュート?」
自分の大きさ程のある猪を背負いあげ、セイレイは黙り込むミュートを見る。
「どうした?気分でも悪いのか?」
「いや、何でもない。」
「そうか?」
セイレイが迷惑を掛けさせたくないからと里を出ようとして一年と少しという月日が流れた。
そして、その亀裂はエルフの生き方の考えを改めるきっかけとなろうとしていた。
ある者は積極的に外の世界に出ようとしていたし、ある者は人間と添い遂げた者もいた、少しずつだけどエルフの中でも外へと出ようとする者も出て来た。
それはいい変化なのか悪い変化なのか誰も分からないが、それでも、外とのかかわりを持つ事で色々な考えを持ち始めた。
そんな中ミュートは恐れていた。
セイレイが自分に見向きをしなくなる事を。
だから、必死になってセイレイの行動に手を出そうとしていたが、そんなミュートの考えをセイレイは知る由もなく、彼を思って思った事を口にする。
「……ト……-ト?ミュートっ!」
「うわっ、何だ。」
「何だはこっちだよ、何回呼んだと思ってるんだよ。」
「すまなかった。」
「まあ、いいんだけど、今日さ、クレア姉ちゃんの所に行くから。」
「はぁ、僕はそんな事聞いてないぞ。」
「仕方ないだろう、今朝、クレア姉ちゃんが提案してきたんだし。」
「なら、僕も。」
「だーめ、クレア姉ちゃんは俺一人でって言ってから。」
「だからって。」
「ミュートさ。」
「何だよ。」
セイレイはジッとミュートを見つめ、ふっと苦しげな表情を見せた。
「俺の所為だよな。」
「えっ…。」
「何でない、悪いけど、帰るのは明日の朝になるから。」
「レイ。」
「あっ、やべ、先行くな。」
猪を担いでいるというのにいつも通りに走るセイレイをミュートはただただ見つめる事しか出来なかった。