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二人の生い立ち

 セイレイは台所に立ち、昨日となりのエルフのおばさんからもらったパンをお皿に置き、その間に火の調子を見て程よく燃えていたのでそこにフライパンを置いて新鮮な卵を二つ落とす。

 ジューという心地いい音がセイレイの耳に入る。


「レイ、つくえ、ふいたよ。」

「りょーかい。」


 セイレイは火加減を見ながらフライパンに水を入れ蓋をした後、野菜を千切る。


「こっちはもうちょっと。」

「せんたくもの、あつめとくね。」

「きょうは、てんきわるいからいいよ。」

「えっ?」


 不思議そうな顔をするミュートにセイレイはキョトンとした顔をする。


「かんじないの?」

「……。」


 ミュートはそう言われ、目を閉じてみると確かに空に水が集まっているような気がした。


「ふるかも。」

「だろ?」

「でも、どうして、ぼくよりもはやく、わかるんだよ。」


 唇を尖らせるミュートにセイレイは首を傾げる。


「なんとなく。」

「……きみは、そういうやつだったね。」

「なんだよ、それ。」

「はいはい、こがさないでね。」

「うわっ!」


 少し目を離していた隙にいい色になっている目玉焼きにセイレイは驚きを見せるが、すぐに行動に移す。


「サンキュー。」

「きみってやつは。」


 どこか諦めに似た顔をしている。


「ねー、けささ、おおきくなったおれたちのゆめ、みたんだ。」

「……ぼくもだよ。」

「ミュートもっ!」


 大きな翡翠色の瞳を更に大きくさせるセイレイにミュートはその内落っこちてしまうのではないのかと不安になる。


「で?」

「で…って?」

「だから、どんなん?」

「おおきな、ぼくらが、まものみたいなのをたおしてた。」

「うーん、おんなじかな?」

「そのあとはなしをしてたら、あしもとがきえた。」

「おんなじ、みたい。」


 ミュートの言葉に頷くセイレイはフッと思った事を言う。


「あれって、おれたちのみらいなのかな?」

「さあね。」


 どこか冷たい物言いのミューズに少し前はこんなに大人ぶってなかったのにと、セイレイは思う。

 そして、どうして彼がそんな風になったのかセイレイは気づいていた。


 セイレイたちは孤児だ。

 セイレイは少し前に育ての親であるエルフから話を聞いていた。そして、その時二人は別々で話を聞いていた。

 セイレイが聞いた話はこうだった。


 育ての親が旅をして回っていた時に一つの村にたどり着く、そこは魔物に襲われた後でほとんどの人が亡くなっていて偶々生き残っていた人間はセイレイだけで、生き残ったエルフがミュートだった。

 本当は人間嫌いの育て親だったが、生まれたての子どもを放っては置けずどこかで子どもを欲しがる人にでも預けようとしたのだが、思ったよりもこの二人が仲好くなってしまった為に引き離す事が出来なくなったのだ。

 そして、エルフの隠れ里であるこの地に戻ってきて子どもたちを育てたのだが、一月前にその育て親は亡くなってしまい、二人はこの広い家で過ごすことになった。

 その時、セイレイたちを引き取ろうと声を掛けるエルフは大勢いたが、二人はこの慣れ育った家から離れたくなかったので、ある程度周りのエルフの協力を得て二人で住んでいた。

 因みに育ての親は料理が下手だった所為で、しかたなく、二人は料理を覚えていた。なにせ、育ての親の料理は運が良ければ黒焦げで、運が悪ければ腹を下すようなそんな料理を作る人だったのだ。

 それに家事も今一つで結局セイレイとミューズが家事を覚えていくしかなかったのだった。

 そして、育ての親が死んだ時二人は抜け殻のようになってしまった、何日も必要最低限の食事と睡眠しかとらない二人に周りのエルフは心配そうに見ていたが、先に前に進もうとしたのはセイレイだった。

 セイレイは枯れたと思われた涙をまた流し、そして、ミュートの世話を始めた。

 セイレイにとってミュートは最後の家族であり、彼が消えてしまうような気がして常に手を握っていた。

 だけど、セイレイがどんなに頑張っても五歳の子どもが体を壊すはずもなく、セイレイはついに体を壊し寝込んでしまった。

 熱でうなされるセイレイはミュートの心配ばかりして周りの女性のエルフ、特にクレアが切れた。

 クレアはつかつかとミュートに近づき彼に平手打ちをした。

 ミュートはそれでもぼんやりとしていたが、クレアは構わず彼に怒鳴った。


「セイちゃんが苦しんでるのに、貴方は何をしているのっ!」や「悲しいのは分かるよ、でも、セイちゃんだって悲しんでいるんだよっ!」、「セイちゃんはわたしたちと違ってか弱い人間なんだから、ここに来たすぐにセイちゃんいつも熱を出して死にかけたんだよ、それなのに…、いつも笑って、むしろわたしたちを心配して……それなのに、ミュートちゃんはずっと殻に籠っているのっ!」とミュートを叱咤した。


 その言葉にミュートが我に返る事はなく代わりに一つの涙がセイレイの頬を伝った。

 セイレイは「じぶんのことは、いい、ミュートをたたかないで。」と懇願する、そして、よたよたとミュートに近づき、セイレイは彼を包み込むようにして抱きしめた。


「ずっと、そばにいるから、おれは、そばにいるから…だから、そろそろ、おきて、おはなししよう?」潤んだ瞳でそう言うと、ミュートは何度か瞬きをしてその蒼の瞳にセイレイの姿を映す。 


 安心したのかセイレイはこの後ぶっ倒れて、三日三晩生死を彷徨って皆を心配させてしまったが、無事に彼らは乗り越えたのだった。

 そして、同時にミュートは自分が大人にならないといけないと思ったのかワザと難しい言葉を使おうとするようになるのだった。


「レイ?」

「なんでもないよ、あー、おなかすいた。」

「はこばないと、たべれないよ。」

「わかってるって。」


 セイレイはお皿を一つミュートに渡し、もう一つを持って自分の席につく。


「それじゃ。」

「「いただきます。」」


 二人は同時に手を合わせて食事を始める。

 まだまだ、朝は明けたばかり。

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