相容れぬ存在2
その場に集められたエルフは老いも若きもなく、この里にいる全てのエルフだった。
「皆の衆、今日は集まってくれてありがとう。」
「何がよ。」
「無視したら怒鳴り散らす癖に。」
「本当にあの男と結婚したマーサが可愛そう。」
「ええ。」
クレアの仲のいい友達がそんな事を言い合っていると、少し離れたところにミュートがいて、何故かあの男を睨んでいた。
「ちょっと、ごめんね。」
クレアは友達に断りを入れて移動し、ミュートに話しかける。
「ミュートちゃん。」
「……。」
「どうしたの?」
「あいつ、レイを…。」
「レイちゃんを?」
「今日の集まってもらった理由はついにあの人間を追い出そうと思うっ!」
男の言葉にクレアの体が強張る。
「あの人間は昨日、おれの息子を脅した、そして、それを他の子どもも見ていたんだ、これ以上あの人間が我が物顔で歩いていいだろうか、駄目だろうっ!」
男の言葉に数人のエルフが賛同するが、残りのエルフは男を睨んでいた。
そして、クレアは昨日のセイレイの怪我を思い出す。
「異議ありっ!」
クレアは目を吊り上げ、立ち上がる。
「何だ、お前は。」
「セイレイは悪い子じゃない、我が物顔で歩いている?どこがよ、あの子は自分の立場を重々理解しているわ。」
「そうよ、水汲みだって邪魔にならない時間を選んでいるし。」
「ちゃんとお礼だって言える子よ。」
「お前らの子どもよりずっと信頼ができる。」
「何だと。」
怒る男にクレアは睨む。
「昨日、セイレイに怪我を負わしたのは誰っ!」
「はっ、怪我だと、そんな知らせはしらん、どうせ、勝手に転んだんだろう?」
「あの子は自分で転んだと言ったわ。」
「はっ、話にならん。」
「ただし、その時明らかに嘘を吐いているのを知っている。」
「本人がそう言ったんだろうが。」
「転んで額に怪我すると思うっ!」
「するんじゃないか?」
「転んだ時、普通なら手をついたり、膝をつくわよ、なのに、服には砂一つついていなかった。」
「お前の見落としだ。」
「どうして、決めつけるのよ。」
「おれの息子を嘘つきにしたいのかっ!」
「そっちこそ、セイレイを悪者にしたいのっ!」
「ああ、したいな、そして、あんな短命なんてさっさと追い出せ。」
クレアは怒鳴ろうと口を開けると、幼馴染の男に止められる。
「落ち着け。」
「何するのよ、貴方もあっちに味方する気!」
「する訳がない。」
「なら、何で。」
「お前が冷静じゃないからだろうが。」
「……。」
幼馴染の彼に言われ、クレアは深呼吸をした。
「昨日、何があったのよ。」
「息子は言った、行き成りあの短命は木刀を向けて来たってな。」
「……その前後は?」
「行き成りと言っただろう。」
「理由もなくあの子が木刀を向けると思うの?」
「勿論だ。」
クレアは本気で魔法をぶっ放したいと思ったが、そんな事をしてもどうしようもないと知っているので、我慢をする。
「それで、誰か傷ついた?」
「息子や他の子どもの心が傷ついた。」
「いい加減に……。」
「いいかげんにしろよっ!」
クレアが怒りをぶつける前に横にいた小さなミュートが涙を流しながら怒鳴っていた。
「レイはそんなことしないっ!」
「だがな。」
「どうせ、おまえら、いつもみたいにレイのわるぐちをいっていたんだろうっ!」
「何の言いがかりを。」
「いつもそうだ、レイはじぶんのことはむししてた。」
「ミュートちゃん……。」
「レイはいつも、いうんだ、ぼくに…、「いいんだ、おれは、にんげんだから、いつか、ここから、でていくから」ってほんとうは、みんなといたいのに、なんで、レイをおいだそうとするんだよっ!」
「……。」
セイレイと仲良くしているエルフは息を呑んだ、まさか、あんな幼い子どもがここまで考えているとは思ってもみなかったのだ。
「孤児が…いい加減にしろ。」
「あんたねっ!」
「いい加減にしなさいよねっ!」
「好きで親を亡くしたわけじゃないのにっ!」
男の言葉についに女性のエルフが切れた。
「あんたみたいな奴がいるから、子どもに悪影響を与えるんでしょうが。」
「本当だよ。」
「……。」
クレアはその言葉にハッとなる。
「まさか……。」
クレアはつかつかと歩き出し、男の子どもに詰め寄る。
「貴方、セイレイにミュートの事を「孤児」とか、言ったの?」
「――っ!」
息を呑む少年にクレアは目をきつく瞑る。
「……セイレイは悪くない。」
「何故だ。」
「先ほどの女性のエルフの起こり具合を見れば分かるでしょう、他を傷つけて怒らない者なんていない。」
「……。」
「セイレイが木刀を向けた理由、それはミュートの悪口を言ったから、だから、セイレイの追放はなしよ。」
「……。」
「もし、それでも、追放と言うのなら。」
クレアは周りを見渡し、殆どの女性エルフが立ち上がり、魔法を使う準備をする。
「わたしたちが相手になるわ。」
「くそ……。」
男は完全に自分の負けだと悟ったのか顔を顰める。
「ミュートちゃん、セイちゃんの所に行きましょう。」
「うん。」
クレアとミュートは手を繋いで彼らの家に急いだが、そこには誰もいなく、一つの書置きだけがあった。
「レイ?」
「………嘘…。」
まだ文字を完全に把握していないミュートはその文字を読めなかったが、クレアはその拙いけど丁寧で書かれた文字を読み、思わず口を押えた。
《ミュート、クレアお姉ちゃんへ
ごめんなさい
俺、皆に迷惑をかけてしまったよね
余計な手間を掛けないように出ていきます
大丈夫、体だって丈夫になってきたから
心配しないでください
ミュート、ちゃんとクレアお姉ちゃんの事をきくんだぞ
クレアお姉ちゃん、ごめんね、ミュートの事よろしくお願いします
セイレイ》
「皆に、伝えないとっ!」
クレアはミュートをその場に置いて、先ほどの集会場まで急いだ。