体力作りの理由
セイレイは木刀を手に持ち、それを振るう。
ミュートがこの里で一番魔法に詳しいカーシャというエルフに教わっている間セイレイはいつも体力作りの為に木刀を使っていた。
「セイちゃん。」
「あっ、クレアおねえちゃん。」
「頑張っているんだね。」
「うん。」
「でも、頑張りすぎて体壊しちゃだめだよ。」
「わかってる、からだをじょうぶ、にするために、やっているんだもん。」
「セイちゃん。」
「だって、おれのからだ、ミュートとちがうから……。」
「仕方ない事よ。」
「でも、すこしでもちかづきたいんだ。」
「うん。」
「それで、ミュートをまもりたい。」
「ミュートちゃんも同じ事思っていると思うよ。」
「うん、だけど、ミュートはまほーがとくいだから、おれがまえにでるんだ。」
しっかりと考えているセイレイにクレアは苦笑を浮かべて、頭を撫でる。
「体力作りもいいけど、文字のお勉強もしようか?」
「うんっ!」
セイレイは体を動かすのも好きだが本ももっと好きだった。
自分の知らない時代の知らない文化、もっと遠い土地のはなしや文字、計算とかは少し苦手だけど、外に出た時に必要だと分かっているので、セイレイは積極的に勉強に取り組んでいた。
「それじゃ、おれ、これしまってくるね。」
セイレイは笑って、木刀を自分の家に仕舞いに行こうと走っていたのだが、途中で足を止めてしまった。
「おい、あれみろよ。」
「タンメイじゃねぇか。」
「なんだ、あんなぼろっちー、ボロキレ。」
「……。」
セイレイは顔を顰めた、その顔をいつも無邪気な顔をしているセイレイにはあり得ない程険の籠った目をしている。
セイレイは深呼吸を一つして歩き出そうとするが、一人の子どものエルフが石をセイレイに向かって投げて来た。
「タンメイなんてこのさとからでていけっ!」
「おまえがきたから、おさがしんだんだ。」
「おまえのせいだ。」
「おまえのせいだっ!」
「……。」
セイレイは唇を噛み、そして、何の反論もせず、そのまま足を進めようとするが、石がセイレイの額に当たり血が流れる。
「ちだ…。」
「へー、タンメイの血も赤いんだな。」
セイレイの血を見て怖気づく者もいれば、強がる者もいる。セイレイは気にせず足を動かそうとした。
「あのコジもなんでおまえなんかに、かまうんだろうな。」
「そうじゃなきゃ、なかまにいれてやっても、いいんだけどな。」
「いっそのこと、あいつにもいし、なげようか。」
セイレイの中で何かが切れた音がした。
「ミュートにてをだすなっ!」
セイレイは木刀を構えた。
「な、なんだ、こいつ。」
「あいつに、てをだすな。」
「……。」
殺気立つセイレイに子どもたちは震えあがる。
「お、おれたちにてをだしてみろ。」
「おやじとかが、おまえをおいだすんだからな。」
「そのまえに、おまえらをたたきのめす。」
「ひっ!」
「うあああああん。」
「まてよ。」
セイレイの空気に呑まれた何人かが泣きながら逃げ出し、そして、残る面々も震えていて何もしない。
「……。」
セイレイは一瞥して、木刀を下げて、今度こそ歩き出す。
そして、クレアの元に戻って来たセイレイは彼女に額の傷を指摘されるが、慌ててたからこけたと言ったのだった。
クレアは訝しむのだが、セイレイが口を割ると思わなかったので諦めて、彼女は自分の家に連れていき額の怪我の手当てをした。
幸いにも傷は浅かったので治癒魔法も使う必要もなかった。
だけど、クレアはこの後後悔する、どうしてあの時無理にでもセイレイから額の傷の出来た経緯を聞かなかったのかと。