あれは夢かそれとも…
目を開けると知っているような、知らない天井で、セイレイは何度か瞬きをして横を見れば幼い銀色の頭が見えて、頭が覚醒する。
どうやら自分は夢を見ていたのだと気づく、夢の自分は今の自分よりも大きく隣に眠る少年も大きかったが自分よりも身長が低かったのを思い出しクスリと笑うと、どうやらセイレイが笑った振動でミュートが体を震わせる。
「う……ん…。」
「まだ、だいじょうぶ、だよ。」
ポンポンと優しく叩いてあげると健やかな寝息が聞こえる。
セイレイは完全に目が冴えてしまったのか、ジッとミュートを見つめる。
夢のミュートはまるで十七、八くらいの少年だった。だけど、髪の長さもその不思議な髪の色も、今は眠ってしまっていて分からないがアイスブルーの瞳も同じで、その尖った耳も同じだ。
セイレイはジッとまるで穴が開くのではないかというくらいで見つめ続けた。
そして、鳥のさえずりが聞こえるころになるとセイレイは起き出す。
シャツとズボンを着こみ、セイレイは外にある井戸に向かった。
小さな手では時間がかかるが、朝起きたらこれをするのは子どもたちの仕事だった。
「早いな、セイ坊。」
近くに住むエルフの男にセイレイは笑みを浮かべる。
「えへへ、まあね。」
「セイ坊がここに来てもう五年か早いな。」
男はポンポンとセイレイの頭を撫でる。
「おじちゃん。」
「お兄ちゃん。」
「おじ…。」
「お兄ちゃんっ!」
「……。」
黙り込むセイレイに男の頭に空の桶がぶつけられる。
「こら、セイちゃんを虐めないのっ!」
「クレア。」
「クレアおねえちゃん。」
「おはよう、セイちゃん。」
ニッコリと慈愛の含まれる笑みにセイレイもニッコリと笑い返す。
「いつつ…、何でおれがおじちゃんで、クレアの方がお姉ちゃんなんだよ。」
「そりゃ、日ごろの行いでしょ。」
「……。」
顔を顰める男にクレアは彼の背中を蹴る。
「ほら、さっさと行きなさいっ!」
「うおっ!」
男は顔を顰めるが、彼女に口で勝てた試しがないので、そろそろと動き出す。
「もう、本当にこの馬鹿は。」
ブツブツというクレアにセイレイは不思議そうに首を傾げる。
「ねえ、セイちゃん。」
「ん?」
「もし何かあったらいつでも、わたしたちに相談してね。」
「うん?」
クレアが何故そんなに必死になっているのか分からないセイレイは再び首を傾げた。
「レイっ!」
「あっ、ミュー…。」
「このバカ、何でいつもいつもぼくをおこさないんだっ!」
蒼い瞳に薄らと涙が浮かび、セイレイはオロオロとし出す。
「ミュート、なかないで。」
「ないて、なんか、いないよ。」
「ううう……。」
明らかに袖で涙を拭うミュートに今度はセイレイが泣きそうな顔になる。
「もう、ミュートちゃん、セイちゃん泣かせちゃ駄目よ。」
「だって。」
「セイちゃんはミュートちゃんに少しでも長く寝かせたいから気を利かせたんだよ。」
「いらないよ、そんなの。」
困ったようにクレアは笑い、そして、二人の頭を撫でる。
「本当に子どもね、二人とも……。」
どこか寂しそうに微笑む彼女に二人はキョトンとした顔をする。
「ほら、早くしないと遊ぶ時間が無くなるわよ。」
「あわわ。」
「レイ、いそぐぞっ!」
「うん。」
仲のいい二人は協力して井戸水を汲むと重くなった桶を代わる代わる運んでいく。
「……全てを慈愛で包む神よ、どうか、あの子どもらに祝福を与えたまえ。」
クレアは二人を見送った後手を組み、祈りをささげていた。